今はこの時を楽しむよ。全力で。
読んでくださった方々のおかげで50話目を迎えることが出来ました!!本当にありがとうございます!
これからもこの物語は続いていくので、感想、アドバイス等を下さると嬉しいです!!
俺の目当てのゲームは、この建物の5階にある。
俺達はエレベーターに乗り込み、そこへ移動するのだが。
「……来ないな」
「うん」
5分経ってもエレベーターが来ないのだ。よくある事なのだろうか。
この建物の1階はクレーンゲームが大量に設置されていて、ついついやりたくなってしまう。だが一回手を出すと次で取れるんじゃないかと希望が芽生えて気づいた時には財布の中身が無くなっていたということがあるので、素人の俺は絶対に手を出さない。
「どうしたのお兄ちゃん?」
おっと、俺としたことが顔に出ていたか。
「何でもないぞ。ただあの魔の機械の誘惑を断ち切ってただけだ」
「まのきかい?」
マルが不思議そうに首を傾げ、こっちを見てくる。
「あれはな。絶対に手を出しちゃいけない機械だ。何千円消えたことか……」
過去の思い出に顔を顰める。
本当に結構つぎ込んたんだよなぁ……思い出したくもないほどに。
やがて、エレベーターが到着して扉が横に開く。
そこに乗り込み、5のマークを押してしばらく待つ。
しばらくと言っても、待ち時間より全然早く、乗っていた時間はほんの20秒ぐらいだろう。
そして、目的の階について、静かに停止する。
俺の目当てのゲームは、ここから真っ直ぐ行ったところにある。
この階は様々な音が混ざり合い、ゲーセンに慣れていない人だと秒で出たくなるレベルだろう。
なので、俺はマルがぶら下げていた携帯にイヤホンを繋ぎ、葉月が使っている音楽再生アプリを起動させ、それをマルの耳に装着する。
最初は俺の行動に疑問を持っていたマルだが、次第に意図を読み取り、大人しくしていてくれた。
そして、音量を大きめにして携帯をマルに戻す。
葉月がなんの曲をダウンロードしているのかわからないが、とりあえず『アニメ』というフォルダを選択したので、マルの好みの曲もあるだろう。100曲近くあったし、飽きることもない。
さて、戦場に向かうとしますか。
◆
お兄ちゃんから『離れるな』と言われていたから、ずっとお兄ちゃんの服を掴んでいるんだけど、そろそろ疲れたな。
マルの身長より少し低い台をものすごい速さで叩いて、曲が終わるとほとんどfull comboと表示されている。
マルとは別次元のそれに、感動を覚える。
だって、知り合いの人がこんなことできるなんてすごいじゃん。並んで待ってる人も、お兄ちゃんのプレイに釘付けになってる。
レートと書いてあるところには、15.60って表示されてる。
マルにはそれが凄いのかどうかわかんないけど、多分凄いことなんだと思う。だってお兄ちゃんだもん。
これを本人に言うと「そんなおかしな理屈はない」って言われそうだなぁ。
お兄ちゃんはイヤホンを機械に繋いでるから、多分音楽が流れてるんだと思うけど、マルも葉月ちゃんのケータイにイヤホン繋いでるからよくわからない。
時々余裕がなくなったのか、台を強く叩いてる場面もあったな。
そして、1プレイ分が終わって、ふぅと一息ついてお兄ちゃんはここを出るぞと合図を送ってくる。
マルは従うだけだから、もちろんついていく。服は掴んだままで。
エレベーターに乗ったらマルはイヤホンを外して、お兄ちゃんに渡した。
「好きな曲あったか?」
多分、ケータイの音楽再生アプリのことを言ってるんだろうな。
「うんっ! 聴いたことない曲ばっかりだったけど、全部好き!」
「なんだそれ……でも良かった」
そう言って笑いかけてくる。その顔は優しくて、暖かくて。マルの人生でこの人と会えたのは一番の幸せなのかもしれない。
エレベーターが1階に付いて、お兄ちゃんが先に降りた。
「ほら、行こうぜ。この辺りで今イベントやってるんだよ」
手を差し伸べてくる。マルはその手を握り、満面の笑みで言う。
「うんっ!」
今はこの時を楽しむよ。全力で。
◆
「いやぁ、歩いたなぁ」
ゲーセンを出たあと、イベントの長蛇の列に並び、人混みを進んでいたので体力がごっそり奪われた。
今は駅にいるのだが。
「うん……」
マルがとても眠そうなのだ。
