第三話 彼女との邂逅
「や、鳴海さん。今大丈夫かい?」
荒垣くんが例の転校生に声をかける。
「えぇ、大丈夫よ。えっと…荒巻くん。」
「ははは、惜しいなー。俺は荒垣だ。」
名前を間違えられていた。まぁ今日転校してきたばかりだし無理もないだろう。
それにしても、なんて綺麗な声だろう。見た目に違わず、とても澄んだ耳に心地よい声だった。
「あっ、ご、ごめんなさい。名前を間違えるなんて失礼だったね...」
鳴海さんがしょんぼりしている。大人びた見た目に反した子供っぽい仕草が、妙に可愛らしく見えた。
「なんだ...この気持ち...。なんだかなぁ...。」
香取はそれを見て感情の昂りをなんとか抑えていた。俺も名前間違えられてぇ...などと訳の分からない事を呟いている。こいつは危険だ。その内暴走する。
「まぁ気にしないでくれ。今日会ったばかりだしニアピンだっただけでも十分だろ。」
「うん...。ごめんね、でももう覚えたから。ところでそちらの方々は?」
と、鳴海さんがこちらに視線を向ける。
一瞬目が合った気がするが、すぐに目をそらされてしまった。
「あぁ、こいつらは...」
「は、初めまして!三組の、か、香取です!ゆ、ゆ夢はエベレスト登頂です!!」
「こいつの事は気にしないでね。私は中条日菜子。よろしくね、鳴海さん。」
緊張しているのか、訳の分からないことを口走る香取を押しのけて、中条が挨拶する。
鳴海さんも、登山が趣味なのかしら、と首を傾げている。
「僕は須藤剛。よろしく。」
僕もさっと自己紹介を済ませる。
「私は鳴海天音です。今後ともよろしくね。」
名乗り返す鳴海さん。名前まで可憐だ。
.....まずいな、思考が香取に似てきたかもしれない。
「とまぁ、全員の自己紹介が終わったところで、実は鳴海さんに聞きたい事があってな。」
荒垣くんが単刀直入に本題を切り出す。
「聞きたい事?何かしら。」
「ズバリ聞くけど、鳴海さんが霊能力者って噂、本当か?」
本当にズバリ聞いたな。いくらなんでもいきなり過ぎないか?
「...........。」
鳴海さんキョトンとしちゃってるし。
だ、大丈夫かこれ?失礼じゃないか?
「ふふっ、なんだ、その話か。」
笑いながら鳴海さんが答える。
どうやら機嫌を損ねてはいないようだ。
「そんなのデマだよ。そもそも私、幽霊とか信じてないし。」
「あ、そうなの...?」
「うん。さっきもそれ聞かれたよー。ほんと、どこからそんな噂が流れてるんだろう?」
「うーん...?なんか、風の噂?」
なんだ、結局噂は噂だったというわけか。本当に、一体誰がこんな噂を流したのやら。ちょっとがっかりしている自分がいた。
しかし、これでは中条の問題が解決しないという事になる。霊媒美少女に相談して、あわよくば問題解決まで漕ぎ着けないかと思っていたが、その計画は頓挫してしまった。どうしたものか。
「皆はオカルト部的な何かかしら?」
鳴海さんが尋ねてきた。
なるほど、たしかに多人数でそんなことを聞いてきたらオカルト好きの集まりと誤解されるのも無理はない。
「あ、そういう訳じゃないの。ごめんね、不躾に変な事聞いて。」
中条が荒垣くんをど突きながら謝る。
「何か訳ありかしら。よかったら話してくれないかな?」
鳴海さんは察しがいいようで、噂の事を聞いてきた理由が何か他にあると思ったらしい。
僕達は一度顔を合わせ、話を聞きに来た理由を説明することにした。