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第八話『サーキャを着た傭兵少女達』

修正以外の投稿は一年以上空いてしまいました。

投稿が遅れに遅れて本当にすいませんでした。

言い訳を言うと、この一年の間に出向と退職と引っ越しと就職があった所為でもありますし、構想が思いつかなかったからということもあります。

ホントにごめんなさい。


 そもそもの始まりはおよそ一ヶ月前、俺が皇城ズァルジフェンで侍女を装って侵入したアメリア=ガラルなる、第一皇子エンフィールに遺恨がある平民の女性に、酸を浴びせられた事件が発端だ。

正確には俺の母、第一皇子后マシュリリアを狙ったモノだが、マシュリリアがとっさに払い除けた瓶の中にあった酸が、俺の顔の左側とその周囲にかかったのである。

 おかげで俺は顔の左側と左肩周辺に細かい皺のような火傷痕が出来て、左瞼も歪になってしまい、目を開けると右目と違って四白眼になっていた。

 それはさておき、皇城は限られた日以外に無爵の者は入ることが許されない。

アメリアに侍女の服と酸を用意して、皇城へ侵入させた貴族の黒幕が居るはずだった。

ボレフという偽名を用いて彼女に接触した人物。

それがベビドゥール公爵シーザー=ル=エクシアンの家臣ガイ=ル=デュナメス男爵であった。

事態を重く見た皇帝陛下はシーザーへの登城を勅命するが、シーザーは事実無根として登城を拒否し、それを叛意と断定した皇帝陛下が公爵や国内外への恫喝と示威の為に、総勢三万の誅伐軍をベビドゥールに派兵する事を決定する。

 事件の被害者でもあり筆頭皇孫でもあるこの俺フィローザインは、誅伐軍本隊の名目上の指揮官として、帝都アルムを出立した。

しかし途中で立ち寄ったタリナ都市伯領のタリナ市で、エクシアン家の家臣とそれに味方するガタン=ル=フィサリス侯爵の夜襲を受けてしまう。

なんとかエクシアンとフィサリスの軍を倒す事は出来たが、此方の軍も六千人いた騎士と兵士は大部分が戦死し、生き残りは五百人にも満たなかった。

 これが昨日の事である。

仕方無く独断で予定を変更し、後から来る別働隊に兵の三分の一程を合流させる事として、残った三百人未満の騎士と兵士を馬車で別の街道から進軍し、ファイレーガで兵士の補填をしようと画策してこのスピ街道を南下していた。

 そしてレーソ森林地帯のこの魔獣が滅多に近寄らないと言われる丘で野営をしている最中に、五人の不審者が森の中から飛び出してきた。

 兵士達がその者達を確保しようとした時、五人を追ってやってきた四頭の蜥蜴型魔獣イングロに襲われ、五人のうち三人は丸呑みにされ、二人は巨体に押し潰されて、やむなく騎士や兵士達が戦うこととなった。

 その最中、アクア=ゼファン率いるゼファン傭兵団アクア部隊に加勢されて四頭のイングロを狩ることが出来たのである。

 

 

 

 「と、まあこんな感じが、今の状況という訳なんだ。」

 騎士と兵士達が直してくれた幕屋の中、俺は俺達誅伐軍本隊がこの森にいる経緯をアクア=ゼファンなる女性・・・いや少女に包み隠さず話した。

 腰まで伸びる水色の髪に金色の瞳。

年齢はおそらく十五、どんなに外見が若く見えても十九歳以上ということはないだろう。

あまり日に焼けていない様に思える白い肌と細い手足。

そんな彼女が魔獣を狩り、犯罪者を討伐する事を生業とする傭兵だという印象は抱かない。

 「そんな事があったんですか・・・。」

 アクアが俺の顔の火傷痕を見ながら相槌を打つ。

幕屋の中に居るのは、俺とキャロルとカリス将軍に、アクアと部隊の副長だというローズという彼女よりも二歳くらい年上に見える女性だ。

侍女頭や将軍と違い、彼女達は客人として扱うと決めた為に、俺とアクアは卓子を挟んで向かい側に座っている。

 ただ、四歳児と十五歳以上の少女が同型の椅子に座っているが故に、彼女はどうしても俺を見下ろすような形になっていて、将軍はどうもそれが気に入らないようで眉間に皺を作っていた。

