クリパ⑤
なんか途中訳の分からないこと言ってるかもしれないけど、許してください……
どれぐらいが経っただろう。
意識を手放してからの記憶は、当然だがない。
それにしても随分短時間で寝たものだ。
最近、遅寝早起きを繰り返していて、疲れが溜まっていたのだろう。
それに、美咲希の膝の上は心地よく、睡眠欲が刺激させる。
それもあってか、とてもよく眠れた。
……まぁ、それは感覚的な問題で、時間的には30分も経っていないだろう。
葉月が調理していて、テレビの前で小鳥遊と大悟がゲームして遊んでいる。
大悟、ゲーム下手なクセに、自分からゲームしたいって言うんだから驚いたもんだ。
俺がどれだけボコっても、次の日、またやろうと言ってくる。
向上心があるのはいい事だが、こいつにゲーム、と言うよりインドアな遊びは向かないのだ。こいつ、興味のないことは見向きもせず気になったものはとりあえずやってみて、楽しかったら打ち込むような感じだ。ただ、周りに流されやすいので、流行っているものや、親しい友人が勧めてきたものは大体やっている。無論、つまらなかったら秒で消しているが。
でもまぁ、本人が楽しければそれでいいんだけど。
「ふぁ〜、よく寝たぁ……」
欠伸混じりに俺がそうった。
「すっごく気持ちよさそうに寝てたけど、あなた最近寝てないの?」
「まぁ、そうだな。平均睡眠時間は4時間ほどか。おかけで昼でも余裕で眠い」
結構本音の俺の言葉に、美咲希は
「昼でも余裕で眠いって……ちゃんと寝なさいよ」
「そうだなぁ。そろそろきついし、今日ぐらいちゃんと寝るよ」
泊まり会なので、俺の部屋には大悟がいるが、そこは……気にしなくてもいいだろう。
相手は大悟で、男同士の語り合いもないし、大体お互いのこと分かっているのでアイコンタクトでコミュニケーションが取れる。
だから俺を静かに寝かせてくれるだろう。……多分。
確信が持てないのは、大悟が悪戯好きだからだ。なのでちょっかいを出してくる可能性がある。
その場合は1発ぶん殴ってから黙らせよう。
密かにそう思いながら、その場で料理が出来上がるのを待った。
それにしても眠い。
目を開けていると、頭がぼーっとして、自然とまぶたが重くなる。
諦めてそのまま意識を手放したくなるが、今から寝ると朝まで起きれなくなると思ったので、ギリギリのところで耐える。
「料理出来ましたー!」
ナイスタイミング、葉月。
「じゃ、私料理取ってくるわね」
美咲希がそう言ったので、俺は体を起こし、テーブルへと向かった。
「あたしも行ってくる!」
ゲームで遊んでいた小鳥遊も料理を取りに行った。
椅子に座って待っていると、数十秒も経たずに美咲希達が料理を運んできた。
「お待ちどうさまです……」
さっきまで元気だった美咲希が、何故かテンションが低い。と言うより、恥ずかしがっていると言った方が正しいか。
何故だ、と考えていたが、美咲希が手に持っているケチャップを見て、なんとなく察した。
小鳥遊の方も見てみると、あちらも同様にケチャップを持っている。それに、少しだけ恥ずかしがっている。
その様子を見れば、誰がこれを提案したのかわかる。
で、その犯人の方を見たら何やら恨めしそうな目でニヤニヤしながらこちらを向いている。
楽しそうにするか恨めしそうにするか、どっちかにしてくれよ。
そして、無言のままケチャップの蓋を解放し、構えた美咲希。
恐らく文字を書くのだろう。
その予想は正しかったようで、器用に文字を書いていく。
一文字目は『L』
L?英語か、予想外だ。
二文字目は『O』
……ここまで来れば誰だって分かるだろう。
それにしても、ほんとに美咲希、器用だな。ケチャップで書いた字なのにとても整っている。
三文字目は『V』
流石に、ここでわからない人なんているのか?
そして最後、『E』
そして、ふぅ……と羞恥と緊張から解き放たれた安堵の息をこぼし、
「色々とありがとう。これからもよろしくね」
と、はにかんだ笑顔を見せてくる。
畜生惚れるじゃねーか。まぁもう惚れているのだが。
「こちらこそ、だ。美咲希には色々世話になったからな」
初の彼女が、こんなに可愛くて優しくてって、文句のつけようがないしな。
「ほ、ほら。早く食べなさいよ。せっかく葉月ちゃんが作ってくれたのに冷めちゃうわよ?」
照れくさくなったのか、少し早口になっている。
「はいはい。……じゃ、頂きます」
そして、オムライスを1口食べた瞬間、オムライス特有のふわふわ感、卵の味が口の中に広がって、それに少し遅れて優しく包み込むような匂いが漂った。
結論を言えば、美味い。結構美味い。
こんなの、俺1人が食べて楽しんでもつまらないので、少しリア充っぽいことやりますか。
「美咲希、ちょっと俺の隣まで来てくれないか?」
3秒ほど首をかしげて戸惑っていたが、俺のその言動だけではなにをするのかわからないと思ったのか、諦めるようにして俺の隣に来た。
「そしたら、俺と同じ目線になるまでしゃがんで」
「こう……でいいの?」
膝に手を置き、軽く前屈みになって俺と目線を合わせてきた。まぁいいだろう。
「そしたら、俺の方向いて口開けて」
ここに来てようやく俺の意図がわかったようで、もう何も言わずに従ってくる。察しがいいよなこいつ。
そして、オムライスを一口サイズですくい取ると、そのまま美咲希の口にスプーンを運んだ。
「ほれ」
「ふむっ!?」
突然食べさせられた事に驚いたのか、それともあまりの美味しさに驚いたのか、俺にはどっちかわからない。
……でもまぁ、俺の意図は読み取っていたはずなので前者はありえないかな。
「ふむふむ、すごく美味しいわね」
「だろ。すっごい美味かったから分けた」
うわー、俺リア充してるわー。昔の俺が見たらどんな反応するんだろうな。
そして、飯を食べ終わった俺らは、食器を片付け、次は何をしようと会議をした。
そろそろ文庫本1冊の文字数になりそうです。
1話から読んでくださってる方、ほんとに感謝しかありません。
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