お泊まり会①
放課後。それは、学生にとっては特別なものだろう。
部活をしたり、友達とファミレスやカラオケに行ったり、または家でゲームをしたり……。
人によってその過ごし方は様々だろう。
そんな放課後は、俺にとっても特別なものである。
「お前友達とカラオケとか行ったりしないの?」
「そうね……何度か誘われたけど断ったわ。私はここにいる方が好きなの」
「そうか」
美咲希がそう言うなら、俺はもう何も言うことは無い。
もっと友達と過ごしてもいいと思うけどなぁ。
俺も美咲希も、決して友達が少ない訳ではなく、充実している方だと思う。
しかし、お互い友達と遊びに行くということをあまりしないのだ。
俺だってゲーセン行くぐらいしかしてないしな。
「ただいまー」
「おかえり」
「お邪魔してます」
玄関から聞こえた声に、俺らはそれぞれ異なった返事をする。
「あ、美咲希さん早いですね。ゆっくりしていってください」
「おい、お前俺を無視しただろ」
「……どちら様でしょうか」
「ほう。お前は血が繋がった兄を忘れたというのか」
「何この茶番」
この場には俺と美咲希と葉月の3人がいる。ほとんどツッコミ役が不在の状況で、その理由はツッコミを入れるのが無駄だとわかっているからだ。
ちなみに、美咲希が俺の家に上がることは、両親に許可を貰っていて、合鍵を渡そうかまで言われたことがある。
……まぁ、合鍵の件に関しては俺が断ったんだが。
つまり、美咲希はこの家においてある程度の自由が保証されている。
案外、同棲の話を持ちかければあっさり承諾してくれそうな雰囲気あるんだよな。
そんな両親はと言うと、現在仕事で2人共家を空けている。俺ら兄妹に家を任せるとか、なかなか頭がおかしいと思う。
「なんでもいいだろ。少なくとも俺はこの空間が好きだ」
「そうね」
かけがえのないものは誰にでもひとつはある。
俺は、この葉月や美咲希と一緒の空間にいることが幸せと感じる。だが、幸せとは人それぞれだ。これから先、同じ形で俺の手に幸せが残ってるとは限らない。なら、今この瞬間を存分に楽しんだ方がいいのではないのか?
「おにい、何難しい顔してんの。キモいんだけど」
「てめぇキモいとはなんだよ。夜な夜な部屋でゴソゴソしてるお前の方がキモいっての」
「黙れ変態」
「うるせぇぞ痴女」
「まだ処女」
「あ、そう」
しかし、そんなに難しい顔をしていたのだろうか。自分のことは自分では気づきにくいものだ。
美咲希はと言うと、何やら笑顔でこちらを見ている。
「何笑ってんの?」
「笑っちゃダメなの?」
「当たり前じゃん」
「え、なんで?」
「俺に聞くな」
自分から言ったのだが、途中でめんどくさくなってしまった。故に最後は投げやりになる。
……まぁ、よくあることだよね。
ちなみに、女子二人からは何言ってんだこいつという顔で見られた。
◆
それから数時間経過し、日がすっかり暮れた。
俺らは、テレビをつけてアニメを見たり、スマホゲームのイベントがどうとか言い始めて急にやり始めたり、家事をしたりと色々あって、現在は夕食の準備をしている。
「今日は美咲希もいるんだな」
彼女はいつも夕食は食べずに帰るのだが、今日はどうやら食べるらしい。
「まぁね。昼に悠眞が食べてたものが美味しそうで」
なるほど。それで、また葉月に作ってもらおうと。
葉月の弁当と俺の弁当は、すべて葉月が作っているので、頼めば作ってくれるであろう。
「もうすぐできるからおにい食器並べてよ」
「はいよ」
大変な料理を文句一つ言わずにこなしてくれる葉月には頭が上がらないので、頼み事とあれば断れるはずもない。
むしろ、もっと頼んできて欲しいぐらいなのだが、我が妹はあまり頼み事をしない。したとしても簡単なものばかりだ。
だから俺は料理の代わりに洗濯を頑張っている。
「並び終えたぞ」
「ありがと」
「私にも仕事を下さい」
テキパキと働く俺らを見て、いてもたってもいられなくなった美咲希が申し訳なさそうに言ってくる。
「ありません」
しかし、葉月はそれをキッパリと断り、美咲希の目を見た。
「美咲希さんは客人なので、手を煩わせるわけにはいきません。そこにいるおにいは下僕としては有能なので、大人しく座ってください」
あらやだ、我が妹今日は少し機嫌が悪いのかしら。こわいわぁ。
もしかして女の子の日? いや、これは言うまい。殴られる未来が目に見えている。
「はい……」
そんな美咲希は、怒られた犬のようにシュンとして椅子に座った。しかし、この一年で葉月の当たりの強さは増している。一回叱るべきか?
そんなことを考えているうちに、食卓に料理が並ぶ。
それを、制服を着た学生三人が囲むのだが、なんか不思議な気分になる。
お泊まり会みたいな、そんな感じのノリ。悪くはない。俺は好きだ。
……いや、よく考えたらお泊まり会でも制服は着ないな。じゃあこの光景結構シュールなんじゃ?
まぁ、シュールでもそうでなくても好きな気持ちに変わりはない。
「じゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
葉月の掛け声で、俺らは一斉に食べ始める。
皿に盛られた料理がなくなるまで、30分もかからなかった。
◆
「ふぅ……お腹いっぱいね」
「そうだなぁ」
夕食後の、満腹になった俺達は満足感により、歩くことさえ面倒になっていた。
なので、俺と美咲希、それに葉月はソファーに座り、くつろいでいた。
ちなみに、皿洗いは俺と美咲希によって音速で洗われた。
「帰るのが面倒になってくるわね」
確かに、ここから帰るとなると精神的にキツい。俺だったら寝る。間違いなく。
「じゃあ、泊まっちゃえばー?」
呑気にそういったのは葉月だ。まさか、妹の口からそんな提案が飛び出してくるなんて思わなかった。
美咲希と同じ屋根の下で寝れるのはとても嬉しいけどな。
「そうね。そうするわ」
「「!?」」
てっきり断るものだと思っていたので、驚きと嬉しさがごちゃ混ぜになった感情が溢れ出す。
無論、それは俺だけではなく、葉月も同様だ。
だが、そんな俺達に構わず、美咲希は凄まじい勢いで美香さんへ電話し、泊まりの許可を得ている。
ていうか、今ワンコールで出たよな、美香さん。
「私は泊まるかもって言ったらOKもらえたわ」
「うちは親いないし……でも最高権力者は一応おにいだから任せた」
何が任せただ。こんな時だけ俺を使うな。
「まぁ、二人じゃこの家寂しいからいいんじゃないか?」
本心はすごい乗り気だが、待ってましたと言わんばかりに食いつくとやましい感情があるのではと思われるかもしれないので、ここは慎重に遠回しに許可する発言した。
……ちゃんと遠回しに言えてるよな?
「やったー! 今夜は美咲希さんを寝かせないぞー!」
元気な妹と裏腹に、美咲希の顔は引きつっている。頑張ってもらいたいものだ。
明日は土曜日。存分に楽しんでもらいたい。
何はともあれ、唐突に始まった、俺と、葉月、美咲希によるお泊まり会は幕を開けた。




