中編
妹を元に戻す回数が毎日になる頃、やっと王から返事を頂けた。
数ヶ月も掛かってしまったが、約束を取り付ける事が出来て安心する。時間が差し迫っているので、早めに対処したかった。
なにしろ妹は、五男に体を許していたから。
外へ嫁ぐにせよ、東を継ぐにせよ急がなければ、変化を疑問に思われてしまう。更に若い二人なので、逃げられないと知らずに駆け落ちをしてしまう可能性もある。下手に人目に晒されれば、面倒が増えてしまう。
だから、監視の目を外せなかった。
二人が裸で私の殺人計画を睦言のように語り合う。意味の無い話し合いなのに、それすらも二人の愛を燃え上がらせるようだ。
「君の為ならば、王の裁きを受けてもいい」
「そんな事を言わないで、貴方を愛しているのよ」
「一緒になりたい」
「私も……なぜ一緒になれないの」
抱き合い、嘆きながらも体を繋げる。
私に出来ることは、一つ。彼女達を一緒にしてあげることだけ。でも、彼らの望むように死ぬ事、自殺は出来ない。余程の事が無ければ、許されない。そう継承者は仕組まれている。
ある日、王が秘密の通路を使い、東の屋敷へ訪れたのは夜だった。忙しい合間を縫っての来訪だった。
「東の。メッセージは受け取った」
「ありがとうございます。王の力をお貸しください」
「妹の代わりに外へ出るのだな」
「はい」
「継承者を辞退しても更に役目を求められる。犠牲をすまない」
「犠牲」
ポツリと呟くが、特に何も感じない。
やるべき事があって、やるべき事をしている。ただ、それだけ。
「何が犠牲なんでしょうか? 人は生きているだけで何かを犠牲にしています。犠牲無しに何もありえません」
「そうだな。私も東のも抗えない」
「ええ。そう決まっています……」
「神祖が居れば変更できるのだが」
「消えた神祖ですか?」
「ああ。全ての決まりを作り姿を消した、神祖がいれば」
「そうですね」
「……そうだな。我々は一つの歯車でしかない」
王も感情が薄い。そして私も。
きっと王も擦り切れてしまったのだ。
感情があるうちに、次世代へ役目を渡すか、堪えてギリギリまで耐えてから渡すか。未だ継承者が居ない私たちには、その選択すら出来ない。
「行こう」
「はい」
「東のの妹と北の息子は……都合よく部屋に一緒に居るようだな」
「はい」
王と一緒に長い廊下を歩く。
使用人はみな寝静まっている。起きているのは、妹と五男だけ。
案内もされずに妹の部屋の前に来ると、王はドアを開け放った。
「な、何だ!?」
「嘘、鍵が掛かっているはずなのに」
ベッドで睦まじく重なっていた妹と五男が驚き、王を見て愕然とする。
「王様、な、なぜここへ」
「嘘、酷い、お姉さま、……お姉さまが鍵を開けたのね!!」
王に付き従うように控えていたが、一言だけ妹へ教えた。
「王に鍵は不要」
「え」
「居場所すら、この国では」
「それは、どういう意味なの?」
混乱する妹に、服を急いで着ようと脱ぎ散らかした服を探す五男。せめてとズボンを履こうとする。
「お前たちは何度も姉を殺害しようと企んだらしいな」
王の言葉に、二人が固まる。
「わ、私が怪我をしただけで、お姉さまは何も」
「王は全てを見抜く事が出来る」
「何もかも……見抜いていたという事?」
「……そう」
私の応えに妹が打ち震え、自分の頬に両手を当てた。ショックを受け動揺し泣き出す。
「よって」
「お待ちください!」
妹が裸で王の前に跪き、頭を垂れる。
「全ては私の考えた事、どうか、どうか彼をお許しください」
そして妹は勢いよく立ち上がると、窓へ向かって全力疾走した。
「お姉さま、ごめんなさい!」
窓に向かって飛び込んだ、私に微笑みながら。
大きなガラスの割れる音が部屋に響き、ベランダに妹が横たわる。
五男が急ぎズボンを履き終えると、妹の側へ駆け寄った。
ガラスの上に膝をつきながら、血まみれの妹を抱き寄せる。
「わ……たしは……大丈、夫で、す」
「うう、君だけなんだ、君だけ……死なないで……ずっと、ずっと一緒に居てほしい」
