クリパ⑧
やっべクリパいつ終わるんだ……
俺が目を覚ました時は、既に次の日の朝だった。
寝ぼけている脳で理解できるのは、ソファーに座っているということと、誰かが俺に体重を預けているということだけだ。
は?誰かが?俺に体重を預けてきている?一体誰が?
答えはすぐに出た。俺が隣を見ると、そこには美咲希がいた。
そういえば、昨日二人寄り添ったまま寝たんだっけ。
リビングの暖房は付いていて、さらには毛布までかかっている。恐らく、葉月たちが気を使ってくれたんだろう。不快感を覚えることなく、案外快適に寝れた。
……改めてこんなに近くで美咲希を見ると、可愛い。
見蕩れてしまった俺は、美咲希を抱き寄せる。
自分でやっておいてアレだが、この行動はかなり恥ずかしいな。誰かに見られたら悶絶レベルで。
「ずっと一緒に……いたいな」
俺にも不安があったのだろう。自然と弱音が出ていた。
誰にも届かないと思ったその言葉は、どうやら届いてしまったらしい。
「私はそのつもりだけど?」
はい、起きていたんですねわかります。
「ごめん、少し不安になった」
「なんで謝るのよ」
「美咲希のこと、ちょっとだけ信じられなかったから」
「そんなの些細なことよ。肝心なのはこれからでしょ?だから、今回は許してあげるわ」
「……ごめんな。ありがとう」
「わかればいいわ」
今回はって言ったよなこいつ。でも、俺の悩みも無くなったし、次はないようにしよう。
感謝の気持ちを込めて、抱きしめる力を少しだけ強めた。美咲希はそれに抵抗することなく、俺の背中に手を回している。
そんな、甘くて幸せな時間はすぐに幕を閉じた。
「あー……リアリアしてますねぇ。爆ぜればいいのに」
恨めしそうな視線を送りながらそう言うのは葉月。
小鳥遊と大悟と起きてたらしく、葉月の後ろにいる。
「どーゆー状況だこれ?」
「あたしに聞かれてもわかんないよ」
みんなの言葉を華麗にスルーして、俺は爽やかに挨拶をする。
「やぁ。みんなおはよう」
ふっ、完璧。
多少キャラ崩壊してるかもしれないがこれなら――
「おにいキモい」
どうやら逆効果だったらしい。
「人がせっかく挨拶してやったのになんだよそれ」
少し不貞腐れてそう言う俺。
別にいいんだけどね、うん。
「はいはい。リア充はどうか爆破してください」
こいつリア充に対する爆破願望凄くないか?気持ちは分からなくもないけど。
「じゃ、飯食ってさっさとカラオケ行こうぜ」
強引に話を変えた俺。
「そういえば悠眞。お前最後にカラオケ行ったのいつ?」
大悟が問うてくる。
最後に行ったのは確か……
「1年半前ぐらいだと思う」
ハッキリ覚えてないが、受験の息抜きにカラオケ行った記憶がある。
高嶺と高木、それに大悟と一緒に行ったっけ。懐かしいな。
また一緒に遊びたいな。遊べたらいいな。
そんな風に思っていた。やっぱり中学の友達って大切だよな。
「ああ、あの時か。俺もそうだわ」
大悟も懐かしんでいるのか、その顔には笑顔が浮かんでいる。
今度絶対に行こう。昔のメンバーで。
「じゃあ私朝ごはん作りますね!」
葉月がそう言って、朝ごはんを作りに行った。
葉月の作った朝ごはんを食べ終え、俺達はカラオケへ向かった。
「冷えるわね……」
確かに、部屋は暖房が効いていて快適だった。
しかし、外は肌に突き刺さるような寒さで、歩くだけで辛い。
と言っても、マイナスの温度ではなく、恐らく0度にはなっていない。
……北海道とかどうなってんだよ。
それに、俺らは自転車をこいでいるので、無防備な顔に風が当たり、なかなか寒い。
だが、幸いカラオケとの距離はそう遠くない。
寒いことには変わりないが、移動時間が少ないという事は、それだけ外に出なくて済むという事だ。なので、そこまで辛くはない。
そして、カラオケに着いた俺らは、一目散に店内へ入っていった。
店の中は快適なもので、上着は必要ないぐらいだった。
「いやー、やっぱここのカラオケ安いね~。高校の近くにあるやつより400円ぐらい安いよ」
そう言ったのは小鳥遊。
「あそこ高いもんな。俺入学してから50回ぐらい誘われてるけど高くて行ってない」
苦笑いを浮かべながら大悟が言う。
400円って結構でかいよな。その気持ちわかるよ。
それに、クリスマスと受験シーズンという事もあって、この時期は意外と利用者が少ない。
一般家庭は旅へ行っていたり、リア充は街でイチャついたり、学生は受験勉強に励んでいたり。
それぞれがそれぞれのやりたいようにクリスマスを過ごしている。
そんな中、カラオケへ来るのはごく僅かな暇人と、全てを諦めかけている受験生、それに、デートスポットが思い当たらず、適当にカラオケに来るリア充だけだろう。
俺らは暇人でリア充で受験生もいるんだけど。
受付にかかった時間は数分で、すぐに部屋に案内された。
「さーって、何歌おうか」
そわそわしながら俺は言った。
「お前楽しそうだな」
大悟が苦笑いを浮かべている。
久しぶりのカラオケだし、仕方ないだろ。
この部屋は俺の部屋より少し広く、5人で利用するのは少し狭い気もするが、気にしなければ何ともない。
「トップバッターいただき!」
葉月がマイクを取り、慣れた手つきで曲を選択した。
葉月が歌うのは基本アニソン。学校では隠しているらしいので、学校の友達などと一緒の時は今流行っているアイドルやバンドの歌を歌っていたりする。
歌が上手いので、そこそこ歌えるのだが、アニソンには及ばない。
伸び伸びとした元気な歌声に包まれ、聞いていて心地がいい。
やがて曲が終わると、俺らは余韻に浸っていた。
「はぁー、アニソンいいですね!」
ちなみに、葉月が曲を入れる前、俺は高速で採点をするように仕組んでいた。
「ん?採点?あー、おにいの仕業か。へー、こんなんで91点出るんだ」
なめたこと言いやがって。俺が本気で歌っても90点超えるかどうかなのに。
「葉月ちゃん上手いわね。次は私が行かせてもらうわ」
器用に機械を操り、曲を入れた美咲希。
こちらもアニソンである。
メジャーなもので、この場にいる全員が知っているような曲だ。
美咲希の透き通る声が部屋全体に広がる。葉月は元気な感じだったが、美咲希の声は落ち着く。
「ふぅ……カラオケ何年ぶりかしら?よく覚えてないわ」
歌上手すぎかよこの2人。
「92点……まぁまぁね」
どこがまぁまぁなんだ一体。
そうして、俺らは各自好きな曲を歌った。
……みんなアニソンだったが。
36部目です!書き始めてから3ヶ月、コメントを貰えて嬉しんだり、やる気が失せたり色々ありましたが、なんだかんだ言ってまだ続けています。
この物語は3年編まである予定なので、どうか暖かい目で見ていってください。
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