クリパ④
今までで最高に長いです。
暖かい目で見てくださると嬉しいです
俺らは家へ向かっている。
途中、東城南波斗とかいう怪物に話しかけられたこと以外は何の問題もなく、15分ほど自転車をこいでいた。
「ねー、まだつかないのー?」
信号待ちのところで、このメンバーの中で最も体力の無い小鳥遊がもう限界とばかりにそう言ってくる。
「あと少し。時間にすると3分ぐらい?」
俺がそう言うと、小鳥遊は
「まだ3分もこがないといけないのかぁ……」
と軽く絶望していた。
「いや、そんな絶望するような距離でもないだろ。あと少しがんばれよ。まぁ、ほんとにダメだったら大悟が何とかしてくれるさ」
俺が大悟に全て任せようとしたら、
「いやまて、なんで俺?」
納得出来ない大悟が声を上げる。
まぁそれは軽く無視して、前を向くと丁度信号が赤から青に変わった。
そして、俺らは残り僅かな道のりを再び走り出した。
「着いたな。流石に少し疲れた」
まぁ、朝の10時からバッセン行って自転車こいでゲーセン行って自転車こいで……1回も休んでないので小鳥遊の体力が限界を迎えるのも無理はないな。
「そうだね、じゃあ皆さん、家に着いたんで少し休み――」
「うっひょー!コスプレじゃ!皆の者、行くぞ!」
葉月が言い終わる前に、そう言った小鳥遊。
……キャラ崩壊してませんか?小鳥遊さん。
よっぽど楽しみだったのか、家に着くと同時にテンションが上がり、先程までの疲れを全く感じさせない動きで、葉月と美咲希を連れ去っていく。
「なぁ大悟。俺らどうすればいいと思う?」
「……なんで俺に聞くんだよ」
「お前の彼女だろ?何とかしてくれよ」
「そう言われてもなぁ……もうどうしようもねっすよ先輩」
口調が変わった大悟を見て、俺は本当にどうしようもない事を察した。
どうやらこの場の主導権は小鳥遊にあるようだ。
そして、俺らも家の中に入っていった。
家の中に入った俺らは、リビングに向かったが、そこで女子達が着替えていた(正確に言えば着替えている気配がした)ので、仕方なく廊下で座って待っている。大悟も同様だ。
時々、リビングから
「ほんとにこの服着るの?」
とか
「なかなか恥ずかしいですね……」
という声が聞こえてくる。一体何に着替えているのだろうか。
そんな風に期待しながら、待つこと5分。リビングから小鳥遊が俺らを呼んだ。
そして、ドアの前に立った俺は、ノックをした。
「入るぞー」
やや棒読みな声に、
「どうぞどうぞ!」
と、陽気な小鳥遊の声が返ってくる。
ドアを開けると、昼と夕方の間の時間の太陽光に、一瞬だけ目が眩む。
やがて、視界が安定してきて、3人の美少女が目に映る。
「おお……これは絶景だな。小鳥遊よくこんな服持ってるな」
しかもそれぞれに似合っている。
小鳥遊と美咲希はメイド姿。
葉月は俺らの通っている高校の制服。
美咲希と小鳥遊のスカートはくるぶしが隠れるほどあるのだが、葉月が着ているものは、いつも小鳥遊が着ているスカートに、恐らく美咲希のワイシャツだ。
なので、スカートは短く、健康的で柔らかそうな太ももが現れている。夏場、下着姿で過ごしていたが、パンツが見えそうで見えないと言うギリギリなラインで、なんかエロい。ワイシャツは少し小さく、ゆったりとした胸が強調されている。
美咲希はと小鳥遊はよくあるメイド服を着ているが、二人の雰囲気は全然違う。
美咲希は少し恥じらい、露出はほとんどしていないのに色っぽさがあり、押し倒したい欲望に駆られる。
小鳥遊は堂々としていて、周りの人を元気にするような力がある。小柄な体格もあってか、とても可愛らしい。
その光景を見た俺と大悟は、言葉が出なかった。
「やっぱあたしと美咲希の服、同じじゃ面白くないよね」
小鳥遊はそう言って、大きなカバンに手を突っ込んで、何かを取り出した。
そして、スカートの中にそれを穿くと、もともと着ていたスカートを脱いだ。
一瞬何やってんだこいつ?と思っていたが、よくその姿を見ると、長いスカートから短いスカートになっていた。白いニーソックスを穿いていて、膝より少し上の部分まで脚を締め付けている。だが、ニーソックスが届いてない部分から少し溢れた太ももがエロい。小鳥遊は小柄なので、もっと細いかと思っていたのだが、意外とむっちりしている。
「なんだここ……天国か?」
俺の言葉に、
「俺、この日のために生まれてきたのかもしれない」
大悟が便乗した。大悟は普段隠しているだけで、実はかなりのメイド好きなのだ。
だからこの光景はたまらないだろう。
「小鳥遊なんで最初からそれ着なかったんだ?二度手間だろ?」
俺の問いに、小鳥遊は
「いやぁ、この格好結構恥ずかしくて……」
えへへ、とはにかんでいる。
「で、なぜ葉月はうちの高校の制服着てんだ?」
結構疑問に思っていた。メイド服2人に制服1人は謎すぎる。
「葉月ちゃんなら似合うと思ったんだよ。で、着せてみたらほんとに似合ってた!超可愛い!」
べた褒めの小鳥遊。それに、葉月は頬を赤く染めている。
