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イントロダクション
彼の左腕は紅に満ちていた。
彼を一文であらわすのにこれほど適した言葉は無かった。
彼はあの薄汚い廃ビルの集合体―――
我々が「興南城」と呼ぶところに長く住み着き、
人を殺めることを生業としていた。
彼は数々の依頼を確実に、そして迅速に、
まるで何事もなかったかのようにこなしていく。
彼は冷徹、かつ武骨であった。
どの依頼にも私情を挟まないその姿はまるで機械のようであった。
彼は名の知られた殺し屋ではなかったが、
依頼者からの呼び声は高かった。
彼を知る人は皆こう呼ぶ
「鉤爪の殺人鬼」と。