Choke off
西日が突き刺さる六畳間の少し不自由な部屋。
固定費にお金を払うのがバカバカしく感じてしまう私は、出来るだけ家賃を抑えた部屋に決めた。家賃を抑えたので当然間取りは少し住みにくいものとなっている。
「………かっ、はっ」
息が出来なかった。段々と鈍くなる感覚と共に体が死に対して自動で抵抗してくれる。結局私の体も子孫を繁殖するために産み落とされたものなのだと思った。
行為をすれば気持ち良いと感じるし、こうして殺されそうになると苦しいと感じるように体が作られているのだ。だから私の命や人生に特別な価値などなにもないのだ。この目の前で私の首を絞めている男も同じなのだ。
私の体の構造は、善人とも悪人とも変わらず同じように作られている。
それが悲しい。
満足したのだろうか。男がゆっくりと首から手を離した。
今回は殺されてしまうかなとぼんやり考えていたが、どうやら今日は生き延びたようだ。別にどっちでもよかった。
日に日に男の絞める力が増して時間も長くなっている。慣れというものは恐ろしく、過去の快感では満足出来ないようになっているらしい。この男も例には漏れなかった。
男は肩で大きく呼吸をしている。私に覆いかぶさるように倒れこんできた。
「重い……」
「うるせぇ、疲れてんだよこっちは」
無駄に筋肉質な体の持ち主は、吐き捨てるようにそう言った。情けない格好をしているのにえらく強気なもんだなぁと思った。
汗と汗が混ざり合いなんだか気持ちが悪い。でもその落ちていく感覚が心地よかったりもする。普通の人と笑ったりするのは疲れる。だからこんなクズと一緒にいるほうが安心したりもする。自分一人がダメなわけじゃないんだと思えるから。
「重い……ってば」
両腕で重い体を押しのけた。汗を含んだボサボサの髪を掻きむしりながら、煙草を一本咥える。化粧台の鏡の自分と目が合った。そのまま視線は自分の首元に流れた。
あー、こりゃ目立つわ。どれだけの力込めて人の首絞めてんだこいつは。
真っ赤になった首元を見て大きくため息を吐いた。人の趣味っていうものはとことん理解出来ない。人様の首を絞めて何が嬉しいのだこの男は。
「かりんは今日仕事だっけ?」
男はベッドに横になりながら煙草をふかしている。火事になったらどうするつもりなのだろう。……どうしようもしないのだろうなと、二秒で答えが出た。
「仕事だよ」
「じゃあ仕事行く前にお金置いてって。パチンコ行くから」
「もうお金ないんだけど」
「借りたらいいじゃん。買ったら色つけて返すから問題ないだろ」
お前が借りてこいよ。とかりんは言いそうになったが止めた。鏡に映った自分の背中にあるアザはつい最近この男につけられたものだ。お金がなくて口論になったら思いっきり蹴られた。
死にたいとは常に思っているが、痛い思いは怖いのだ。
ならひと思いにさっさと殺してほしいところだ。
それももうすぐ叶いそうな気もするが。
なんとなく離れられない理由はなんとなく色々あって、でもきっと一番の理由は独りぼっちになるのが嫌なんだ。
でも普通の人とは一緒にはいられないから、こんな男と一緒にいる。
仕事以外で自分のことを知っている男はコイツだけだから。
そのことをコイツもよく解っているから、私の体をいいように扱う。
いつからだろう。
世間一般で言えば、私の人生は失敗作。
どこで間違えたのか答え合わせをすると、きっと産まれてきたことが間違いだった。
あの両親の遺伝子がたまたまいい具合に絡み合ってでしか私がこの世に産まれないというのならば、きっと産まれてきたこと自体が間違いだったのだとみんなが口を揃えていうだろう。
観客のいない悲劇のヒロインになることで、私は希望を捨てて生きることが出来たから。