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エピソード1

 住宅街の入り口近く。二メートル程度の石塀に囲まれた場所がある。西洋風の黒い鉄の門の先には魔女が住んでいそうな、おそらく二階建てであろう家とそれを囲む美しい庭。門近くの石塀に掛けられた看板はそこが喫茶店であることを告げていた。桜の花びらは僕を迎える。高校二年生の春は平和に始まっていた。



バイトの僕が開店前に店の扉を開いたとき、店長の十和子さんは必ずこちらを見る。こういう時は、いつも客に言っている「いらっしゃい」も開店後に僕が来たときに言われる挨拶もなく、一瞬冷たい視線が僕に降り注ぐ。そして慌てて暗い顔を笑顔に変えて、僕にこう言うのだ。

「準備、終わらせちゃおうね」

 笑顔と優しい声のセットはこの店の売りだ。みんな店長を十和子さんと呼び、彼女との会話を楽しみにこの店にやってくる。常連のお客さんのおかげでギリギリやっていけてるの、と店長は笑っていた。

けれど、氷柱のごとく冷たく尖った銃弾が飛んでくるようなそんな店長の目つきを僕は忘れられない。忘れる気もない。別に知っていたからといって僕がこのバイトを辞めるわけでもないし、仕事の効率が悪くなるわけでもない。ただ単にいつも笑顔で朗らかな温かみのある人の、冷たい一面を面白いと思っているだけ。それを口に出す気もないわけだから、問題はない。問題であるかどうかは僕が決めることではない気もするけれど、気にしない。波風を立てなければ僕は何事もなく生きていける事をこれまでの人生は語っていた。僕は今日もここに出勤する。そして絶対零度を体で感じるのだ。

 スタッフルームでエプロンの紐を締める。暖簾に手をかけて店長を呼ぶと、評判の笑顔が僕に向けられた。おそらくあの一瞬の顔、一瞬の雰囲気が本当の店長で、今こうやって笑っている彼女は必至で仮面を被り続けているのだと僕は思う。



 春の風に揺られて扉に付いた鈴が客の到来を告げる。僕は客からの挨拶に張り切っているわけでも、だらけているわけでもない「いらっしゃいませ」を返した。言ったというよりは落としたに近いかもしれない。水を準備するためにカウンターの中に入り、グラスとお手拭きを持って出る。常連の彼女にはメニュー表が必要ない。一年ほど前の話になるが、初めてこの店にバイトとして入った日にも彼女は来店していた。その時に言われたのだ。すべて覚えてるから、と。それ以来僕はメニューに増減があった日のみメニュー表を持っていく。彼女と同じような客がこの店には多いので、店長の常連客のおかげだという発言はあながち嘘ではないのだろう。常連客はいつも同じ席に座るので、いつもの席が空いていないとカウンターで席が空くのを待っていたりもする。僕は椅子の場所なんかどこでもいいじゃないかと思う。しかし皆さんは本当にこだわり派。大きなこと。小さなこと。気にする自分を大切にしている。

だからなのかもしれない。常連客の周りは特別な空気が漂う。しかも空気には人それぞれの色があり個性がある。いや、色なんて見えないけれど。比喩を使うくらいにはインパクトの強いものなんだと思ってほしい。別に空気に当てられるとかそんなことはないが、不思議だとは感じる。その中でも彼女は特別だった。

「ご注文は?」

 エプロンのポケットから紙とペンを取り出して構える。窓の外を見ていた彼女はゆっくりとした動きでこちらを見た。黒のタンクトップに気持ち短めのプリーツスカート、ツインテール。基本装備は今日も変わらない。彼女の頭が動いたことで、黒髪が揺れた。

「カフェラテ。アイスで」

 小さな口が注文を述べる。大きな目、長いまつげがどうしても目に留まる。黒い瞳に映る僕が僕を見ていた。向こう側の僕は歪んでいる。もしかしたらこちらの僕が歪んでいて、向こう側の僕はただ立っているだけなのかもしれないけれど。