 「しかし、間近で見たことはないけど・・・その様な薄着で大丈夫なのか?」

 俺はアクアと側に立っているローズの着ている服を、ジロジロと眺める。

わざと無遠慮に堂々と凝視する。

 断言できる。

これは明らかにレオタードだ。

 「・・・はあ。」

 その視線に、二人は何処と無く居心地の悪さを感じたようだった。

 「・・・殿下は貴女達のようにサーキャを着た女性が珍しいのです。」

 「確かに貴族の女性はドレス(マーガット)ですし、騎兵になってもその上に軍服を着て鎧ですから、サーキャは見慣れないのですね。」

 すかさずキャロルが俺の態度を補足し、アクアが納得して小さく頷いた。

 「貴公達の着ている服は、そのまま(サーキャ)というのか。

・・・よくわからない名前だな。」

 立ち上がって、ローズの側へ歩み寄った俺は、そのまま彼女を巡って舐め回すような眼で見ていった。

彼女の身体を包むそれは、濃い青色のレオタードであった。

そう、レオタード。

形は間違いなくそれであり、背中が大きく開いていて色と相まって一見すると競泳水着に見えなくもない。

同じ色でもスクール水着に見えないのは、脚刳りが彼女の腰のくびれから股間部まで一直線に伸びているいわゆるハイレグカットだからだ。

鼠蹊部が露わになっていて、その股間部分は布で覆われている部分が少なく、とても扇情的な格好に見える。

抉られているように袖がなく、首元をよく見るとハイネックでなので水着ではないと確信できる。

水着では袖がないのが殆どであるが、しかし袖のないハイネックでは、濡れてから脱ぎ辛く水着には不向きだと、前世でアニメやゲームのコスプレを趣味としている知人女性から聞いたことがあった。

更に、俺の前世の記憶にあるレオタードよりも布の生地が薄いと思われる。

勿論彼女の着ているレオタードに触れている訳では無いのだが、見ているだけで確実に薄いと確信が持てる。

肌にピッタリと密着しているが故に、肌と布の境目の厚みがはっきりと分かるのだ。

 おそらく生地は蜘蛛服(ミリア)なのだろう。

 「こういう形になるとサーキャと呼ばれるのか?」

 「はい。

『プレサージュ』という、大きな蜘蛛の魔獣が出す糸で編んだ服の事をミリアと呼ぶんですが、あの魔獣は人間の女性を見ると私達が着ているような服を自分で編み込む習性を持っているんです。」

 「ああ、だからサーキャなのか・・・。」

 アクアの返答に俺は納得した。

確かに、これは人間の手で加工されていないそのままなのだ。

 「流石に他の生地より耐久性が優れているミリアでも、魔獣退治や盗賊の討伐で服が破れる事も珍しくありません。

ですので、ある程度大きな街の服屋で安く大量に手に入るサーキャは、女傭兵の必需品という事です。」

 とローズが何故か得意気に話すと、アクアが微笑みながら彼女の母方の実家『ミラール商会』はミリアに関しては帝国随一だと説明する。

 「ほう、貴殿はミラール商会の親戚なのか。」

 「ご存知なのですか将軍?」

 「うむ。

貴族以外にもプレサージュの服が広まったのは、かの商会に使役魔術の得意な貴族が嫁いだからという事を聞いたことがあった。」

 先程まで黙っていたカリス将軍が眉間のシワを浅くして口を開くと、この男は女性の服に関心が無いと思い込んでいたキャロルが驚く。

 「まあ、あの商会が納める税で我が領地もそれなりに潤っているからな。」

 「なんだ。

女性の服に興味があるなんて珍しいと思っていたらそういう事か。」

 緊張を解きほぐして口角が上がったカリスに、俺は別方向の納得で溜息を付いた。

てっきり、カリスに女装趣味でもあったのかと僅かでも邪推したが、そうではなかった事に少し心が軽くなった。

六十過ぎても筋肉ムキムキで顔や体中傷だらけでいかにも武人といったこの男の、女装姿を一瞬でも想像して、吐き気を催しそうになったからだ。

いや、別に女装趣味があっても別に問題はないし、それを蔑視する謂れもない。

 「そうか、領地か・・・。」

 カリスの爵位は侯爵だ。

つまりそれに相当する領地を帝国から頂戴している。

とは言っても侯爵領一つの俺と違い、この男は侯爵領二つに方伯領や都市伯領など幾つも領地を与えられていて、それは全て幾つもの戦で勝利を収めた帝国屈指の勇士である事の証左だ。

