休日の過ごし方
すごく久々の投稿になりました!
暖かい目で見ていってください。
よく晴れた夏の朝。しっとりとした風が街を駆け巡る中、俺は自転車に乗っていた。
もちろんただ乗っていたわけではなく、ちゃんと目的があって乗っている。
「あーくそ。あちぃなおい!」
30メートルほどある坂道を下りながら叫ぶ。暑いと思うから暑いんだと誰かが言ってた気がするが、暑いのに寒いと思う方が無理だ。よって暑い。
俺が頼まれたのは買い出し。休日の昼前に頼んでくる妹を恨みたい。
どうやらパンや調味料の在庫が危うくなっているらしい。もっと早く気づけよ。
「文句言ってないで早く行くわよ? 暑いの悠眞だけじゃないんだから」
そうやってうるさく言ってくるのが美咲希だ。ブチギレ案件。いや、沸点低すぎかよ俺。
「ぬおおおおおお!!!」
「もっと静かに移動できないの!?」
「暑さで脳がやられた俺にそんなこと言うな!」
傍から見たらただの変人だが、そんな事どうでもよくなるぐらい暑いのだ。
「そうね! ただでさえ頭おかしいのに暑すぎて磨きがかかってるもんね!」
美咲希のキャラが崩壊してきてる気がするが、別にいいや。
「あーくそ! まじであちぃ!」
かなり汗をかいた体を、風が冷やしていく。だが、それは一時的なものなので、すぐにまた暑くなる。
(これだから夏は……)
内心でそう呟きながら、目的地へと急ぐ俺ら。スーパーについたら1時間は涼もう。
◆
「おにい達遅くない?」
「いやこれぐらい普通だから。遅くないから」
店で涼んで更にはアイスを食べてたなんて口が裂けても言えない。どんな罰が下るかわからないからな。
「そうかなぁ。まぁいいや。ご飯作っておいたから食べて。冷めてるから温めてね」
「了解。さんきゅ」
しっかり美咲希の分も作られているあたり、葉月の優しさが見受けられる。よく出来た妹だ。
「ありがとう、葉月ちゃん」
ゆったりと、穏やかな時間が流れていく。俺はこの時間が嫌いじゃない。
日差しがレースカーテンを貫き、家を明るく照らす。
これからすることがないが、どうしようか。
そんなことを考えながら、時が過ぎていく。
「あ、そうだ」
その時、静寂を切り裂いたのは葉月だった。
「私今日遊びに行くから留守番よろしくね」
「まじかよわかった」
葉月が遊びに行くなんて珍しいな。
多分美鈴とかと遊びに行くんだろう。
「じゃ、いってきまーす」
「気をつけてなー」
「いってらっしゃい」
葉月がいなくなると、この家には俺と美咲希の2人きりになる。そんな状況は初めてだ。
葉月が家を出て、数秒。外でガシャンと音が鳴る。恐らく自転車のスタンドを上げる音だろう。
それから数秒、俺らのいる空間は静寂に包まれていた。
「なんか……照れくさいわね」
「そうだな。2人で俺の部屋に居たことはあったけど、2人きりは初めてだもんな」
再び静寂が流れる。時が経つにつれ、それは気まずいものへと変化する。
この前の観覧車ではそんなこと無かったのに、何故だろう。
「飯、食うか」
「ん、そうね」
既に昼時は過ぎているので、なかなかに空腹だ。
なので、葉月に言われた通り、食べ物の入った鍋を温める。
これは……肉じゃがだろう。とても美味しそうだ。
「適当にテレビ付けてていいぞ」
「ん、なんか録画ある?」
「今期のアニメなら全話。地上波でやってるやつだけな」
「再放送は?」
「見逃すと思うか?」
「なるほど」
ちなみに全話録画したあとはCDにダビングしてる。だが1度も見ない。
……そのうち見たくなる時が来るだろう。
「他に見たいものあればテレビの下の棚にあるCDから探してくれればいくつかは見つかると思うぞ?」
「今やってる再放送のアニメは私のイチオシなのよ。特に7話が神回すぎて寝れるわ」
いや、どんな表現だよ。失神するってことでいいのか?