僕は僕でなくて、僕は僕。

僕という言葉が湧き出してなだれ込む。いったい僕は誰なのか。今カフェラテを運んだ手は本当に僕のものなのか。注文を取る声は。店内を動くこの体は。

 こっそりと深呼吸をして僕は彼女をもう一度見た。

僕はずっと彼女の瞳を見つめていたわけではない。ほんの少しの時間、ただアイコンタクトをしただけだ。それなのに僕は今、僕について考えている。僕、僕、と何かが鳴く音から逃れようとして必死になっている。アイデンティティを考え始める様な一瞬とはどれだけ濃密な時間なのだろう。その上に立ててしまうくらい濃いのに安定を知らないような時間。恐怖と心地よさがないまぜになったような感覚。のどに引っかかるようで、そうでない。僕の持ちうる言葉では表現できない、密度の濃い「瞬間」を作り出すような大きな力を彼女は持っているようだった。

そんな彼女は周りからドールと呼ばれていた。

 ある人はこう言った。作られたとしか思えない顔、身体。小さな顔に乗った大きな目、長いまつげは恐怖をも感じさせる、と。

確かに彼女は美しい。今まで見たすべての人類の中で五本の指に入るくらいに整った姿かたちをしている。

 しかし人間は人形でない。どんなに強い力を持っていたとしても、彼女は彼の心を魅了する存在ではない。僕が今まで見た人形と彼女は全く違う。

人形と生きた人間は相容れないと僕は知っていた。

「人形は俺の手を握り返してくれないじゃん」

 暗い部屋の中。メイリンの髪の毛を梳きながらマサは言った。彼はこちらを見なかった。決して動かないメイリンが彼の視界を独占していた。

 彼女がストローでカフェラテをかき回す音が聞こえる。氷とガラスのぶつかる音。白い手は物を掴み、動いている。誰かが手首に手を添えるでもなく、ひとりでにくるくると。

 不意に白い手は止まった。出来上がっていた渦がかき乱され崩れていく。体中にチクチクと痛みを感じる。

大きな目は僕を捉えていた。

「何? 視線がウザいんだけど」

 ツインテールは動く。

「ねぇ十和子さん。大助借りるよ」

 彼女が言った。

 店長は微笑むだけだった。



 僕は彼女の右斜め前に座った。彼女は思いっきり顔をしかめたが僕はそれを無視した。昔から人の目の前に座ることが苦手だった。 

僕を座らせておいて、彼女は何も言わない。かき回したことで水と混ざり合ったカフェラテだけが少しずつ減っていった。

「プレゼントよ」

 そういって店長が持ってきてくれたアイスティーを僕は早々に飲みきってしまって、グラスにはたくさんの氷とほんの少しの水が残っていた。

 窓の外は輝いていて、明かりをつけていない店内をそっと照らしている。心地の良い薄暗さと柔らかい音楽が部屋に満ちていた。

 実は、僕がバイト先にここを選んだ理由の一つにこの店内の薄暗さがある。ここはマサの部屋にとても似ている。この店には市松人形もビスクドールもないけれど、時間の流れ方はマサの部屋と同じ。下手すれば止まってしまいそうな程、ゆっくりと進む時間。しかし時は止まらない。ゆっくりと留まることなく全てが崩壊へと向かうようなそんな感じ。何百年後、すべては塵となる。それを感じさせる空気感が僕は好きだった。

「あんたは何を見てんの?」

「何を、とは?」

 この人は僕の何を引きずり出したいのだろうか。そう思わずには居られなかった。話を一刻も早くそらしたかった。

「質問を質問で返すなよ、全くもう。私はあんたの目付きに興味があるの」

 彼女は容姿に似合わぬ荒々しさでストローを引き抜いた。薄いカフェラテが机に散る。それを掃除するのは僕なんだけど、と思いながらグラスを手にして一気にあおる姿を僕は眺めた。

目付きとは。興味とは。

僕には彼女の放つ言葉の意味が分からなかった。僕は特徴のある人間ではない。標準的で平凡なのだ。

「あんたは何を見てんの?」

 痺れを切らした彼女が同じことをもう一度言った。言葉はそこで途切れない。彼女は自分を指さした。

「あたしを見ているようでそうじゃない。十和子さんを見ているようでそうじゃない。あたしにはあんたがそう見えんのよ」

 僕は首を傾げずにはいられなかった。僕が見ているのは彼女であり、店長だ。別に店長を見て目の前の彼女を思い浮かべたりすることはない。彼女の言う意味が僕には分からなかった。

