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午前二時に会いましょう  作者: はしもと
第二章 京都旅行
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ガラガラくじ

「……おまたせ」

 薄手のパーカーにジーパンというなんとも色気のない格好で現れたのは寺田かりん。

「なによ…、私も可愛らしいスカートとか履いた方がよかったの?」

「まだ何も言ってねぇだろ」


 夕暮れの薄ぼんやりした色の中、どちらかが言うまでもなく歩き始めた。周りを見るとカップルよりも子供連れのほうが多い。商店街の小さなお祭りじゃそんなもんかと思った。

「昔よくやらなかった?白線から落ちたら死亡ってゲーム」

「あぁ、やったなぁ。でも交差点でどうしても詰んでしまうんだよな」

「ガバガバだよね。あのゲーム」


 車通りの少ない中道を通り過ぎると、地元の人が机や機材などの必要なものを並べて拙いながらも祭りの雰囲気を醸し出していた。綿あめ、たこ焼き、焼きそば……、みんなで相談して担当者を決めたのだろうか。それぞれの店が被らないよう一つずつ食べ物の屋台を出している。

「なんか食べよっか。岡部さん何食べたい?」

「祭りといえばたこ焼きだな。たこ焼き食べよう」


 熱々のたこ焼きを購入。その上で鰹節が踊っている。空いているベンチに腰掛け、たこ焼きを分け合う。爪楊枝で持ち上げると今にも溢れてしまいそうだ。

 寺田は横で吹き飛んでしまうのではないかと心配になるくらい息を吹きかけている。

「冷めた?」

「今……、話しかけないで……」

 十分に冷ましたことを確認した寺田は勢いよく口に頬張る。

「ッッ……!!」

 涙目になりながら口から熱い息を吹き出した。

「そりゃ中身はまだ全然熱いだろ……」

「あっ、つっ、い」

 なんとかして飲み込んだ寺田はそれだけでずいぶん疲弊しているように見えた。


「でも美味しいねたこ焼き」

「そうだな。……ってあっツぃ」

 久しぶりに食べるたこ焼きは思っていたより熱く、体の中を駆け巡った。

 そして今まで食べたどんなたこ焼きよりも美味しく感じた。なぜだろう。


 まぁ、どうでもいいか。




「京都旅行当たったらどこに行きたい?」

「清水寺とか行ってみたいなぁ」

「私は静かな神社とか回ってみたいなぁ。そこで何も考えずにボーッとしていたい」


 長い列が数十秒ごとに前に前進していく。叶うはずのない希望に胸を躍らせ行ったこともない土地の話を二人でしている。白玉外れのティッシュを引き当てたカップルはそれでもなんだか楽しそうで、そういった祭りのムードに当てられて俺も自然に顔が緩んだ。


「岡部さんってクジ運は強い方?」

「強いよ。学生のころ一年間教卓の前から動けなかったほどクジ運強い」

「そうとうな悪運ね」

「寺田は?」

「私はクラス替えの度に何故か友達のいないクラスに飛ばされることが多かったかな」

「苦労してんだな」

「そもそも友達もいないんだけどね。クラスで一人になりたくないから、とりあえず暇潰しに話すような人たちばっかで。結局クラス替えしたら疎遠になってさ」


 嫌なことでも思い出したのか少し伏し目で寺田は俯いた。

「まぁあれだよ。今はもう学生じゃないんだからいいんじゃね」

「……そうだね。あ、次私たちの番だよ」


「はい、じゃあお兄さん回してくださいねー」

 係りのおばちゃんが声をかける。俺は久々に他人からおじさんじゃなくてお兄さんと呼ばれて涙腺が少し揺れた。

「あ、お兄さん矢印の向きに合わせて回してください」

 一回転したところで注意されてしまった。仕方なく俺は回しの向きを変える。カラカラと軽い音がガラガラから響き、無事に白玉がコロコロと飛び出した。


「……」

「何やってんの岡部さん。反対に回して白出すとか……」

 半目でこちらを睨む。

「はい、じゃあお兄さんは残念賞のティッシュね。じゃあ次は彼女さん」

「かっ……、かかかかのじょ?そんなんじゃないですからっ!」

 寺田が珍しくテンパっている。普段ローテンションなのに手をブンブンと振って否定する。

「あらら、ごめんなさいね。」

 おばちゃんは笑って寺田を茶化した。


 そんな寺田には悪いが俺は一つ耳打ちをした。

 一瞬驚いたような顔をしたが黙ってうなづいた。


「……いきます」

 カラララララと軽い音を響かせ、速いスピードでガラガラを回転させる。

 ポーーーーン……。コロコロ……。受け皿には輝く金色の玉が姿を見せた。


「ッ………!」

 カラカラカラーーーンと軽快で遠くまでよく響くベルが鳴る。

「おめでとうございまーーす!一等京都旅行二泊三日の旅当選でございますーー!!」

 周りから「おおーー」と歓声が上がる。「ほんとに金色って入ってたんだ」とそんな声も聞こえてくる。大勢から注目されることに慣れていない俺たちはそそくさと賞品を受け取りその場を去った。


 賑わいから少し外れた木の下で

「ははっ、本当に当たっちゃった……。夢みたい」

 と寺田は笑った。そのあと不思議そうな顔をして訊ねてきた。

「なんであの時、速いスピードで回せ。って言ってきたの?」

 種明かしするわけじゃないが、答えなくては帰してもらえなさそうだったので仕方なく回答をする。


 ガラガラくじの玉というのは、重さが均等ではない。

 一般的に白は重く、金は軽い。

 この大前提の元ガラガラくじの構造を紐解くと、常に同じ方向に回されている箱の中身は白玉が底に溜まりやすく、金色は上にいきやすい。箱の出口が底面にある以上このままでは当たりくじが出る確率が低い。


 そこでまず矢印の向きと反対に回し箱の中身をシャッフルする。この回では出る確率は低いが大体次の回では当たりが出る確率があがる。


 そしてそのあと軽い玉が側面にいきやすいように少し早めに回す。遅く回すと重い白玉が底に溜まりやすくなってしまうからだ。


「……とまぁこういう知識があった上で、俺たちの時は既に結構な人が回していたから箱の中から軽い音がカラカラとしていた。それでまぁ100%当たるわけではないけど試してみる価値はあるかなって思って試してみたんだよ」


 気づくと寺田が納得いかない顔をしている。

「……」

「なんだよ、不満そうだな」

「不満っていうか、岡部さんのドヤ顔がウザイです。とっても」

「ふ…普段人に誇れることがないんだからたまにはドヤ顔したっていいだろ」



 そんな俺に寺田はクスクスと笑いながら

「でもありがとうね」と

 小さくそう言った。


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