何はともあれ、美咲希のイチオシ神回とやらを見ながら、俺らはご飯を食べた。
◆
「決めた。俺、ニートになる」
大吾の家のソファーにくつろいで漫画を読んでいたら、なんの前触れもなく大吾はそう言った。
「えっ、家賃はどうするの?」
大吾がバイトをしている理由は、家賃を払うためなのに、バイトを辞めたらどうするんだろう。
「親の住宅ローンが最近払い終わったらしくて、仕送りしてくれるんだって。ありがたい限りだね」
あたしとしては会える時間が増えるしいいのだけど。
「お小遣いは?」
「それも親から。それに貯金だってあるからある程度は平気だよ」
「そっか……」
これから放課後も会えると思うと、期待で胸がいっぱいになる。
「嫌だ?」
「え? そんなことないよ」
反応が薄かったからか、大吾から心配される。実際は嬉しくて妄想をしてただけなんだけどね。
「よかった」
放課後や休みの日など、時間があればあたしは大吾の家にいることが多い。
あたしの家だと家族がいて好きなようにイチャイチャできないから。
「土日とか暇な時さ、公園行って悠眞達と野球しようよ」
「おっ、いいなそれ。美咲希も葉月も運動神経化け物だし、みんなでワイワイ野球するの楽しそうだ」
「でしょー」
素人目線だと、大吾も悠眞も上手すぎてどちらが上かは判断出来ないが、そんな人達と一緒にキャッチボールしていれば野球が上手くなる気がする。
将来的には草野球チームを作りたいな。
「凛花から野球しようっていうの、珍しいね」
「テレビでやってた高校野球みたらやりたくなっちゃった……えへへ」
それに、最近運動不足気味だから少しは動かないとね。
「野球かぁ……。何年ぶりだろ。少し楽しみかも」
控えめに言ってるものの、大吾の目は輝いていた。やっぱり野球人の心は健在なのだ。
「あー、でもあたしグローブ持ってないや……」
「それなら俺の使う?」
あたしの言ったひとりごとに、サラリと答える大吾。
「え、いいの?」
あまりにも突然なことだったので、そう聞き返してしまった。
「うん。結構使いやすいと思うよ。守備手は買わないといけないかもしれないけど」
「じゃあお言葉に甘えて」
みんなでひとつのことをやるのが楽しみすぎて、今からワクワクしている。もちろん、悠眞や美咲希、葉月ちゃんの同意を貰わないといけないんだけどね。
『土日暇?』
あたしはすぐに携帯を取り出して、美咲希にそう送っていた。
『暇だけど、どうかした?』
メッセージを送って数秒で返事が来た。美咲希も暇なのだろう。
『土日のどっちかに野球したいなーって思ってさ。美咲希と悠眞も一緒にどうかな?』
『いいんじゃない? 悠眞もどうせ暇だし無理やり連れていくわ。葉月ちゃんはなんだかんだで着いてくるでしょ』
交渉成立。これから土日が楽しみになった。
「……夏休みさ、どっか行く?」
大吾が何の前触れもなくそう言ったので、あたしはびっくりした。
「どっかって、例えばどこ?」
「んー、遊園地とか?」
「行きたい」
今思えば、大吾と二人っきりでどこかへ行ったことはあまりなかった。楽しみだなぁ。
現在の時刻は昼過ぎ。ご飯を食べた後だし、少しうとうとしてきた。
「ふぁ〜……」
結構な眠気で、瞼の重みに抗いようがないほどだ。
「昼寝する?」
「する」
そう言ってくれた大吾の提案に即座に乗っかり、その場で横になる。
すると、すぐに意識が遠くなり、あたしは眠っていた。
「遊園地、楽しみだ」
大吾のその声があたしに届くことはなかった。
感想、アドバイス等お待ちしています!
些細なことでもいいので気になった部分があればコメントお願いしますm(_ _)m




