カミは勇者を召喚します
吾輩はカミである。
肉体はまだ無い。
気軽にカミさんと呼ぶが良い。
え? 神様?
ちゃうちゃう
儂の仕事は『ある星』の『ある国』から人間や動物を召喚し彼等の持っているギフトをスキル化して付与するところまで。
天地創造とかやっちゃう神様とは別物である。
ふむ。
なぜかその国には神様がいっぱいおられるんですよね。
その数……な、なんと! 八百万!!
え? キャラがぶれてる?
失敬だなキミは
キャラ作りをしている訳ではない。
業務上の役柄に必要な口調と素との違いにすぎん。
召喚した者への説明ならテンプレ化してますから業務用の言葉遣いで通すのですが今から本音を愚痴ろうと思っているので本音用の素の言葉の方がいいでしょう?
コホン
八百万の神々の世界から勇者を召喚してこちらの世界に転移していただく際に向こうの神々から餞別としてギフトというか加護が与えられるんです。
それで贈る神々は自分の負担になるような大きすぎる無茶な加護なんて与える事はしませんからね、ムリのない範囲でのごくごく僅かな加護しか得られないのが普通なんです。
でもー
八百万もの神々がちょっとずつ出し合った加護となると結構な力に膨れ上がるもんで元々は平凡な能力の人物を召喚してもそうした餞別加護を集めて足し算するととんでもない能力を開花させられるんです。 はい。
ぶっちゃけ唯一神世界の武闘チャンピオンよりも八百万神々世界の平凡人の方が基本ステータスも上になりますしそのスペックは比べようもない有様なんで勇者が必要な世界ではこぞって『その星のその国』から召喚するのがもはや常識といっても過言ではないのですよ。
そのため最近では過当競争気味でしてね。
向こう様も優秀な人材は輪廻転生用に優先的にストックする訳ですし、ただでさえ『少子化』とかで輪廻転生用すら確保しずらいらしく最近は召喚リストが空白って事も珍しくありませんし対価としてこちらの優秀な人材を求めるという動きもあるようです。
そのせいで対価を請求されていない今は全異世界からの勇者召喚は自転車操業でもはや早い者勝ち。
質もとみに落ちてきています。
ここんとこ召喚した勇者への説明が苦痛です。
本当に酷いんですよ。
やれ「楽して強くなりたい」だの
やれ「他人のスキルを盗みたい」だの
やれ「美人奴隷に合法強姦できない世界は嫌」だの
やれ「美少女で自分より頭が悪い王女がいるか?」だの
やれ「元の世界の商品をお取り寄せさせろ」だの
やれ「知識チートしたいからネット使わせろ」だの
やれ「口説きスキル付イケメンにしてくれ」だの
あの国の人々は『思いやり深く礼儀正しく真面目で勤勉』として有名なのですがそうした人材は輪廻転生用なのでしょうね。
まあ、私が向こうの神であれば同じことをしますから仕方ないのですが、それにしても気が重いことです。
そこまで努力も熱意も枯れてますか?
それほど自分に自信がないんですか?
賢い一般女性にコンプレックスでもあるんですか?
異性の口説き方スキルですと?
はあ……………
下心はあれども本気で異性と向き合う気がない、そうした男の不誠実さを平気で受け入れるような女というのは浮気性のビッチですから平気で裏切ったりしますし、お花畑思考の女性だと足手纏いになって当然で『いつもオロオロするばかりで具体的な指示をしないと何もしないので戦闘で有効な戦術をとれる訳がないし勇者がケガして体中が悲鳴を上げている最中ですら仲間は自前の脳を使えず元の指示通り動き続けていて回復魔法に切り替えさせるにも何もかも勇者が逐一教えなければならない』など次第にウンザリしてきて後々つらくなるのは目に見えているのですが……良いんですかね。 それで
八百万の神々に与えられたギフトでの底上げ能力だけでは勇者の精神面までフォローしきれないのが残念ですわ。
私としては他所様の神々から不要者とされた勇者なんか召喚したくないのですが私の唯一のお仕事がこの召喚ですからサボる訳にもいかないってのが悩みでしてね。
はい。 私、カミは信者の信仰心で成立してます。
『すんごい召喚ができる』とか
『付与スキルがハンパない』とか
『困った時は助けてくれる』とか
そんな風に信じている人々の数と言いますか《思い》《欲望》《祈り》の強さが私の力の源なもので他力本願な勇者召喚をやめちゃうと存在意義がなくなって消えてしまうかもしれないのです。
自然発生して消滅のおそれがない本物の神様が羨ましい。
『カミ』は名前だと誤魔化してる自分の弱さが恨めしい。
実際付与スキルは先方の加護の賜物ですし。
たまに思うんですよね。
自分勝手な勇者に嫌がらせしてザマアしたいって。
やろう……か……な
仕事の範囲を守りながらこそっと
嫌がらせ
>>>>> 勇者その1
「なぜだぁ!」
勇者は神様からスキルを奪える能力を付与してもらっていた。
(カミさんとは呼んでいない)
強敵なのに!
