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(続)第二十四話 ~密やかで苦い一時~

第五十六話までお読み頂けていれば、ネタバレはありません。


半年も更新しておりませんでした、すみません。書きたい話をピックアップしたので、少しずつ更新できればと思います。

 バスルームの排水溝に、アンナの右手から止めどなく流れ続けていた鮮血が飲み込まれてゆく。


「……ごめん、あとは、いつも通り、よろしく──」


 そう言って眠りに落ちた一糸纏わぬ姿の主を腕に抱え、シナブルはバスルームを後にした。



(ネス様……?)



 バスルームを出るもネスの姿は見当たらなかった。恐らく自身の寝室に引っ込んだのだろう。部屋の中央に鎮座するソファの横をすり抜けて、シナブルはアンナの寝室のドアをくぐる。



(どうしたものかな……)



 腕の中の主は、素肌にシナブルの上着を被せただけの格好だ。彼女の素肌に触れたのは五年ぶりのことであった。



(……思い出すな。断ち切ると決めたというのに)



 彼女が裸である以上、嫌でも思い出してしまう。次第に鼓動が速くなってゆく。



(……駄目だ)



 この柔肌の温もりも、声も、寝室の空気さえも、鮮明に思い出せる。あの時、最後だと言われたというのに。



(……思い出してしまう俺は、相当のクズだな)



 五年ぶりに会う主は、美しかった。美しさが増していた。もっと触れたいと思った──そんなこと、許可がなければ許されない。今この国には彼女の婚約者が来ている。軽率な行動は許されない。


「姫」


 抱きかかえたまま、アンナの髪を、身体を乾かした。ベッドに横たえ、直ぐ側に腰を下ろす。


「姫」

「ん……」

 

 ほんの少し持ち上がった瞼の隙間から、エメラルドグリーンの瞳が覗く。吸い込まれるような美しい翠だ。


「……シナブル」

「服を着て下さい」

「……眠い。無理」


 彼女に服を着るよう懇願したところで、自分の気持ちに蓋が出来るのかと言われれば、きっと──……無理な話だ。


「つねって」

「……はい?」


 思わず身を乗り出して再び言葉を求めると、瞼を半分ほど持ち上げた主はゆっくりと唇を動かした。


「できたら足を、つねって。そしたら……起きれる」

「はい……」


 体をつねったところで目覚めるのかという疑問が頭に浮かんだ。ベッドの主をちらりと見ると、今にも眠りに落ちそうであった。



(……仕方ない)



「失礼します」


 体にかけていた己の上着を少し引き上げ、太股の内側に指を這わせた所で──。


「やッ……!」


 羞恥に染まった声を上げてアンナは勢いよく身を起こした。きつく寄せられた眉の下の瞳は、ぎろりとシナブルのことを睨んでいた。


「よりにもよって、なんでそこなのよ」

「……申し訳ありません」


 無意識のうちに彼女の嫌がる所に──悦ぶ所に手を伸ばしていた。太股のホクロを撫でると、主はいつも恥じらいながらも────。


「目が覚めすぎたわ」


 膝を曲げベッドの上で身を丸める主。長い溜め息を吐くと顔を伏せ、突然すすり泣き始めた。


「どうなさったのです?」

「……思い出したの」

「何をですか」

「……久しぶりにいっぱい殺して、気持ち悪くなったこと」

「姫」


 ほんの少し顔を持ち上げて、シナブルをじっと見つめるアンナ。


「握って」


 スッ、と左手が差し出された。その上に己の右手を重ね、握る。


「……駄目だなあ、あたし」

「何故です?」

「殺し屋なのに……こんな、こんなことじゃ……」

「姫」

「……駄目なのよ」


 叫ぶように、しかし静かな声でアンナは言うと、シナブルの胸に顔を埋めた。「お願い」と小声で言うと、彼の腕が彼女の体を包み込んだ。



 ──()()が下りたのだ。



「もう、もうわかんない……家のためにも、国のためにも……殺さなきゃいけないのに。だから沢山殺したの。それなのにあたしは、」

「姫」

「それなのにあたしは、ネスと再会して……思い出したくなかったことを、思い出してしまった……!」


 顔を更にシナブルの胸に押し当て、アンナは小声で何か言っている。くぐもった声なので、何を言っているのか全く聞き取れない。


「……姫?」

「消して……忘れさせてくれる?」

「──え?」


 ゆらりと持ち上がった顔。涙を湛えたその瞳に、シナブルは釘付けになった。一瞬の沈黙の後、背がベッドに押し倒された。


「お願い」

「……あの」


 ()()がどういう意味なのか、シナブルは理解している。しかし応える訳にはいかない。この街には今、彼女の婚約者が滞在しているのだ。彼本人からも「求められれば応じて構わない」と許可は得ているが、本人が近くにいると分かっていて、これに応える度胸はシナブルにはないのだ──が、しかし。


「……思い出してしまったのよ」

「あの、姫」

「これ以上、言わせないで」

「あの」

「いいの、お願い」

「本当にいいのですか?」

「うん」


 身体を重ねたまま、真っ直ぐに見つめ返される。その後ろ頭を優しく撫で付け、シナブルはより一層アンナの体を抱きしめた。


「自信がありません」

「何の?」

「止まれる自信です」

「馬鹿……!」


 互いの腕に力が籠もる。少しずつ、二つの唇が近づいてゆく。 


「姫……」

「ん……」


 短く息を吸うと、シナブルはネクタイとシャツのボタンを緩めた。アンナはそれを、黙って見つめた。


 柔肌に触れる。腕に──背に──腰に手を這わし、アンナの体を抱き寄せると、シナブルは意を決して主の唇に触れたのだった。




書きたかったので書きましたが、内容が薄い……

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