「た、確かに1回着てみたいとは言いましたけど、この短さは恥ずかしいです……」
階段で前にいたら確実に見えるぐらい短い。そもそも身長140後半と150後半とでは結構大きな差なのだ。
それをわかった上で小鳥遊は自分の制服を貸したのだろう。
あと胸でかい。柔らかそう揉みたい。
だが紳士の俺はそういうことはしない。そもそも兄妹だし。
「ねぇ悠眞!葉月さ、めちゃくちゃ可愛いと思わない!?顔面偏差値高いし、性格いいし、身長あたしより高いし胸でかいし」
最後の方は声が震えていたが、気のせいだと信じよう。
「凛花さんそんなに言われると照れますよぅ……じゃ、おにい達もう1度外に出てくれる?」
なんで?と聞き返したかったが、多分教えてくれないだろうから大人しく従うことにした。
「……了解。ほら大悟、行くぞ」
ぼけーっと突っ立ってる大悟を無理矢理部屋から引きずり出し、ドアを閉め、再び廊下で合図があるまで待つ。
「悠眞……俺生きてて良かったよ」
「待てまだ死ぬのは早い」
アホみたいなやり取りを交わしていたら、リビングから合図が出た。
「入っていいよー!」
合図を出したのは小鳥遊だな。
そして、俺はノックをしてドアを開ける。
「「お帰りなさいませご主人様!」」
2人のメイドに向かい入れられて、大悟が気絶する。
ドアの前で倒れられたままだと邪魔なので端に寄せておく。まぁ、好きな人がこんな可愛い姿で、天使のような笑顔で言ったのだから破壊力は相当だ。
先程まで恥じらっていて、若干挙動不審になっていた美咲希は、それが嘘のような仕草で、俺をソファーへ座るよう促してくる。
小鳥遊はと言うと、大悟の方へ駆け寄り、頭に氷の入った袋を置いてキッチンにいるメイド姿の葉月の元へ向かっていた。
「お前さっきめっちゃ恥ずかしがってたのに今は全然そんな様子見せないよな」
俺が美咲希に問うと、
「私猫をかぶる事が昔から得意なのよ。自覚するほどにね。だから入学してから今までで仲良くなった人には、初対面と全然違うって言われたりするわ」
なるほど、よくいるよな。
……でも全然違う?いや寧ろ変化なくて笑うレベルなのだが。
「でも俺達が初めて会った5月の中旬から今まで、俺に対しての態度は全く変わらないように思えるんだけど?」
猫をかぶっていたのなら変化に気づくはずだ。それとも、俺に対しては猫をかぶっていない?
「そうね……それ私の人生で一番の謎よ。喋ったこともなかったあなたに対して猫をかぶらなかった。どうしてか本当にわからないわ。まぁ、それは悠眞が初めてだったし、その事もあって今こうして付き合ってるんだと思うわ」
人生で一番の謎かよ……
色々ツッコみたかったが、日が暮れてしまうのでやめた。
「ご注文お願いします、ご主人様♡」
語尾にハートが付く声で美咲希が言ってくる。
こいつの猫かぶり、レベル高いな。
当たり前だが、自分の感情を押し殺すのは結構難しい。
俺は、手渡されたメニューを眺めて――メニュー?
A4サイズの画用紙と紙を使って、手書きでメニューが書いてある。手作りメニューだ。値段は書いておらず、代わりにあと何個作れるか、出来上がりまで何分かかるかが書いてある。
夕飯にはまだ少し早いが、昼を食べてないのでかなり腹が減った。
生姜焼き、ハンバーグ、野菜炒め、ピーマンの肉詰め、オムライスがメニューで、この中から好きなもの選ぶ事が出来る。
「俺ハンバーグ!」
と、いつ復活したのかわからないハイテンションな大悟が隣で元気よくそう言った。
「お前いつ目を覚ました?」
正直朝まで起きないかと思ったのだが……
「この俺がメイドを前にしていつまでも寝てるわけないだろ」
と、謎のことを言っていた。
なるべくメニューは被らない方がいいと思い、俺はオムライスを注文した。
「美咲希さん凛花さん、30分です」
メイド服を着た葉月が調理までにかかる時間を、2品の合計で言う。
「了解したわ。ここからが私達の本領を発揮できる場面ね」
「了解っ!時間稼ぎは任せて!」
2人の言葉に俺らがハテナマークを浮かべていたら。
「ご奉仕タイムよ。私に出来ることなら何でもするわよ」
なるほど、だから本領発揮か。
まぁ頼み事なんて一つしかないのだが。
俺は、今朝味わった感覚を忘れないでいる。
柔らかな感覚。鼻腔をくすぐる女の子の匂い。
「じゃあ膝枕頼む」
「もう……何でもするって言ってるのに……」
その声は期待はずれな返答による呆れと、少しの安堵が含まれていた。
「俺はこの世界で一つだけの枕が今朝好きになった」
素直にそう言うと、美咲希は少し照れていた。可愛い。
今朝とは違い、スカートの繊維の感覚があるが、その繊維が極上の柔らかさを引き立てていて、本当に枕みたいになっている。
……とても眠くなる。
そんな俺の内心を見透かすように、美咲希が優しく頭を撫でてくる。
そして、とうとう俺は意識を手放した。
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