鑑定しても、鑑定しても
相手のスキルは奪えない!
なぜなら相手は勇者の下位スキルしか持っていないから
熟練度の違いでこんなにも強いのだ
勇者は自分がスキル奪取したかった
そして自分は奪取されたくなかった
だから「スキルには持てる枠があるだけに奪取で完全に奪ってしまうと勇者専用のレアスキルが上書きで消滅する危険があるぞよ」とカミに脅されたあと「持てる枠いっぱいにスキルを持っている勇者殿にはスキル上位互換では交換可能だが下位互換や同位互換は出来ないという交換にもできる仕様の奪取スキルがオススメじゃ」と聞いた時は小躍りせんばかりだったのだ。
だから「これまで奪取というスキルは存在しておらなんだが本当にそのスキルを開放して良いのじゃな?」と問われて食い気味に力強く頷いたのだ。
なのに開放されたのは自分だけにではなかった。
しかも勇者のスキルはどれも最上位のレアスキルだったせいで街のスリから『奪われて』『奪い返す』を繰り返させられた。
しょっちゅう奪われているせいか熟練度も上がらない。
奪い返してみるとスキルレベルが初期値になっているのだ。
なぜか鑑定スキルにだけ奪取不可としてセキュリティされていたがよくよく考えてみるとスキル枠の中で最上位とみなされていないのはこの鑑定と奪取のみ。
なぜ勇者は貴重なスキル枠をこんなゴミスキルで埋めてしまったのか。
枠スカスカなスリから狙われるために世界のスキル開放をしてしまったのか。
ほとんどの奪取持ちはスキル枠スカスカだったが空き枠がないくせに奪っていったバカもいる。
レアスキルが上書きしたのは奪取スキルだったのでその時はなんとか取り戻せたもののスリの奪取が残った状態で別なレアスキルを奪取されていたら……
勇者は半年もの間神殿にこもりきり御祓をしカミに祈り土下座で謝って世界から奪取スキルを消してもらった。
後年の歴史書にはその勇者はスキルの空き枠を1つ抱えていたせいか他の勇者よりも苦労したとしるされていた。
>>>>> 勇者その2
僕は自分がクズだと知っています。
姉ちゃんが小学校高学年の頃、縄跳びをしているその胸元をガン見していた親父の横で僕もガン見していました。
姉ちゃんが中3の時に職員室でプリント提出するその手を教諭に握られていた時、視線で救助を求めていると気付いていたのに内申書の評価が怖くて見て見ぬフリしてました。
母ちゃんのタレ乳に飽きていた親父が姉ちゃんの入浴シーンを覗こうとした時はさすがにマズいと思って親父の傍をウロウロしてちゃんとガードしましたよ。
でもあのクズ親父の血を半分引いているんですよね。 僕。
だから御神さんからスキル付与とか希望する容貌の話を受けて迷わず「美形にして!」言いました。
ついでに「異性からモテモテになりたい」とか
「パーティメンバーは全員異性で全員からモテたい」とか
今、非常に困っています。
パメンのギラついた視線が恐いです。
なぜ僕は女性勇者になってます?
男性パメンからことある事に胸をガン見され、何かというと体を触られ、日々のセクハラに怯えながら魔王討伐しているのでしょうか?