 どれだけの時間が過ぎたのだろう。

「あたしはそんなあんたが割と好き」

 黙ったままの僕にそう告げて彼女は伝票を手に取った。そこから先、彼女は僕を見なかった。整った横顔を僕は眺めた。一瞬彼女の黒い瞳に僕が映る。

 僕。僕。

 何かが鳴いていた。

 


 僕はテーブルを拭いた。優しく丁寧に。そして慎重に。美しい飴色のテーブルを僕は気に入っていた。薄暗い店内。オレンジ色の照明が店内を照らす。外は暗く、ホールには僕一人しかいなかった。

一人は嫌い。

僕は下を向いた。目の前にあるのは綺麗な飴色のはずなのに、僕の目は漆黒を見ていた。溺れそうなくらい重たい色だった。

「俺はこの子達に愛を注ぐよ。みんなが愛情を感じて満たされるまで。幸せな顔をするまで。だけど、この子達は俺をある点においては満たしてくれるけれど、ある点においてはそうじゃない。だって俺に触れてはくれないじゃん。俺が直接動かさなきゃこの子達の腕は動かない。そうだろ。当たり前だよ。でも触ってくれなきゃ満たされない部分が俺にはある。だからお前がいるの。必要なの」

 マサはこちらを見ることなくそういった。手には工具と腕の部品を持って。そんな僕を市松人形の梅さんが眺めている。洋室にうまく溶け込んだ市松人形を僕は彼女以外に見たことがない。しかもその隣には金髪青眼のビスクドール、マリアンヌが優雅に佇んでいるにも関わらず、だ。無秩序で平穏な空間。それが僕のこの部屋に対する評価だった。

 マサのワックスで固められた髪の毛はブラックホールのように僕の目に映っていた。作業用につけられたライトの白い光は僕には届かない。僕に届くのは丸い月の光だけだった。

 僕が必要とマサは言う。今日、うちに来いと言ったのはマサだった。洋館のような外見のアパートの管理人室。デザインに凝りすぎて表札の意味をなしていないそれが掛かった扉はノブを捻ると簡単に開いた。突如、僕の体内を虫が這いまわる。僕はドアノブから手を離した。ノブは部屋の主を表しているかのようだった。

 僕は僕はと鳴く何か。

 それは僕の中で鳴くから僕と言うのだろうか。もしも僕の一人称が「俺」だったとしたらそれは、俺は俺はと鳴くのだろうか。訳のわからない疑問にひとり嘲笑した。もしかしたら頭がおかしくなったのかもしれない。

 僕は、私は、俺は。

 知りうる一人称をすべて並べてみても、僕と何かは鳴いた。

「大助君?」

 店長が不思議そうな顔をしていた。

「体調が悪いの? 今日はもう上がっていいからね」

 気が付いた時には僕は店の外にいて、窓の向こうで店長は一人で机を拭いていた。鉄の門を抜けて公道に出る。塀の中、僕のバイト先はオレンジ色の明かり放っていた。

 僕は自宅に帰り、ベッドに潜って一日を終えた。



 東から太陽は昇って、僕は学校に行く。小さな机に収まってノートを開いたり弁当を食べたりする。他人の話を適当に聞き流したり、はたまた真面目に聞いたりと自由に過ごす。そして日は傾き、僕はまたバイトへと向かうのだ。

 僕にはバイトをしなければならない理由がない。両親は健在だし、金のかかる趣味もない。僕は他人に説明できる様な理由を持っていなかった。だからそのことについて聞かれるといつも困った。本当の理由が頭をよぎって口から飛び出しそうになった。堪えて適当な嘘を吐くと、ぐらりと世界が揺れた。嘘を吐いた相手に対しての罪悪感は存在しないのに、つらい。洋館の様なアパートの暗い一室が酷く恋しくて、駆け出しそうになる足を引きずってバイト先へと向かう。そして建物を取り囲む塀が見えた途端に僕の足から力が抜けた。

 僕にとってバイト先は欲望の抑制剤だった。すがる先だった。

 携帯電話に一通のメールが届く。

 今日来てくれ。

 句点を含めて七文字。大切な七文字。贅沢を言えば、今日でなくて毎日と書いてくれればよいのにと思う。マサはそんな事口が裂けても言わないだろうけれど。

 僕はメールを保存してホールに出た。

「いらっしゃいませ」

 僕は落とすように言った。


 

