第二話 転校生、鳴海天音
「ほら、あそこの席だ。窓際の席の一番後ろ。」
僕達は二年二組の教室にやって来ていた。
荒垣くんが指差す方を見ると、例の転校生が座っている。周りには数人の女子生徒。
こんな田舎に転校生なんて珍しいから、質問攻めにあっているのだろう。
元々賑やかなクラスではあるが、いつも以上に教室内は騒がしかった。
それにしても、なるほど確かに。荒垣くんが言うだけの事はあって、転校生はかなりの美人だった。整った目鼻立ちに、よく手入れされているであろう長い黒髪。話している仕草一つ一つにも品があって、遠目に見ても華がある。
「うわ、やっべぇな。マジで超可愛いじゃん。やっべぇなぁ...。やっべぇ...。」
香取が語彙力を失っている。しかし、それほどまでに彼女が魅力的なのは確かだった。
「なんか見惚れちゃうわね...。もはや嫉妬心すらわかないわ。」
なんでも中条曰く、女子は中途半端な美人は嫌うけど、度を超えた美人は崇拝の対象になるらしい。
確かに崇め奉りたくなるオーラがある。
「しっかし取り巻きの連中が邪魔だなぁ…。俺もお近付きになりたいのに。」
「ミーハー連中はその内飽きていなくなんだろ。それより本題を忘れんなよ?一番重要なのは中条の事なんだから。」
香取が荒垣くんに釘を刺される。
「分かってるって。その辺はさすがに弁えてるよ。」
香取も珍しく真面目な調子で返す。
そう、隣のクラスまでわざわざ転校生に会いに来たのは野次馬根性からではない。
中条日菜子は、とある問題を抱えているのだ。
その問題というのが、俗に言う心霊現象というものである。
最初は、誰かにつけられているような気がする、というものから始まった。この東北の田舎町でも変質者というのは度々出没するもので、実際中条も中々可愛らしい容姿をしているので、そういった輩の被害に遭っても不思議ではなかった。しかし、気配を感じてもその姿を確認する事は出来なかった。姿が見えないので警察に頼ることも出来ず、ただ警戒しながら過ごすしかなかった。
しばらくはそれで様子を見ていたそうだが、次第に気配を感じる頻度が増えていき、何も無い所で異音がしたり(ラップ音と言うらしい)、果てには写真に人影のようなものまで写るようになってきた。
これは変質者などでは無いと気付き、お祓いなどもやってみたそうだが効果はなかったそうだ。そしてそんな生活を三年も前から、中条は続けていたのである。
そこに都合よく霊能力者と噂の転校生がやってきた。ダメでもともと、相談するだけしてみよう、という話でここまでやって来たのである。中条本人は「気にしていない」と言っていたけれど、なんだかんだでついてくるあたり、全く気にしていないという訳でもないのだろう。
「まぁ、そもそも噂が本当とは限らないんだけど...とりあえず話を聞いてみようぜ。よし、野次馬共が居なくなったぞ。」
そう言って中に入っていく荒垣くん。僕達も後に続く。
不謹慎にも、僕は退屈な日常の中のちょっとした変化に、ほんの少しだけ喜びを感じていた。