 そう。

騎兵達が直してくれた幕屋にこの二人の少女傭兵を呼んだのは、こんなレオタードの事を尋ねる為ではない。

 「ですが殿下、そろそろ本題に入ってもよろしいですか?」

 「そうだな。

話を終わらせて、ゆっくりと休ませなきゃいけないな。」

 俺が服に関するあれやこれやを訊かなくなった時期を見計らったカリス将軍が、軽く咳払いをかました。

 すると、緩んでいた少女傭兵達が緊張し始める。

 「此度のイングロ襲撃からの助勢の礼として、まず我々の軍は『イングロと盗賊達と貴殿等が三つ巴で戦っていた所を目撃した』という事にしておく。」

 俺はそれに納得して小さく頷いた。

傭兵の依頼というモノは、受託した傭兵自身が達成した証拠を持ってこない場合は対価を受け取れない。

 今回彼女達が受けた依頼である五人の生死不問逮捕は、実際にはイングロが殺して帝国軍がその死体を確保した。

これでは彼女達が対価を得られない。

であるが故に、将軍は彼女達が依頼料を受け取れるように証言するという。

 「これはカリスに加えて、この俺フィローザインも筆頭皇孫の名に置いて同じく証言する。」

 将軍の説明に補足を添えた。

 彼女達の依頼は他の傭兵達と先を争う依頼で、遺骸に不審な点があれば競合他者が異議を唱える場合がある。

しかし、封建社会で権力者のお墨付きというのはそういった事を押さえつける効果があった。

 将軍や侍女達は何も問題視していないが、正直に言うと地位や権力を笠に着るこういう行為は、俺としては嫌いな方だ。

しかし、今回の様に誰も得をしない場合ならば、恩を受けた者へ利益を誘導しても良いと思う。

今回の事を正直に話すと依頼者側は、確かに支払わずに目的が達成できて得をしたと言えるが、そもそも依頼者は払うことが当然なのでこの場合の得は別にしなくても良い得だ。

しかし、彼女達を含めて傭兵側が全員損をするならば、むしろ傭兵達の内誰かが得をしたほうが、遺恨は生まれない筈である。

だからこそ、この権力者の横暴を俺は敢えて許容した。

 「有難う御座います。」

 その言葉に満面の笑みで二人は頭を垂れる。

 「第二に、これは貴公達へのお願いになるんだが・・・。」

 俺は、この幕屋に二人を呼んだもう一つの目的を口にした。

 

 

 

 _____________________________________

 

 

 

 帝国の兵士達から提供された幕屋は、私達が商隊の護衛等で野営時に使うものよりも上等な物に思えた。

いや、実際には質は殆ど変わらない。

単純に予備として昨日に購入した新品を貸与するようにと、皇孫殿下が騎士達に命じたからであった。

 その前では部隊の傭兵達が皆一様にベーコンサンド(メトック)葉野菜のスープ(カッション)にありついていた。

 「アクア様、ローズ様おかえりなさい。」

 「うん・・・只今・・・。」

 「?

どうなされたんですか、アクア様?」

 アクア様の気の抜けた言動を訝しげに感じたアビーが、首を傾げた。

 「ちょっとあってな・・・。」

 代わりに私が、答えになっていない答えを返した。

 アクア様はそのまま幕屋へと入っていく。

その姿に私を除く全員は、疑問を抱かずにはいられないだろう。

但し、何処と無く醸し出す雰囲気が悲壮なモノではない為に、彼女達はそこまで不安がってはいなかった。

故に疑問の矛先は必然的に、皇孫殿下と将軍閣下の幕屋に彼女と同席していた私へと向けられた。

 「実は皇孫殿下から、家臣にならないかと誘われたのだ。」

 「「「・・・・・・・・・・・・えええ!!?」」」

 私の言葉にしばしの沈黙の後で、全員が詰め寄ってきた。

 「こ、こここ、皇孫殿下ってさっきの子供ですよね!?」

 「おい無礼だぞ。」

 アビーの言葉を叱る。

 「アクア様が皇族の家臣に!?」

 「いや、我々部隊の全員がだ。

但し、全員の同意を得てアクア様がお答えする。」

 アクア様が傭兵を辞める事に不安がるサラに、私は首を振った。

 「全員が部隊ごと取り立てられるって事ですか!?」

 「殿下の希望は部隊単位で運用できる手勢が欲しいという事だから、そういうことだろうな。

いや、無理にとは言わん。

このまま傭兵を続けたい者も居るだろうから・・・。」

 喜びを隠せないゼイドの笑みに頷くと言い終わらないうちにラルクが手を上げた。

 「はい!