お互い泣きながら縋りつくように抱き合う二人。
それを静かに王と見守る。
王も暇ではないのだ、茶番劇は長く続けないでほしい。
そう、注意しようとしたら、五男が王へ頭を下げた。
「王様、私は彼女しか愛せません。お願いします、彼女と添い遂げさせてください!!」
「私、からも、お願い……します」
二人の嘆願を、王は無表情に頷く。
「二人の体を戻した後、継承の誼を行う」
「あ、ありがとうございます……ぅうううう」
「王様、王様、一生掛けて貴方へ忠誠を……」
「では東のは継承から外れ、あの国へと向かってもらう」
「はい」
「では明後日の夜にまた」
王は背を向けて帰って行った。
部屋には私と妹と五男。
彼女達へ近づくと、二人とも気まずそうに体を寄せ合っている。
裸なのが気になるのかもしれない。
私はベッドのシーツを取ると、二人に渡した。
「なぜ、王様を」
妹が不満そうな目で訴えたので、正直に答える。
「あなた達が一緒になれるように、王へ直訴していた」
「え」
「王は忙しい、時間がかかり、やっと今日、機会が来た」
「お姉さま……」
「王の時間は限られている。継承の誼までに体を癒し引継ぎを行う」
「ありがとう、ありがとうございます、お姉さま」
むせび泣く妹を抱き寄せながら、五男もお礼を何度も口にする。
「君の事を誤解していた、ありがとう、本当にありがとう」
「私も……お姉さまは素晴らしい方だって知っていたのに、なんて愚かな事をしていたのでしょう……ごめんなさい、お姉さま、ごめんなさい」
血まみれの二人だが、傷はそこまで深く無い。
「治療所まで、歩けるだろうか?」
「彼女は私が、運びます」
「そう」
五男が妹を抱き上げ、一緒にシーツに包まる。
「お姉さま、私、今度は逃げずに勉強を頑張りますわ」
「私もここの一員になるのだから、一緒に頑張ろう」
「ええ」
これから迎える素晴らしい日々を、彼女達は信じて微笑みあう。
治療所へ向かう廊下を歩きながらも、二人は幸せそうだ。
「そう、でも引継ぎはそんなにある訳じゃない」
「そうなの?」
「ええ。だから、今回は薬を飲まずに魔方陣へ入ってもらう」
私の言葉に恐れを抱いたのか、二人が固唾を呑む。
「私のやっている事を見てもらう」
「見て?」
「ええ」
治療所へ到着すると、大きな扉を開いた。
継承者だけが開く事が出来る扉を。
「本来であれば、他の患者の治療時を見てもらいたかった」
「ごめんなさい」
「ちょうどあなた達が怪我をした。実施で憶えればいい」
大きな魔方陣が部屋の中央にあり、側には透明な大きなポッドが三つ。鉄の管や機械が周りに設置してある。
壁際の教壇の様な操作盤に立つと、二人に指示を出した。
「この魔方陣は三人用」
「三人用?」
「言い方を変える。一人から三人まで、使用できる」
「三人まで?」
「ええ。下の階には十人用の魔方陣がある。大人数を対処しようする場合はそちらを使うことになる」
「へぇ……」
感心する五男に、一言告げる。
「北にも同じ施設があるわ」
「そうみたいですね、見たことは無いけど」
魔方陣の中央につくと、五男が妹を中央の台座に下ろした。毎回治療する為に彼が運んでいた。なれた作業とも言える。
「いつも施術しているのは、局部治療。体の治癒力を極限まで高めて治療する」
「あ、ああ。少しだけ傷が残るんだよな」
「他には全身治療と2つだけ」
「局部と全身か……」
「妹から先に治療する? 一緒に治療する?」
「では、彼女を先に」
「ええ? 一緒に治療しないの?」
「勉強しようと思って」
「なら、貴方を先に」
「いいんだ。俺はかすり傷で君より酷くない」
「……もう」
「君の番が終わったら、僕のを見て勉強するといいよ」
「そうね」
仲良く譲り合う二人に、注意点を話す。
「局部はあまり時間が掛からない。全身は少し掛かる」
「なら、あなたから先にしてちょうだい」
「そんな、君の方が……」
「いいの。あなたが元気になる姿を見て、先に安心させて?」