もし
もしも元の世界に戻れたなら
姉ちゃんの胸に見とれるのをやめます!
クラスメートの手を握らないと誓います!
「美少女なら誰でも良いからものにしたい」とか言いません!
男の欲望剥き出しにされる事がこんなにも気色悪いとは知らなかったんです。
女の子も男と同じような生理現象を抱えているのだろう……と思いこんでおりました。
女性って視覚でムラムラしないんですね。
好意を持たない異性に触れられるとザワッと気持ち悪くなるんですね。
男の時はビッチにかすかな憧れを感じておりましたがこの世界で女性化した目でビッチを見ていたら『誰もがキチンと行列に並んでいるのに横入りしてくる狡い女』という認識に変わりました。
自分の能力を正式な手段で高めるかわりにお尻を振って甘い蜜を吸うんですよ。
女家族がいたのに
狡い女に憧れていたなんて
自分が情けないです
風呂に入ろうとすればパメン全員が覗きに来るし
暗いダンジョンに入れば胸が当たりそうな位置に肘を持って来るし
パメン全員ムダにイケメンなのがさらに残念
御神さん
次の勇者が僕みたいなクズ願望を持ち出しても性転換させるのはやめてあげてね
>>>>> 勇者その3
「卵買って来ましたよ」と美少女王女様
彼女は聖女でもある
「ミルク買って来ました」と美少女魔女
「小麦粉、重たかった」と美女騎士
彼女達が買い込んだ食材の山を見てひたすら途方にくれる俺←今ココ
陰謀家みたいな腹黒女が苦手だったから「スイーツ好きが欠点なだけで後は完璧な浮気をしない美少女ビッチとパーティ組みたい。 料理スキルもMAXで付けといて」って!
原因俺じゃねーか!
朝から大量の食材と格闘し、やっと一息つけてほんの少し皿に残っていた料理を食べているとパメン達はイチャイチャしてくれるでもなくまた街に食材調達へと出かける。
少し食後休憩とった後にまた昼食戦争タイム
パメン達の残りものをランチにしているとまたパメン達は食材調達へと繰り出す。
これが朝から晩まで延々と繰り返し、当然ながら俺のレベリングは止まったまま。
たしかに彼女達は浮気をしない
夜食用のスイーツを作り終えると口の周りをクリームだらけにしながら俺を褒め称えてくれる。
頼めば同衾もしてくれるだろう
疲れ果てていて頼む気持ちになれないだけで
疲れを癒すのに少し休んでいると日中鍛えていたパメン達は早々に眠りにつく。
そこから俺だけ孤独なレベリングタイム。
修行を終える頃には全員爆睡してる。
全員食い意地はっているだけに食べ物由来の仲違いも多い。
余所の冒険者たちから「あいつらただの集りじゃねえか」とのつぶやきも耳にする。
あれだけ食べていながら諸々の『別腹発言』もある。
心配だ。
魔王城を目の前にしながら撤退する。
パメン全員が糖尿病になって戦線離脱を余儀なくされたからだ。
あれだけ食ってばかりじゃムリもない。
食い意地はっているだけなのを可愛らしさだとどうして思いこんでいたかな? 俺。
食べることを我慢できない理性の主が他のことだと我慢できるって思っていた時期もあったがエクレアの数が42個か43個かというどうでも良い理由で生死に関わる切った張ったのバトルになった時にはさすがに引いたぜ。
はあーーーーーっ
王都でキュアディジーズして貰ったら治るかねぇ
少しは反省してくれるんだろうか?
2度目の旅はレベリング不要になるから最初のより甘ったるいものになるといいな。
まさか……また魔王城を前にして撤退とか……
ないよな?
うん、そんなハズがない!
>>>>> カミさん
あ~
その3勇者様はちょっと可哀相でしたかね。
でも甘々ハーレムを夢見た段階でアウトですもん。
次は……
次こそクズじゃない普通人勇者だといいな
昔はテンプレネタ好きでしたが最近は飽きたのか満足できなくなってきたので思い切ってアンチテンプレを書いてみました。
ちょっと笑い要素が不足気味だったかな?