私はアクア様と一緒に殿下の臣下になりたいです!!」

 「私も!!」

 「同じく!!」

 その言葉にサラとイクスも手を上げた。

そんなこんなで我も我もと、我々の部隊長を追って先を争うように幕屋へと雪崩込んだ。

 皆理解しているのだ。

我ら傭兵団は、その殆どが没落したゼファン家と共に平民に成り下がった者の子孫だ。

彼女達の一族にとっても、主家と共に再興して爵位を戴けるのは、悲願であった。

 「・・・お前達、浮かない顔だな。」

 一族に連綿と受け継がれた目標に辿り着ける機会。

それを目前としてはしゃぐ者達と正反対に、困惑している者が四人居た。

 「正直に言うと、複雑な感覚ですよ。」

 「・・・あたしも。

というか、あたし達は皆と違って貴族だったわけじゃないし・・・。」

 「何ていうか・・・おこがましいって感じに考えちゃうんですよね・・・。」

 溜息交じりに口を開いたのはジェイ、シャイカ、イアキの三人だ。

 「ローズも知っての通り、私達は貴族の血筋じゃない・・・。

ゼファン家やその臣下の血が入ってないじゃないか・・・。」

 三人を代表してジェイが続けた。

彼女は私の母の妹の娘、私は姉のように思っている従姉だ。

私と母方の一族からの推挙でゼファン傭兵団に入団して既に八年以上の古株だ。

しかし、彼女の言う通り三人は・・・いや、あちらで皆と共に喜んでいるゼイドを含めた四人は、確かに貴族の血が入っているという明確な記録が存在せず、自分達が農民や商人などから傭兵になったという自覚がある。

 「逆になんでゼイドが皆と一緒に盛り上がっているのかが、わかりませんよ。」

 シャイカの言うことが尤もだと、他の二人が首を縦に振った。

 「簡単な話だヨ~。」

 話が聞こえていたのか、当人が此方へとやってきた。

 「アクア様もローズ様も結局今は貴族じゃないヨ。

御先祖が貴族だった記録がたまたまあっただけの平民じゃんヨ。」

 「行き着く所はそういう事だ。

私もお前達も平民から貴族に成り上がれる。

こんな機会、人生で一度あっても多いほうだと思う。」

 私はあっけらかんと話すゼイドの笑顔に笑い、三人を見廻す。

 「へっ・・・、『イアキ=ル=テスタメント』か・・・。

悪くないかもしれねぇな。」

 イアキが早速自分の名前と家名の間に、貴族称()を入れてクククと笑った。

 「私なんて『シャイカ=ル=バニング』になるのよ。

こそばゆいなんてもんじゃないわね。」

 イアキを真似たシャイカは恥ずかしそうに頬を染めた。

 「・・・・・・皆さんは良いですよ・・・そんな単純な悩みで」

 そんな中、今まで俯向いていたトリムが口を開いた。

彼女はこの部隊の最年少でまだ十二歳。

それも、二ヶ月程前に傭兵となって入団したばかりの見習いで、傭兵の等級は一番低い七級だ。

 「良いじゃねぇか、トリム。

お前さんはゼファン家の次席家老だった御家柄だろ?

死んだ親父さんだって喜んでくれるさ。」

 そう。

彼女は先程まで困惑していた三人と違って、私と同じくゼファン家臣下の家系だった没落した元貴族。

 「でも、私は皆に付いていくのが精一杯の見習いで・・・。」

 明るく笑うイアキに対して、眉を顰めて今までにない大きな溜息をついた。

 「実力不足の叙爵だと思っているのか?

