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初詣 下

久しぶりのあの人登場です!

存在を忘れている人もいるのではないでしょうか?

「はぁ……どうすっべこれ。とりあえず電話してみるか……」

 右ポケットから携帯を取り出し、電源を付け――れなかった。

 え……っと、これは一体?

 いやまぁ答えなんて一つしかないんだけど。

「充電が……ない」

 そういえば夜充電するの忘れてたっけ。なんでもいいがとりあえずこの状況は最悪だ。

 連絡つかないし人たくさんいるし、止まったら迷惑になる。

「あれ? 先輩じゃないですかー?」

「美鈴か。久しぶりだな。あけおめ」

 聞き覚えのある声がしたと思ったが、まさかここで会うとは思わなかった。

「あけおめです。美咲希先輩と一緒じゃないんですか?」

「ああ。はぐれちゃってな」

 後輩にこんなことを言う日が来るなんて思いもしなかった。情けなさすぎだろ俺。

「それは大変ですね……じゃあ私と行動しましょうよ!」

 確かに、一人で行動するより二人の方がいいかもな……断る理由は無しか。

「そうだな。そうしよう」

「えっ?」

「ん?」

「いえ、まさか承諾されるなんて思ってなくて」

 一瞬目を見開いた美鈴だが、すぐにいつもの調子を取り戻した。

「じゃあ行きましょう! まずはお参りです」

 美鈴に手を引かれ、食べ物のいい匂いが漂っている境内に入っていく。

「そーいえば、お前どこ受けるんだ?」

 葉月と同じ歳ってことは、もちろん受験生って事だ。

 恐らく、今日は合格祈願に来たんだろう。

「内緒ですよー。受かったら教えてあげます」

「なんだよそれ。確か成績よかったよな? それなりに難関校だったりするん?」

「んー。全然そんなんじゃないですね。でもほんとにそのうちわかりますよ」

 高校入ってからこうして中学時代の後輩と話す日が来るなんてな。人生って不思議なものだ。

 笑い合いながら会話をしていると、いつの間にか拝殿に着いていた。

 御縁は投げたくないので10円玉を投げ込み、二礼二拍手一礼を実行する。

 あ、そういえば願い事決めてなかったな。どうしようか。願いなんて言われてもそんなすぐに出てくるもんじゃないしなぁ。

「先輩何願ったんですかー?」

「秘密だ。願い事は言ったら叶わなくなるっていうだろ?」

「むー。確かにそうですね」

 渋々納得してくれた。

 俺の願い事――咄嗟に頭の中に浮かんだのはみんながいる日常。だから、それができるだけ長く続きますように。葉月も、美咲希も、大悟も、凛花も。それにマルだって俺にとっては大切な人だから。