「分かった」
二人で頷き、抱擁しあう。
なかなか離れないので、そのまま操作盤のボタンに手を添えた。
「局部治療を始めます」
「え、お姉さま!」
「今からですか?」
「痛みはありません。目を開けていても大丈夫です」
「そ、そう」
魔方陣が青白い光を放ち、台座に横たわった妹と側にいる五男の体を包む。すると、二人の傷がみるみるうちに塞がり、薄いピンクの線を残した。
「終わった」
光が収まり、そう告げると妹は起き上がって、五男は自身の足を見る。
「本当だ! 傷が、無い」
「ええ、本当に……」
「ん? どうした? まだ具合が?」
五男は自分の膝下を擦り、出血が無い事に驚いていたが、妹のふさぎこんだ顔に不安になった。
「ふふ、お姉さまは本当にすごい方なんです」
まるで自慢するように妹がクスッと笑う。
「ああ、そうだね。実際に見たのは初めてだけど……素晴らしい『魔法』だ」
「さあ、次は私の全身治療ですね。運んでくださる?」
「え……でも、君の傷も塞がっているよ?」
「いえ、全身治療をお願い!」
「どうして」
「きっと顔に傷の跡が残っているわ……」
妹は顔を両手で覆い、嘆く。
「いずれ傷跡は薄くなる」
「待てません、お願い、お姉さま!」
五男は急いで妹を抱きしめると、安心させるように背を撫でる。
「私に傷があるのは、嫌いかな」
「いいえ、あなたならば……」
「私だってそうだ。君に傷があっても変わらず愛を捧げるよ」
五男の言葉に妹は喜ぶが、納得をしなかった。
「全身治療の、傷を綺麗に消してしまう『魔法』……その見学と思って見ていてください」
「それは……」
「お姉さまが仰いました。治療には二種類あると。私はそれを身を以ってあなたにお見せしたいと思います」
「私の、ために?」
「……そうです。後、あなたの前では綺麗でいたい」
お互い抱き締め、感動している。どうでもいいことだけど、全身治療を見せることが出来る。最近、妹以外に全身治療を行っていなかったので、これもいい機会かと頷く。
「そうだわ、あなたも傷が残っているかもしれないから、一緒に受ける?」
「今回は控えておくよ」
「どうして?」
「……君が継承者になったら、そのときお願いしようかな」
「ええ、分かったわ」
軽くキスを交わすと、五男は名残惜しむように妹の側を離れた。
そして私の側へ来ると、教えを請うように頭を下げる。
「基本、継承者になるとこの機械を動かせる」
「きかい? ですか」
「この駆動している箱の事。操作盤、とでも言えば分かり易いだろうか」
「はあ」
「局部治療は、この青いボタンを押すだけでいい」
「押すだけ? なら私が」
「継承者でなければ、起動しない」
「あ、そうなんですか」
良く分からない、そんな顔をする五男に反対側の赤いボタンを指差す。
「全身治療は少々手数が掛かる」
「手数が?」
「ああ。全身を元通りにするのだ。それなりに情報が必要になる」
「情報が……」
「生年月日、氏名、所属、遺伝ナンバー、指定日付。入力して、スイッチを押すだけ」
「いでんなんばー?」
「ああ、大丈夫。継承者になれば、本人を見るだけで数値を読みこめる」
手早くいつも妹にしている作業を行い、赤いボタンを押した。
「えっ……」
先程の局部治療と違って上からドーム型の透明なケースが下りてきて、彼女を閉じ込める。
「な、なにが!?」
驚く五男にいつもの事だと告げた。
「うううううう」
途端、うめき声を上げる妹。
何度見ただろうか、この光景を。頭を両手で抱えて蹲る。その光景を。
「え、あ、なっ!?」
「次に、壁に三つあるポッド、そこへ新たに現れる」
五男が壁際のポッドへ顔を向ける。
そこに、少しずつ変化が現れていた。
「実は、東も、西も、南も北も機械は同じもの」
「え、同じ?」
「用途に変えて需要を求めた方が効率がいい。だから、各地毎にこじつけられた」
「どういう」
「あなたも五番目でなければ、知っていただろうに」
