過去と夢と現在と
最近やる気がみなぎってます
「お兄ちゃん待ってよー」
広い草原で走っている子どもは僕達以外いない。
僕より1つ年下の妹、葉月は、僕と遊ぶのが楽しいらしくて、毎日公園で一緒に遊んでいる。
「あはは、葉月遅いよー」
強く地面を照らす日光と、吹き抜ける風。夏なのに今日は過ごしやすい。
光を反射し眩く輝く緑はゆらゆらと揺れていて、それがこの穏やかな時間を作り出しているのかもしれない。
「はぁ……はぁ……ちょっと、休憩」
体力がない葉月はすぐに休憩をしたがる。だから僕は満足出来ないままだ。
でもちゃんと葉月のペースに合わせる。だってお兄ちゃんだもん。
「しょうがないなぁー」
そう言って、葉月に近寄ろうとした時――地面が崩れた。
底が見えないぐらい真っ暗で、しかもどこに続いているかわからないので、恐怖心が俺を支配する。
「葉月! いるなら返事して!」
そう叫ぶも、返事はなく。俺は何も出来ないまま暗闇の底へと落ちていった――
ドンッ!
鈍い音が部屋に鳴り響く。閉じきってるカーテンからは光がこぼれている。これは確認するまでもなく快晴だろう。
「いってて……高校生にもなってベッドから落ちるとか情けなさすぎか」
鈍い音の正体はベッドから落ちた拍子に打った腰と床の接触音だった。
「お兄ちゃん……むにゃむにゃ」
ああ、なるほど。あの悪夢のようなものを見た原因はマルか。恐らく俺の上に乗っかっていたりしたのだろう。
「はぁ……葉月め。やってくれたな」
この場合犯人は2人いるのだが、1つの可能性は捨てる。起きてわざわざ俺の部屋に来るとは思えない。
はだけていた毛布をかけ直し、俺は部屋を後にする。
それじゃあゆっくり会議をしようじゃないか。
「葉月よ。どういうことだ?」
「なにが?」
「とぼけんな。マルだよ」
「え? マルちゃんがどうかした?」
マジで言ってんのかこいつ? 2つ目の可能性が正しいの? え?
「マルが俺の部屋で寝てた」
「おにい……まさか一線越えた?」
この反応、マジで知らないっぽい。
「そんな訳あるかあほ」
これはマルに聞いてみるしかないな。新年早々なんちゅー朝だよ……
「てか今何時だ?」
「8:30だよ。大悟さんの家行くんだよね?ならまだ余裕ある」
「さんきゅ」
欠伸をしながら、俺は台所へ向かう。久しぶりに料理がしたい気分なのだ。
「へぇ……珍しいね。なんかあったの?」
「ん? まぁな。昔の夢を見たんだよ。俺とお前が小さい頃の夢」
最終的には悪夢だったことは省略しながらも今朝見た夢を話す。
「あー、私も似たような夢見たよ。だから今日は私の分も作ってねお兄ちゃん」
「お前からお兄ちゃんって言われるのすっげぇ違和感だな。でも何で呼び名がおにいに変わったんだ?」
「だって長いもん。だから3文字のおにいにしたの。文句ある?」
なるほど。確かにいちいちお兄ちゃんなんて読んでたら疲れるよな。
「今更無いって。お前にはおにいって呼ばれるのが一番しっくりくるよ」
「そ。ならいいんだけど」
そんな会話を繰り広げていたら、ドン、ドンと優しい足音が聞こえた。マルが起きたのだろう。
「おはよー……お兄ちゃん、葉月ちゃん」
「「おはよー」」
少しとろんと垂れた目を擦りながら、挨拶してくる。いやはや、可愛い。
「マルちゃん、おにいになにかされなかった?」
「んーっとねー。ベッドに潜り込んだのになんにもしてなかったよ」
今時の10歳ってこんなに大胆なのか? 俺がその歳の頃は好きって気持ちも分からなかったぞ。
「それはよかった。風呂沸かしておいたから、入ってくるといいよ。昨日入ってなかったでしょ?」
「うんっ。これが朝風呂ってやつかぁ……憧れだったんだ」
風呂という単語を聞いて、一気に眠気が覚めたようだ。正直俺は風呂より飯の方が楽しみなのでその気持ちはよく分からない。
「よし、久しぶりに作りますか」
冷蔵庫から卵を4個取り出す。俺と葉月2個ずつの計算だ。
フライパンにサラダ油少量を加え、全体に広げてから温まるのを待つ。
頃合いを見て、卵を投下。黄身が崩れないよう細心の注意を払いながら焼いていく。目玉焼きだ。
まだ少し時間がかかるので、パンをトースターに素早く入れて、850Wで4分間焼く。
「出来たぞ」
卵は半熟。パンは外カリッと中ふわっと。我ながら上出来だと思う。
「おー、すごい昔のまんまだ」
なんだこいつ馬鹿にしてんのか?これ捉えようによっては全く成長してないって思われるぞ。
「あー、いや別に悪い意味じゃなくてね? なんて言うか、懐かしいなって思ってさ」
俺の心情を察した葉月がフォローをしてくる。まぁ、悪い意味だとは全く思ってなかったけど。
「冷めないうちに食え食え。お兄ちゃん渾身の1食だ」
あんまり兄という立ち位置にこだわったことは無いが、こう兄らしくしているとたまにはこういうのもいいかなって思えてくる。
パンの表面にマーガリンを薄く塗り、染み込むまで待つ。
ほんのりした塩気とパンの甘みが合わさって、なんとも言えない味を生み出す。
その上に目玉焼きを乗せるのだ。
「美味しい。おにいの作る料理って久しぶりに食べるといい感じだね」
「まぁな」
俺のスキルじゃ味の工夫とかその他もろもろのことが出来ないからこの朝ごはん3日続けば飽きる。
だから俺は頻繁に作ってるという訳では無いが、ここ数年作っていなかった。
「たまにはいいかもな」
「うん。だからたまに作ってね」
「任せろ」
次いつ作るかはわからないけど、その時は全力で作らせてもらおう。
微かに聞こえていたシャワーの音が止んだので、マルはもう湯船に浸かっているのだろうか。
時間にはまだまだ余裕があるし、ゆっくり出来そうだ。もうそろ美咲希も来ると思うしな。
そんなことを考えていたら、インターホンが鳴った。
俺は玄関へ向かい、鍵を開ける。
「あけおめ」
「あけおめ」
新年の挨拶を交わし、美咲希をリビングへと誘導する。もうここまで来ると案内とか要らないし。
「そろそろ来ると思ってた」
「そう。ただの変態ね」
「俺をそこら辺の変態と一緒にするな。大変態様だぞ」
「自分で言うってどうなのよそれ……」
今年初めての美咲希との会話がこれとは、先が思いやられる。と言っても、原因は俺なんだけどな。
「葉月ちゃんおはよ」
「おはようございます」
ま、なんつーかいつも通りだよな。年を越しただけで何かが変わる関係だとは思ってないけどさ。
「マルちゃんはお風呂?」
「はい。15分ぐらい前からですね」
「じゃあまだまだね」
出てくるのにまだかかるってことだろうか。なんで女子って風呂長いんだろうな。俺には理解出来ん。
「時間まで余裕あるし、ゆっくりしようぜ」
「そうね。少しぐらい遅れても何も言われなさそうだし」
俺達はマルが出てくるまで軽く麻雀をやった。
セミが騒がしくなってきましたね
ほんの数年前は低い位置にいて捕まえるのが簡単だったのですが、最近は高い位置にしかいない印象があります
虫取りして楽しめないじゃん……




