美咲希との1日
久しぶりの投稿になります!
覚えてる人いるかな?
暖かい目で見ていってください!
一通り遊園地を堪能した俺らは、観覧車に乗ることにした。
「案外、高くなるのね」
「そりゃ外から見てあんなに高かったからな」
全長はよく分からないが、とりあえず高い。
「何年ぶりかしら」
「観覧車がか?」
「それ以外なにがあるの?」
「異性と観覧車に乗ることとか?」
「私に彼氏なんて出来たことないわよ。前に話した気がするんだけど」
「うん。聞いた。でもなんでできなかったんだ?」
「それは……」
美咲希は少し口ごもる。そんな美咲希を、俺は黙って見守る。
「あまりいい思い出ではないけど、悠眞には話すわ」
そう言って、彼女は1度深呼吸をする。
「私って、アニメが好きなのよ」
突然何を言い出すかと思ったら、そんなことか。
「だから、アニメっていう文化を受け入れてくれるのを恋人にする第一条件にしてるの。外見とか一切関係なしにね」
そこで、美咲希は一呼吸置く。
「中学の時、一回告白されたことがあるのよ。でも、告白してきた相手はアニメがあまり好きじゃないらしくて、よく大声で批判してたわ。そんな人とは、付き合おうと思えない」
はっきりとした口調に、俺は息を呑む。
表情も真剣だった。
「ごめん。暗い雰囲気にしちゃったわね」
「いや、別にいいよ」
美咲希のことを知れた気がする。それだけで嬉しい気持ちになるのだ。
それに、美咲希らしくていいなと思った。
「美咲希」
「なに?」
俺は美咲希を呼ぶと、彼女の体を自分の方へ近寄せる。いわゆるハグというやつだ。
「ちょっと、急にどうしたの?」
美咲希の髪から漂う甘い匂いと、控えめな柔らかい感触。それに、華奢な身体の温かさを存分に感じることが出来る。
美咲希って、やっぱり可愛いな。
「どうもしてない」
少しぶっきらぼうになりながら答える。俺だって年頃の男子だ。素直に抱きしめたくなったなど言えるはずがない。
「ふふっ。そうなのね」
しかし、美咲希はそんな俺の心の中を読み取ったのか、優しく抱き返してくる。
ゴンドラは既にほとんど回っていて、夕陽は沈みそうになっている。
そういえば、美咲希って黄昏時が好きなんだっけ。
「美咲希」
「なに?」
「こっち向いて」
去年の夏休み終わった時期に、俺達は1度水族館へデートに行っている。その時は唇を重ねるだけだったが。
「んっ……」
今回は舌と舌を重ね合わせる。深い方のキスだ。
「ふぅ……」
数秒間の間、お互いの唇と舌を触れ合わせ、距離をとる。
「……びっくりした」
「嫌だったか?」
「むしろ嬉しいわ。大好き」
美咲希は、少し頬を赤らめながら言った。いや、もしかしたら夕日に照らさてれ赤く見えるだけかもしれない。だが、今の俺にはそんなことはどうでもよかった。
「……俺も、好き。大好き」
顔が熱くなるのを感じる。おそらく俺は今、顔が赤いのだろう。
今まで、面と向かって伝えることなんてなかったので、こうして伝えると恥ずかしいというかなんと言うか。
「うん……全部伝わってる。いつもいつも、大切にされてる感じがして、幸福感に包まれるわ」
少し照れながら美咲希が放った言葉は、とても嬉しくて、生きていてよかったと思うほどだ。
そろそろゴンドラが1周する。日はもうほとんど見えず、地平線がぼんやりと朱色に染まっている。あとほんの少しで夜が来る。
「そろそろ1周するな」
「そうね。降りる準備をしなきゃ」
ショルダーバッグを背負い、扉付近に座る。
観覧車なんて久しぶりだったが、すごく楽しかった。
美咲希と一緒だからか?
「暗くなってきたわね。帰りましょうか」
「そうだな」
なぜ楽しいのか、理由は詳しくわからないが、それでいいのだと思う。物事全てに理由をつけるなんて体力の使うことはあまりしたくないからな。
ここから家まで電車を使って約一時間はかかる。1人だと長く感じるだろうが、2人だととても短く感じる。移動時間でも俺にとっては特別な時間なのだ。
◆
「じゃあまた」
「うん。気をつけてね」
家の最寄り駅に着いた俺らは、美咲希の家へ行った。もちろん美咲希を送るためだ。
そして別れの挨拶をしてそのまま俺は帰路に着こうと歩き出し――
「悠眞」
呼び止められた。
「どうした?」
そう言って俺は振り返る。予想されるのは今日一日の感想を一言で表せる言葉だろう。
「今日はありがとう。本当に楽しかったわ」
予想通り。俺も楽しかったと言おうとした時、美咲希がまだ何かを喋る様子であることを察したので、俺は静かに聞くことにした。
「……その、なんて言うか、時間が過ぎるのがとっても早かった。すごくドキドキした。こんなの、初めてだわ。ありがとう」
その言葉を聞いた俺は、今日行ってよかったなと心の底から思う。
「俺もだ。また行こうな」
こうやって思い出を積み重ねていって、昔こんなことあったよなって笑い合えたら楽しいだろうな。まだ付き合ってから一年も経っていないが、こんな幸せがいつまでも続けばいいなと思うのは変かな。まぁそんなことを思うのは野暮ってものだろう。
街灯が照らす夜道に、俺は消えていく。
いつからだろうか。暗闇が怖くなくなったのは。
小学校低学年の頃は一人で寝ることすら怖かったのにな。成長したことがわかるが、その反面、少し寂しくもある。
「歳とるってこんな感じなのかなぁ……」
今は出来ることが増えていっているが、そのうち出来ないことが増えてしまう。
ま、今からそんなこと考えていても仕方ないか。早く帰って風呂入ろう。今日は気温も高かったし、それなりに汗もかいた。シャワー浴びたいな。
◆
「あー、疲れたー……」
家に帰った俺は、風呂に入り終わった後、リビングにあるソファーの上でくつろいでいた。
「だらしないなぁ。1日遊んだだけでそれって本当に元運動部なわけ?」
「うるせぇ。引退してから一年以上経ってるんだからそんな体力あるわけねぇだろ」
そろそろ二年経つんだが、細かいことは今はいいだろう。
「私は1日遊んだだけじゃそんなに疲れないよ?」
「お前若いもんな。俺クソジジイだから疲れるんだよ」
「歳の差1つじゃん。そんな変わらないのに何言ってんの?」
ド正論。これ以上はめんどいのでもうしないが、素直に運動不足を認めたくないのだ。察してくれ妹よ。
「ま、それはそうと、ご飯食べる?」
「食べる。めっちゃ食べる」
「めっちゃ食べるって何……。少し待ってて。すぐ用意するから」
そう言ってキッチンへ行く葉月。予め作ってあったのか、火をつけて木ベラを動かしている。
…………俺は温まるまですこし寝ようかな。
感想、アドバイス等待ってます!