壁際にある三つある透明のポッドの一つ、その中に水が注ぎ込まれ、気泡が下から上に浮かび上がっていく。そしてそこで、何かが中心に出来上がっていた。
「あ、れは、何だ?」
「人だ」
「人? 人間なのか?」
「そう、アレは妹」
「え」
「妹の遺伝情報を抜いて、最初から構成しているの」
「え? どういう?」
私も最初は混乱したものだ。でも、慣れてしまった。全てに。
「妹の体を作り直している」
「治療するんじゃないのか!」
「どこまで治療する?」
「え?」
「性交前まで戻すことも可能」
「なっ!!」
「北は、そういう改良が多いそうだ」
すると五男が絶句する。
「でも……そうなれば、彼女が二人になってしまう」
ポッドの中身が、今の妹とほぼ変わらない状態へと変化した。
「前のは焼却する」
「しょ、焼くのか!?」
「ええ。残していても、意味が無いから」
「意味? 意味がないだと!?」
「記憶もちゃんと新しい方へ写してある」
私は端のボタンを押すと、ポッドが開かれて水と供に妹が流れ出してくる。
「ほら、新しい妹よ。早く服を着せないと風邪を引く」
水に濡れた妹を指差し、五男へ急ぐよう話す。
「怪我をしている彼女は……彼女は」
「もう、あれは妹じゃなくなった」
「なんで、まだ生きて、動いているじゃないか!」
ドーム型のケースの中で、妹が震えながら五男へ手を向ける。
「でも、更新してしまった。彼女は存在を許されていない」
「なぜだ! 俺が面倒を見る、あのケースをどかしてくれ」
「神祖が決めた」
「……神祖?」
「ええ。クローンを作ろうとオリジナルだろうと存在は一つ。複数は存在できない」
五男の喉が鳴った。
「新しい彼女が目を覚ますと、アレはまもなく衰弱死する」
「死んで、しまうのか」
「苦悶の表情で亡くなる」
「……もう、助からないのか」
「ええ。もう新しい妹を登録したから」
妹だったものが台座から降りて、這うようにこちらに移動する。
「だから、苦しまないように焼却する」
「……」
「睡眠薬を飲ませて新しい体を作れば、継承者以外、誰も知り得ない」
「俺は、俺は……」
「新しい妹が震えているわ」
すると五男は黙ってポッド前の濡れた妹を抱き上げた。その様子に血まみれの妹がショックを受けたようで泣き叫ぶ。
「待って、待ってよ……私はここよ? どこへ行くの? 待って!」
叫ぶ妹だったものを無視し、苦しい表情で五男は部屋から出て行った。最後まで振り返る事無く。
「酷い、お姉さま……酷いわ!」
「そう? でも何度も貴方を作り直していたから、今更」
「……私は、私はなんなの? ねぇ、お姉さま」
「前までは妹だった、今は残骸」
「……ざん……がい」
「あの子が目を覚ますまで、と思ったけれど連れて行かれたから明日にでも違う方法で勉強させないと」
私はいつものように焼却ボタンを押す。
「え、なに……ちょ、熱い、熱いわ! お姉さま、出して、お願い助けて!!」
「用は終わった」
「ちがっ! いや、止めて! 殺さないで!!」
「貴方は生きている。先程見たでしょう? 安心して」
「あれは私じゃない、私はここにいる、ここにいるわ!」
「大丈夫」
「助けて、たすけてぇええええええええ」
「貴方は甦った。今まで小さな傷から大きな傷まで43回」
「いやぁああああ、おかあさまぁあああああ!!」
「貴方のその姿。見慣れたから、平気よ」
美しい妹は黒焦げになり、煤を撒き散らし、灰と姿を変えた。
「さあ、時間がない。早くあの二人へ引き継ぎの準備をしなければ」
機械のリセットボタンを押して、部屋を出ていく。
水で綺麗に洗い流される炭を見つめ、全く心が動かない。何事も感じない。私のやるべき事をしなければ……朝にはきちんと目覚め、治療を妹も立ち合わせることも可能だろう。
治療所を出て、廊下を進む。すると、妹を誰かに託したのであろうか、五男が追いかけてきた。
「何か、質問?」
「彼女は、彼女は本当に何度も……?」
全身治療の事を聞いているのかと思い、頷く。
