お泊まり会④
銭湯から家へ帰った俺らは、特に何かするわけでもなく、今にも溶けだしそうなスライムのようにくつろいでいた。
「やべ、俺ここで寝れる」
「ちゃんと部屋で寝ないと風邪ひくよ?」
そんな事言われても、動きたくないものは動きたくないし眠いものは眠い。
俺は絶対にここを動かないぞ。絶対に。
「てかお前何してんの?」
「んー、秘密」
堕落し切ってる俺とは対極に、葉月はキッチンで何やらテキパキと動いている。
美咲希もその手伝いか?
「あ、おにいの分もあるから安心してね」
「ありがとう?」
わけもわからず返事をしてしまったが、本当に何をしているんだろう。
聞いても教えてくれないのはもう検証済みなので、これ以上の詮索はしないことにする。
しかし、美が付くほどの少女が二人、キッチンで作業をしているのを見ると、何か微笑ましいものがある。
お父さん目線というものだろうか。俺そんな歳取ってたっけ。
妹と彼女の仲がいいのを見ると、少し安心をする。
もしも、仲が悪かったら、俺の胃は穴だらけになっていたかもしれない。
ま、そんなこと考えてもなんにもならないけどな。
「できたよー」
「おー?」
未だに何か教えてくれない謎の物体Xを差し出された俺。
カップの中から湯気が立ち上げてるのを見るに、ホット系の飲み物だろう。
「これは……ココア?」
「正解。さっき牛乳飲んだけど、なんとなくホットココア飲みたい気分だったから」
「なるほどな」
一人で飲むのが寂しくて無理やりみんなの分作ったのな。
……いや、美咲希の分は無理やりでもなさそうだな。早く飲みたそうにしているし。
そういうことなら、兄としてその気持ちに答えてあげようじゃないか。
「じゃ、乾杯するか」
俺がそう言うと、一同は一瞬目配せをしてから、
「乾杯!」
と、元気よく葉月が放った掛け声に合わせて、
「「乾杯!」」
俺達もそれに合わせる。
乾杯をする意味は無いが、なんとなくみんないるとやりたくなる。
何はともあれ、せっかく作ってもらったので早速ココアを飲もうとして……寸前で留まる。
これ、今飲んだら確実に熱いよな。
「……あっち」
ほら、言わんこっちゃない。
先走った葉月が舌を軽く出しながら、目をうるわせている。
なんとも可愛らしいが、気の毒だ。
「葉月ちゃんって、意外とせっかちよね」
「そうだなぁ。こいつ自分の欲望に忠実なんだよ」
「へぇ。普段の印象からじゃ想像出来ないわね」
「あ、ほんと? てか普段の印象どんなんだよ」
「お淑やかで清楚?」
「その幻想はぶち壊せ」
ほんとうは横暴で凶暴で乱暴なんです。
あー、でも優しいか。ちょっとだけ。
お淑やかで清楚と言われた本人は余程嬉しかったのか、ニマニマと笑いながらこちらを見ている。腹立つ。
「へへーん。お淑やかで清楚だってさー」
「お前ってやつはすぐ調子乗るよなぁ……」
「でもそんな葉月ちゃんも好きよ」
あはは、と俺達は笑い合う。
今この瞬間、変なぎこちなさや無駄な気配りなど、要らないもの全てを取り払い、暖かな空気が流れる幸せな空間が存在していた。
みんなの笑顔が眩しく、輝いている。
数年前の俺では想像もつかないような、心地よい空間があることに感動を覚える。
将来何していようと、この空間さえ守れれば俺はそれでいい。
「しっかし、なんでこんな暑い日にホットココアなの? アホなの?」
「いいの! 女の子は気分で生きてんの!」
「あ、そっすか……」
よくわからない理由を強気に言われたので、俺はただ肯定することしかできない。
まぁ、葉月がそこまで言うなら間違いないんだろうなと適当に思いつつ、大量に飲むにはまだ熱すぎるココアをちびちびと飲む。
「でも、たまにはいいんじゃない? 暑い日に熱いココア」
そんなことを言いながら、俺と同様ちびちびとココアを飲む美咲希。
ふと前を見ると、テレビの向こう側で芸能人達が地域の特産物を食べてレポートをする番組がやっている。
しかし、ただレポートをするだけでなく、聞いていて飽きてくるあたりにボケとツッコミを入れてくる。
こうして視聴者の気持ちをコントロールしてくるあたり、プロだと思う。
「まぁ、温かいココアは冷え性に効くってどっかで聞いたことあるし、健康にもいいみたいだから飲んで損ってことはないな」
「どうしてそう、科学的なのよ……」
そうじゃなくて、と一呼吸置いてから美咲希は話し出す。
「例えば、冬にアイスを食べたくなるとかあるじゃない。そんな感じよ」
「あー、それならわかるかも。夏に風呂とかな」
「え?」
「え?」
俺何かまずい事言った?
「夏にお風呂って普通じゃないの?」
「マジで?熱くて入ってられないが」
素直な感想を伝えると、美咲希が信じられないと言った顔をする。
「え、おにい夏にお風呂入らないの?」
すると、先程まで舌を冷やしていた葉月が乱入してくる。
こちらは汚物を見る目をしている。
「お前のそれは明らかに別の意味を含んでいるな。シャワーは浴びてるからな?」
「それ、人生半分は損してるわ……」
「そんなに!? でもたまにはいいと思うぞ。今日銭湯で入ったけどかなり気持ちよかったし」
「悠眞にとってお風呂はホットココアなのね……」
「美咲希さんそれ面白すぎですよ」
けらけらと葉月が笑う。
確かに意味不明すぎて面白いかもしれない。そう思ったらくつくつと笑いがこみ上げてくる。
それにつられて美咲希も笑う。
「あー、楽しいな」
具体的に何が楽しいか説明しろと言われた難しいし、傍から見ても何が面白いかさっぱりだろう。
しかし、どうでもいいことで笑ったり、ちょっとした事で楽しいと感じたり、高校生はそういう生き物なのだと思う。
「そうだねぇ。すっごい楽しい」
「私もよ」
もし、今もあの金色の少女がいたら、こうしてここで笑っていたのだろうか。
アルドベリさんはまだうちの近くに住んでいる。
そこにはマルの仏壇があるので、俺もよく行かせてもらっているが、ある日気になってどうして仏壇? と聞いたところ、
「君のお父さんに日本は人が死んだらどうするんだい? と聞いたら、『墓立てて仏壇置くな』って言っていてね。だからお墓と仏壇を設置したのさ」
と言っていた。
どうして今マルのことを思い出したのか、わからないが、ふとそう思ってしまった。
…………いや、きっとマルも元気でやっている。俺が心配することなんてない。
そう自分に言い聞かせ、俺はゆっくりとホットココアを飲んでいく。
やっぱり文章は継続して創らないと衰えるものですね……。
そもそも文章力の最大値が低いのもありますが、今回は最大値を大幅に下回っているので、気になる点があれば教えて下さると嬉しいです




