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クリパ③

少し長いです。

今回ネタがほんとに出ませんでした……

 バッセンからゲーセンまでの距離は、そこまで遠くない。

 自転車を走らせて10分ほどだ。

 道は曲がり道が多くあり、ちょっと複雑だが方向音痴でない限り一度通れば覚えられる。

 俺らは単縦陣を組みながら、ゲーセンへ向かっていた。

 しかし、自転車に乗っていて危険ということもあってか、みんな無言なので、傍らから見ればただの変な集団だろう。

 やがて、GAME!と書いてあるでかい看板のある、この街にある唯一のゲーセンに着いた。

「おーし、着いたぞ」

 唯一と言っても、意外とちゃんとしているゲーセンに

「え、この街にこんなゲーセンあったんだ……」

 と、小鳥遊と、葉月以外のみんなも困惑している。

「中も意外とちゃんとしてるんだぜ?入口付近にクレーンゲーム、右奥には音ゲー、直進でレーシングゲームとか色々ある」

 俺が軽くこの施設の構造について説明していると、美咲希、小鳥遊、大悟は

「「「ほぇ〜〜」」」

 と、なにか感心したような声を上げ、さっさと遊ぼうとそわそわしている。

 それは、俺と葉月も例外では無かった。俺の目的は音ゲーだが、みんなでわいわいはしゃぎながら周るのを優先しようと思っている。

 それが今日の本来の目的だしな。

 と、まぁそんな訳で今日は色々と楽しみなのだ。このあとコスプレ大会的なのもするらしいし。

 そのための衣装は今日小鳥遊が持ってきてくれていたが、あまりにも大荷物過ぎたため、今それは俺の家に置いてある。

 で、そんな小鳥遊には必要なものだけ持たせて小さいバックを貸した。

「じゃ、行くか」

「「「「おー!!」」」」

 そう言って、自動ドアを通り、店内へと足を進めた。

 1歩踏み入れただけで、ゲーセン特有の爆音と、独特の臭いがして、興奮する。

「うっひょー!久しぶりに来たあ!!」

 俺が軽く叫んだところで、ゲーセンの爆音によって掻き消される。むしろ、相手とコミュニケーションを取りたいと思うなら、思いっきり叫ぶか、ジェスチャーをしなければならない。

 一番最初に目に止まったのはクレーンゲームだが、これは俺が何度やっても取れないので、他の人のプレイを見て楽しむ。

「大悟もっと右!」

 仲睦まじいカップルだなぁ、と思っていると、後ろから背中を優しくつつかれた。

 誰だ、と思い振り返ると、美咲希がいた。

 それを認識したと同時に、携帯が震えた。

『何してるの?』

 もちろん、メッセージを送ってきたのは美咲希だ。

 おそらく、大声出すと疲れるからわざわざメッセージを送ってきたのだろう。

『大悟達のクレーンゲームを見てる』

『なら少し付き合ってくれない?』

 特にすることも無いので、頷くと満足気な笑みを浮かべて俺の手を取って店内を移動していく。

 ……これ普通逆じゃないか?

 まぁいいか。

 そうして、連れてこられた先は音ゲーコーナーだった。

(美咲希って音ゲーやるんだな)

 その音ゲーは、今は誰もいないので、空いている。

 美咲希はそれを指さしてやろうとジェスチャーをしてくる。

 中学の頃音ゲー廃人と呼ばれたこの俺と一緒にやろうとは。

 しかし、美咲希は俺の実力を知らないし、俺も美咲希の実力を知らない。

(お手並み拝見といこうか)

 このゲームは、店内マッチングが出来る。

 どちらかが曲を選んで、もう一人がそれを選択すればマッチング成立だ。

 もちろん、選んだ難易度が表示させるので、それで相手の実力はほとんどわかる。

 そこに表示された難易度を見るために、俺は先に美咲希に選ぶよう促した。

 数秒、曲を探していたが、決まったのか、俺の方の画面に曲が表示された。

 それを見て、俺は戦慄した。

 この曲は、このゲームの中で最高難度なのだ。それを平気な顔して選ぶとは……しかも難易度MAX。

 正直俺としてはもっと簡単な曲でウォーミングアップをしたいのだが。

 最初から辛いなぁ、と思いながら、俺はそれを選択した。


 そこからは凄まじかった。悠眞も美咲希も、負けずとやっていたので、コンボ数と精度がおかしいほどになり、傍らから見てた葉月達は驚きを隠せなかった。

「あれ人間……?」

 それは、悠眞の実力を知っている葉月も例外では無かった。

 葉月も音ゲーは上級者に区別されるほどの実力を持っているが、悠眞はその遥か先を行っている。

 その悠眞と互角の実力を持っている美咲希の凄さは、悠眞を除くみんなよりもわかる。

(すごい……おにいはもちろんだけど、美咲希さんも相当な実力だ)