「局部治療ならば、細胞の活性でどうにかなるが、全治療となれば最初から作り直した方が簡単だ」
「……そう、か」
「後、妹は君に会う前にまで戻してある」
「な!?」
「昨日の記憶は無い方がいいだろう」
「あ、ああ。そうだな」
「それに、妹は妊娠していた。この国では、世間的にも未婚の妊娠は許されない。結婚式を挙げた後、正式に性交するがいい」
「!?……お前……」
「最初に目を覚ます時、側にいてやる事だ」
膝をつき泣き崩れる五男。
これから妹の言う薔薇色の人生が始まるというのに、なぜ悲しむのか。私には理解の苦しむ。
黙り込んだので、話は終わったようだ。彼の横を通り進む。
次の日。妹が目を覚ました。そして側にいた五男に再び恋をした。
生娘に戻してあげたのだ。今度は子供の心配をせずに結婚式を挙げてから頑張ってほしい。
明後日の夜。再び王が姿を現した。
何も知らない清い体の妹。その隣に青ざめた五男が立っている。
「では継承権を二人に譲渡する。今を以ってお前たちが東になった」
それだけ言い放つと、王は私へ歩み寄る。
「では、お前は宗主国への準備として王城へ」
「はい」
「ええっ、お姉さまはどこへ?」
「私の仕事は貴方達二人に譲渡された」
「宗主国って? 王城でお仕事になるの?」
「私は外の国に嫁ぐ」
「お嫁に? 急すぎます」
王城から嫁ぎ先を命令されたこ事を知らない妹が、困惑して私に縋りつく。
私を殺そうと思ったことも、私を嫉妬で消そうとした事も知らない妹。目覚めたときに五男が側にいて、そのまま恋に落ちた幸せな妹。
「そこの男が好きなのだろう? 二人で仲良くこの家を守って」
「……はい、お姉さま…」
「私が、頑張ります。彼女の為にも、貴方の為にも」
仕事は五男がするそうだ。全治療を妹に見せたくない、と。彼が望むのならば、それでいいと思う。もう、私には関係の無い話だから。
「幸せに、お姉さま」
「ええ。貴方方も」
青い表情で空ろな五男。いつまで、彼はいつまで平常でいられるだろうか? 妹の愛さえ手に入ればいいと願ったのだ、妹の為にも頑張ればいい。
「では、行くぞ」
「はい」
「お姉さま、私は、いつまでもお姉さまの健康を、幸せを祈っています!」
背後で声を張り上げる妹を振り返らずに、王の後をついて行く。
王城へと続く秘密の通路。王の許可なしには誰も見つけられないし、通れない。
「東の……いや、もう東ではなくなったのだな」
「はい」
「名称は?」
「ベルナデッタ」
「ベルナデッタ。宗主国へだが」
「はい」
「向こうの息子との賭け合わせで、新しい因子を作りたいらしい」
「はい」
「向こうはここのシステムと違う」
「はい」
「あの『魔法使い』の願いは無視できん。頼んだぞ」
「はい」
次の日に、すぐに迎えが来た。
「ベルナデッタ様。お迎えに上がりました」
青の髪に、金色の目の、頭の両側に羊の様な巨大な角を生やした男が頭を下げる。
「はい」
「さあ、こちらへどうぞ」
黒いトンネルを越えると、鉄色の大きな箱が待ち構えていた。
「上位国へ嫁がれる喜びを」
ニヤニヤと笑い、箱へ私を押し込む。
「数分でわが国へ到着いたします。が、その前にこの石を」
「はい」
無表情で石を受け取る。
何か、体を調べられた。そう、何かの幕を通りこすような抵抗感がした。
「はい、ありがとうございます」
私から石を受け取ると、その男はニヤニヤと私の前に座る。
「お披露目は一年後です。全世界への配信が必要になりますからねぇ」
「はい」
「あなたの国はクラシカルなので、ご家族ご兄弟、ご親族にはもう合間見えることはできないでしょう」
「はい」
「お別れは済ませましたか」
「はい」
無表情で、口答えする事無く頷く私に、男は黙った。
なので私も黙る。
窓の外は無機物だらけで、色は無い。
私はあの国の、緑豊かな風景が好きだった。
森や田園が広がり、いつも美しい緑を目に写しこんでくれる。どんな時も、どんな時でも。そういう国で育った。
今は無機物の風景ばかり。
緑は、どこにもない。