表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄と呼ばれた破壊者の創るこの世界で~スピンオフ集~ 【英はか すぴんおふ!】  作者: こうしき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/9

(裏)第一話~レノアとリサの井戸端会議~

第三十話 命の尊さ まで読んで頂けていれば、ネタバレはありません。

 四月二十九日。午後。


 レノア・カートスは明日の()()()()夕食に備えて、市場でいつもより多目に食材を購入した。


 本当はこんなことをしたくはない。

 しかし現実は残酷だ。


「あらレノアちゃん、こんにちは」


 自宅まであと少しという所でレノアに話しかけてきたのは、坂の下に住むリサおばさんだ。レノアとシムノンが二十年前にこの村に越してきてからというもの、何かと世話を焼いてくれている、親切心の塊のような壮年の女性だ。


「こんにちはリサおばさん」

「あら、レノアちゃん。えらく沢山買い込んで、どうしたんだい?」


 リサはレノアの持つとうのバスケットを見ながら言った。ぎゅうぎゅうなバスケットの蓋は閉まらず、隙間から鮮やかな赤いパプリカが顔を覗かせている。


「明日、ネスの誕生日だからね。村の外からちょっと……お客さんが来るのよ」

「ネスちゃんももう……十六だったかね?」

「ええ、お陰様で」

「それにしてもお客さんとは珍しいね」


 小振りな眼鏡の奥の目をぱちくりさせながらリサは言う。


「ネスの出産の時にお世話になった人でね」

「ああ、あのエルフの?」

「いいえ、ソフィアちゃんじゃなくて、もう一人の」

「赤い子かい?」


 赤い子というリサの例えに、思わずレノアは笑ってしまう。間違ってはいないのだが、あれは()というよりも()なのだから。


「また懐かしい子が来るんだねえ」


 シムノン()の仲間の魔法使い――レフ・バースレインによって、出産の手伝いをしたリサの記憶もまた、レノアと同様に多少改ざんされていた。

 改ざんされた二人の記憶では、ネスを取り上げたのは赤い子(アンナ)ではなく、エルフ(ソフィア)ということになっている。


「ところでレノアちゃん、戦士様を見たかい?」

「戦士様? いいえ」


 戦士様というのは、今朝突如として村に現れた、一人の女のことだった。レノアにはその()が誰だか、心当たりがあった。

 心当たりというよりも、それは()()だった。確信がなければ、三人分の夕食の材料を買い込んだりはしない。


 アンナ・Fファイ・グランヴィ。


 ネスの十六歳の誕生日に、彼女は必ずやって来るとシムノンは言った。

 破壊者デストロイヤーの地位を放棄し、下の息子に継がせるのだと、見ているこちらのほうが辛くなるような顔をして――


 何故、上の息子にではなく、下の息子に継がせることにしたのか。その理由にレノアは納得できていた。


 あの子(ネス)の方が、ここぞというときに心が強いから。

 しっかりしているようで、ルークは精神的に脆すぎる。



「なんでも、とんでもない美人さんらしいよ」

「そうなの」


 リサは噂話が好きだ。勿論レノアだって、どちらかと言えば好きではある。狭い村だ、小さな噂でもあっという間に広まってしまう。


「あら、ごめんねえ、つい話し込んじゃって」

「いいのよ。それじゃまたね、リサおばさん」


 リサと別れてレノアは帰路に着く。


 しかし、何故なのだろう――アマルの森の回りには、アグリーが侵入出来ぬよう、結界が張り巡らされているというのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(ひょっとして結界が壊れている?)


 シムノンが張った結界が、そう簡単に壊れるものではないということは、レノアも重々承知していた。しかし、アグリーが森から出てきたということは、そういうことなのだ。


(――暗くなったら見に行かないとね)


 家に着き、買ってきたものを冷蔵庫にしまう。これだけの材料ではまだ足りないので、明日の午後にでもまた買い物に行かなければならない。


「さてと……」


 手間のかかる料理の仕込みをしなければならない。


 明日の地獄の晩餐に向けて、レノアは包丁を握る手に力を込めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