・・・だがな、世の中には分不相応の地位に居るものなんて幾らでも居る。

遊び呆けていたのに、いきなり当主の座が舞い降りてきた貴族なんてそれこそ多い。」

 これは本当のことだ。

あそこの都市伯は飢饉の時に無策だった、だの、あそこの城伯は違法薬物販売の噂がある商人と懇意だ、だの、あそこの侯爵は女遊びが激しく気に入った平民の女の旦那へ圧力をかけて離縁させる、だの、貴族の評判は傭兵組合で耳にすることが多い。

各地を旅しながら仕事をする傭兵稼業の者にとっては、重要な情報なのだ。

そしてそういう相応しくない貴族達の情報を耳にする度に、元貴族としての誇りを持っている我々は憤慨するのである。

 「だからこそ我々は良い領主と良い臣下にならなくてはならない。

確かにお前はまだ見習い傭兵だ。

だからこそ、伸び代は皆以上にある筈だ。」

 溜息ばかりの少女の肩に手を置けば、隠せない不安と緊張で体が強張っているのが解った。

 「考え方次第だよトリムっち~。

あたし達はとても運が良い。

魔獣を退治したら依頼を達成したことになって、貴族になれた!

こんな幸運、一生に一度あるかないかなんだヨ~。」

 「ま、確かにゼイドの言う通りだぜ、トリム。

成り上がってから立派なお貴族様になって『流石は皇孫殿下の家臣』なんて言われるようになれば良いってことよ。」

 ゼイドの言葉に同調し、自分が貴族になれる事を喜んだイアキがケラケラと笑いながら腰に下げていた瓶を開けて中身を飲んでいた。

 とっておきの高級酒だが、まあこういう時は呑みたくなるのかもしれない。

 しかし、実はまだアクア様は召し抱えに応じるとは言ってないが、それは最早発すべき言葉ではない。

流石にここまで皆が喜んでいるのだ。

アクア様も断れるような状況にないと分かる筈である。

 「・・・・・・皆がそこまで喜んでるなら、今回の話に応じるわ。」

 いつの間にか幕屋から外に出ていたアクア様は、その光景に諦めたように口を開いた。

 「だが、皆。

本隊の幹部連中やビスト部隊等が、余計な茶々を入れる可能性も視野に入れる必要がある。

その事を肝に銘じておけよ。」

 アクア様の言葉に、私が皆を引き締める言葉を続ける。

その言葉に、何よりもアクア様が覚悟を決めたように頷いていた。

 

 _____________________________________

 

 「『何故、傭兵を召し抱えようと思ったのだろう?』と言いたげな顔だな。」

 自分の幕屋の簡易寝台に身を沈めた俺は、老将の視線を受けてその顔を見上げながら口を開いた。

 「・・・いえ、この機会に直属の家臣を得たいという殿下のお気持ちは承知しております。

彼女達の連携の整った戦法は見事なものでした。

まだまだ荒削りな部分もありますが、今後の成長に期待するとしましょう。」

 「貴公がそこまで褒めるなら、疑問を抱くのは何故だ?」

 その俺の言葉に、カリス将軍は眉間に皺を刻んだ。

何かを言いづらそうにしている事は理解できる。

おそらくは、俺が敢えて彼女達を直属にさせる意図が理解できないのだろう。

 「ですが、殿下の直臣とするには心許無い気も致します。

魔術にも剣術にも精通はしていますが、帝国の精鋭達に比べればまだまだ力不足感は否めません。」

 この老いぼれの言うことも尤もではある。

俺は現皇帝の長男の長男で帝位継承権第二位であり、しかも親父が皇帝となれば繰り上がりで第一位になるというのは周知の事実だ。

次の次に皇帝に即位する可能性が最も高い者である俺に、幼少期から直臣として仕えるという事はそれだけで出世する確率が高いと言える。

 故にその座を、帝都で一定の地位にいる精鋭騎士達は俺の見えないところで、必死に狙っているのだ。

そこへどこぞの傭兵少女達が直臣として仕える事になったら、軍団内の不和が生じる可能性が高いのも事実。

 「理由は四つある。」

 右手の親指以外を俺は将軍と侍女達に見せた。

 「さて、問題です。

その四つとは何でしょう?」

 俺は意地悪な笑みを六人に向けると、そのまま布団を被って目を瞑った。

 「で、殿下?」

 「あ・・・あの・・・?」

 「明日の昼には答え合わせだ。

・・・おやすみ・・・。」

 戸惑うカリスとキャロル達へと布団越しに告げた俺は、そのまま眠ることにした。

次回はなるべく早く投稿するつもりです。

本当にすいませんでした。

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