「美咲希先輩達見当たりませんね。先輩どうするんですかー?」

「そうだなぁ。連絡手段があればいいんだけど……」

 俺の携帯は死んでるし。他に持ってきているものといえば財布だし。

「連絡なら出来るじゃないですか」

「えっ? あっ……」

 なんで美鈴の携帯を使って連絡をするって考えに至らなかったんだろう。我ながら不思議でしょうがない。

「じゃー電話してみますね。あ、もしもし葉月ちゃん?」

 流石の行動力。もう既に葉月に電話をしている。

「今ねー、先輩と一緒にいるんだけどさ、どこに行けばいいかな?」

 相変わらずの人混みで、俺らは脇に避けている。そこで電話をしているので、迷惑にはなってないと思う。

「うん、うん。おっけーわかった。じゃあまた後でねー」

 電話が終わり、携帯を上着のポケットに収納した美鈴がこちらを向いて電話の内容を伝える。

「『神社で合流してもめんどくさいだけだから大悟さんの家集合って言っておいて』らしいです」

「なるほど。……美鈴暇か?」

「ふぇ? はい、暇ですけど」

「一緒に屋台見に行こうぜ。500円までなら奢るぜ」

 一人で行動するよりも二人でいた方が楽しいし、今日のお礼もしたい。

「はい!」

 満面の笑みで答えてくれたので、嫌ではないんだなとわかる。誘ってよかった。

「じゃあほら」

「えっ?」

 今日何度目かの驚きの声を上げる美鈴。

「ほら、はぐれるといけないだろ? だから手繋ごうぜ」

 美鈴可愛いし変なヤツらに絡まれたらいけない。それに、美鈴とはぐれたら万事休す。どこにも連絡出来なくなってしまう。

「は、はい」

 先程までの元気な態度ではなく、頬をにほんのりピンク色に染めて、うつむきながら返事をしてくる。表情は前髪に隠れていてよく見えない。

 ゆっくりと俺の手に自分の手を乗せ、俺はそれをしっかり握る。美咲希の少し冷たく細い手でもなく、葉月のように暖かく柔らかい手でもない、冷たくてすべすべで柔らかい手。お互い手袋はしていなかったから冷たいだけかもしれないが、人の手って三者三葉なんだなと感じる瞬間だった。

「美鈴って、手ちっちゃいな」

 葉月とそんなに身長は変わらないのに、手はスモールサイズだ。

「そーですか?」

「おう。美鈴って感じがする」

「なんですかそれー。先輩の手は大きくて暖かいです」

 優しく握ってくるその手はやっぱり小さくて、でもしっかりしていて。ほんとに美鈴の性格と似ている。

「そりゃどーもです」

 一応手を褒められたので礼を言う。

「じゃあ行きましょう。あんまり長引くと葉月ちゃん怒っちゃいます」

「そうだな」

 俺らは拝殿を出て、参道を横に出たところにあるスペースへ行った。そこに屋台があるのだ。

「やっぱ屋台多いですねぇ……」

「そうだな。何か食べたいものでもあるか?」

 屋台は大勢存在するので、急いで決める必要は無いがとりあえず今のうちに候補があるなら聞いておこうと思って。

「実はもう決めてあって……たこ焼きが食べたいです」

「たこ焼きかぁ。粉物好きなのか?」

 ちょっと意外かな。甘いものが好きなイメージあったから。

「はい。たこ焼きは特に好きで」

 美味いもんな。わかるよ気持ち。

 たこ焼きの屋台はすぐ近くにあったので、購入しに行く。

「すみませーん。二つください」

 たこ焼きを一生懸命焼いているでかくて優しそうなお兄さんに声をかける。

「あいよ!ちょっと待ってな」

 おおう。見た目通りなかなかのイケメンヴォイスだ。

 そう言って、焼きあがったたこ焼きをプラスティックの容器に6つ入れて渡してくる。

「代金600円な」

「どもです」

 お礼を言いながら600円支払う。

 俺もたこ焼き食べたくなったし、ちょうどよかったから昼飯これでいいかな。確実に足りないけど。

「ありがとうございます」

「どういたしまして。あと200円あるけど、どうする?」

「そうですね……あ、バナナチョコ食べたいです」

 値段を見ると200円ぴったり。ふむ、いいな。今日厚着だしいちご飴とかめんどくさいんだよなぁ……俺も買お。

「おっけ」

 これも二つ購入。2人で1000円。ラノベ1冊とうまい棒35個ぐらい買える金額だが、美鈴も笑顔だし良かった。

 バナナチョコを手渡すと、美鈴はすぐにかぶりついた。

「はむっ。甘くて美味しいです」

 先端部分を少し噛んで、味わって食べている。

「チョコって美味しいですよね」

 そう言って、今度はバナナを加えたまま、チョコだけを舐めている。

 ……なんというか、エロいからその食べ方はやめて欲しい。

 俺もバナナチョコを食べる。表面のチョコがパリッとしていて、バナナのほんのりとした酸味と合わさってただ甘いだけではない絶妙な美味さを出している。

「やっぱ果物+甘いものっていいよな」

「そうですね。最強の組み合わせです」

 おお。美鈴もこのコンビの良さをわかってくれるか。

「じゃ、そろそろ行かなきゃ。みんな待ってるだろうし」

「はい。途中まで一緒に行っても大丈夫ですか?」

「もちろん」

 そうして、俺らは大悟の家へと向かった。

 手を繋いだままで。

8月が始まりましたね。

台風などの自然災害が増えると思いますが、みなさんもお気をつけください。

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