 ミスがなく、このまま2人ともフルコンボをとる勢いだ。決して曲が簡単なわけではない。この音ゲー最高難度の曲だ。それをミスどころかほとんど完璧なタイミングで捌いている。

 おまけに、悠眞に全力を出させている。ほとんど全力を出さないのに。

 人間離れしていたその光景に、尊敬と少しの嫉妬を浮かべている葉月。

 やがて、1クレジット終わったのか、悠眞と美咲希がこちらへ向かって来た。

「いやー、久しぶりにやったなぁ!楽しい楽しい」

 ゲーセンの爆音をものともせず、心の底から楽しそうな声でそう言う悠眞。

「おにいキモい」

 嫉妬を含んだ葉月の声に、悠眞はどこまで気づいただろうか。

「そこら辺の音ゲーマーからするとお前も十分キモいけどな」

 そんな風に軽くからかってくる。

 ……このおにい後でぶん殴ろう。

「もう用は済んだの?早く行かないと時間無くなっちゃうよ」

 少しぶっきらぼうになったこの声を悠眞はどう捉えるだろうか。

「ん……そうだな」

 そうして、私達は出口へ向かった。


 俺達が出口へ向かっていたら、クレーンゲームコーナーに4~5人ほどの人集ひとだかりが出来ていた。

「なんだあれ?」

 疑問に思ったのは俺だけではなかったらしく、葉月達も興味津々だ。

 その人集りに近寄り、様子を見てみると、ズッシリとした身体の持ち主がクレーンゲームをプレイしている。

 しかも上手い。

 次々に景品を受け取り、でかい袋が2つパンパンになるほどになっている。

「すごいな……」

 俺が尊敬の眼差しで見ていたら、大悟が急に騒ぎ始めた。

「悠眞!あの人さっきバッセンにいた人だよ!」

 そう言われて、俺はその人を見た。

 言われてみれば確かにあの人だ。でもどうしてここにいるんだ?

 そして、一番取るのが難しそうな景品を取り、俺達を含める周りの人が拍手をしてゲーセンを出た。

「あのクレーンゲームの人凄かったな。バッセンにもいたし」

 俺のその言葉に答えたのは、葉月でもなければ大悟でもない。

「そりゃどーも、川崎悠眞君」

 後ろから不意にかけられた声に、反射的に振り向き、声の主を確認した。

「やあ。初めまして、かな?俺は東城南波斗とうじょうなはと。とある強豪校の4番です」

 軽く強豪校の4番という辺り、こいつにとってそれはどうでもいい事だとわかる。

「そんな人が俺に何の用だ?」

 少し警戒しながら俺が問うと、

「いやぁ、弱小無名中学校を市1位にするどころか、地区1位に導いた実力者の川崎悠眞君と1回話がしてみたかったのさ」

 こいつよく知ってるな。

「なぜそんなことを知っている?」

「俺は憧れの人がいたんだ」

 突然に始まった自分語りに戸惑った俺は

「いきなり何言ってるん?」

 と、反射的に聞いてしまった。

「まぁ最後まで聞いてくれよ。その人は試合でみんなを引っ張ってた。声もよく出てて、技術的にも申し分なかった。そんなリーダーになりたいと思っていたんだよ。なんだろうな、人を引っ張る才能みたいなのがあったのかな。その人がいるだけでチームが輝いてた。結論を言うとだな、その憧れの人ってのが川崎悠眞なのさ」

 正直ここまで堂々と言われたことはないので、普通に嬉しい。だが

「ほう。お前が俺と話がしたいってのはよくわかった。で、目的は?」

 そう、目的がわからない。俺と話したいことはよく分かるのだが、なぜ話したいのかは分からない。

「それはな、なんでそれほどの実力者が野球をやめたのかを知りたいからだ」

 徐々に震えていくその声は、怒りと悲しみを含んでいるようだった。

 それに、俺は真剣に答えないといけないって思った。

「……野球をやめた理由、か。怖くなったんだよ。高校には色んなところから知らないやつが来て、周りみんなライバルで、自分を見失って。自分のことにしか余裕がない。そんなことを3年間続けられるのかって中3の冬に自問自答してな。それを繰り返してるうちにボールが投げれなくなった。だから俺は――逃げたんだ、野球から」

 正直に答えた俺を、南波斗は何も言わずじっと聞いていた。

「そう……か。なら、しょうがないか」

 納得したのか、どこか悲しげな表情を浮かべた後、

「ありがとな、教えてくれて」

 と言って、帰ろうとしたが、ダッシュでこちらへ戻ってきた。

「LINE……交換しようぜ」

 微妙に息を切らしてそう言ってくる。

 断る理由はないので、QRコードを使ってお互いのLINEを交換した。

 そして、俺らも南波斗もそれぞれの目的地へと向かった。


次を楽しみにしてくれる読者様がいたらいいな、と思いながら頑張ります!

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