しかし、自分からは絶対に眠いとは言わないので、健気なものだ。
「眠いだろ」
「そんなことないよ」
「無理してるだろ」
「してない」
ダメだこりゃ。もう少し素直だったらいいんだけどな。
優しさ故に迷惑をかけたくないと思っているんだろう。
俺はバッグを抱き抱える状態にして、背中を開ける。
「ほら、乗れ」
「でも……」
「いいから」
ここまで頑固なら多少乱暴に有無を言わせず従わせるしかない。
「ありがと」
そうして俺はホームでマルをおんぶした。
腰のあたりで足を抱えて支えて、マルは腕を俺の首の前で組んだ。首が絞まらないので、マルの気配りの良さを感じる。
マルの荷物は葉月の携帯と、小さめのショルダーバッグのみなので、結構楽だ。マルも重くない。むしろ軽いぐらいだ。
ただ、1時間耐久となると俺の体力が持つかどうかわからないが。
「ま、頑張ってみますか……元運動部の意地を見せてやる」
誰に向けてもない独り言を呟いた。
『間もなく、電車が参ります。危ないですので黄色い線の内側までお下がり下さい』
丁度電車も来たみたいだ。
よかった。ここで20分とか待ってたら体力が心配だったから。
小学生をおぶった高校生が電車に乗るとか、我ながら変な状況だなと思う。
……これ問題にならんよな? お巡りさん来たりしないよな?
いや、やましい事なんてないんだけど。とりあえずマルの太もも柔らかい。
俺らの街に近づくにつれ、人がどんどん減っていった。
都会とも田舎とも言えない微妙な所が目的地の人なんてそういないもんな。
なので、マルを俺の隣に座らせた。
違うな。正確に言うと、マルを座らせてから俺が隣に座った。
日本語って難しい。
ここから俺らの街までは4駅ほどある。薄暗くなった空はもうすぐ闇に包まれるだろう。
15両編成のこの電車の中には、人が5人ほどしかいない。
白い光が照らす車内で揺られながら、音楽を聴いたり読書をしたり、ぼーっと外を眺めたり。
同じ空間なのにみんなやってる事は違くて。多分、いや、確実に思っていることも違う。
そんな空間が、俺は嫌いではなかった。
だから、たまにこう言った交通機関を利用したりする。
心が安らぐと言うか、落ち着くと言うか。
数少ない俺の癒しになってるのかもな。
「お兄……ちゃん」
「ん? って、ただの寝言か」
そんな可愛い妹的な存在のさらさらした金髪を撫でる度、もふもふとした感触が増していく。
やばい。これ中毒性あるぞ。
そんなことをしているうちに、我が家のある街に着いたようだ。
マルは……起こさなくていいか。このままおぶって行こう。
駅から家まで歩いて15分か。まぁ行けるだろ。
バッグの中に入ってる30冊近くの本達が地味に重いが。
ホームの階段を登り、改札まで行った時に問題に気づく。
俺はICカードを利用しているが、マルはどうだったっけ。切符を買って……無かったな。つまりはICカードだ。
どこにしまってたっけ。
試しに右ポケットを探ってみる。
すると、長方形の少し硬いカードのような物があった。
ビンゴか?
慎重に取り出し、確認する。
ビンゴだ。
ICカードを取り出したのはいいが、どうやって出ようか。
そういえば小学生の頃、困ったら大人を頼れとか言われてた気がする。
……あそこで暇をしている駅員に頼もう。
「あのー、少し手伝ってもらっていいですか?」
「はい、何でしょう?」
さて、どうやって説明しようか。
「俺の背中に乗ってる子、寝ちゃってて。俺が先にこの子と一緒に改札出るんで、駅員さんはこのICカード使って後から出て来てくれませんか?」
「いいですよ」
いいのかよ。まぁ、今は感謝しよう。
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、俺は改札を出た。
そして、振り向き、駅員を待つ。
「はいどうぞ。気をつけて帰ってくださいね」
とても親切な駅員だ。この対応といい、気配りといい、尊敬に値する。マジリスペクトっす。
「はい。どうもありがとうございました」
そうして、俺は夜道を15分歩き続け、無事我が家に到着した。
7月もそろそろ終わり、8月を迎えるわけですが、作者はほとんど家から出てません。
皆さんはあまり引きこもらないように気をつけてください。