 思いの外ツインテールの彼女はしつこかった。

「あんたに興味があるんだって何回言ったら分かるんだよ。面倒くせえな」

 雑な言葉と美しい容姿とのギャップに慣れてきた頃、僕は毎日のようにバイトとして店にやってきていた。元々この店でバイトしているのは僕ともう一人女の子がいるだけだったが、最近はその女の子が急に忙しくなったらしい。僕がシフト変わるよというとあっさりと変わってくれた。店長はもう一人バイトを雇うと言ったが、暇だからと僕はそれを止めた。最近マサは人形作りに集中しているらしく、彼との連絡は途絶えていた。

「最近いっつもいるじゃん。何か欲しいものでもあるの?」

 いつもの定位置で紅茶とケーキを楽しむ彼女に呼び止められて、また半ば無理矢理椅子に座らされた。最近は三日に一回程度の頻度で会話をしていて、店長は毎回飲み物やお菓子を差し入れてくれた。

「いいのよ。大助君いつも頑張ってくれているんだから」

 店長の笑顔は優しかった。ああ偽りの笑みだ。そう思いながらも優しさを享受する。僕の日々は以前と少し姿を変えていた。

 今日僕はオレンジジュースを受け取って彼女の右斜め前に座っていた。このような習慣が出来てから僕は彼女のタンクトップの色を予想するというゲームをするようになっていた。今日は赤だった。予想は白だったのではずれである。

 彼女はケーキを一口分に切り分けた。

「あたしと海行かない? 資金はあんでしょ」

 そういって彼女が口に含んだケーキは夏蜜柑の味だった。僕と彼の十七の夏。知らない間に夏はすぐそこまで来ている。去年感じた外の暑さと室内の涼しさ。外との温度差に風邪を引きそうになるあの薄暗い部屋を僕は思い浮かべた。

「ごめんなさい」

 言葉が口をついて出た。僕が行く場所は海じゃない。僕は砂浜を踏まない。

「なんで?」

 彼女はまっすぐ僕を捉えて離さなかった。

不快だった。

「煩い」

 僕は声を荒げた。

「何故ってそんな事聞いてくんなよ」

 彼女がきょとんとしてそれから、嗤った。げらげらと下品に口を開けて、顔をゆがめて腹を抱えていた。

醜かった。

 何が人形だ。何が麗人だ。

 今目の前にいる人間は決してその様なものではなかった。ただの人間。駅にごった返している人間と何も変わらなかった。

「今のあんたの目、すっごい好き。大好き。いつもと違うけどいいよ。好きだ」

 僕があっけにとられているうちに、彼女は捲し立てた。

「今日はこれで帰るけど、考えておいてよ。一緒に海へ行こ。また今度来たときもう一度聞くからさ」

 ひらひらと振られる手を僕はぼんやりと眺めた。タンクトップの赤がにじんでぼやけていった。



「僕さ、バイト先の女の子から海に行こうって言われたんだけどさ」

 夜、携帯電話でマサと話をした。久しぶりに聞いた声にほっとした。

彼女のことを話すつもりはなかった。

口が滑るとはこういうことなのかと思った。

「いいんじゃない。行ってきなよ。俺今年も忙しいし、お前去年も俺の所ばっか来て海なんて行ってなかったろ。いい機会じゃん」

俺にお土産買って来いよ。一番いいやつな。

 マサは無邪気だった。後日彼女に行く旨を報告すると、彼女は手をたたいて喜んでいた。その様子を眺めて思った。やはり彼女は美しい。



 二人きりで浜辺を歩く。彼女は細かい刺繍の入ったワンピースを着て白いミュールを履いていた。今日は髪の毛を二つに分けることなく下ろして、僕の数歩先を歩く彼女。もし、ここに誰かがいたとしたら、その人は僕たちの事をカップルだと思うのかもしれない、とその後ろ姿を見て思った。

 電車に乗って、あまり会話をすることもなく外を眺めて、窓の外に見えたこの海に降り立った。計画などなかった。すべては成り行き、気の赴くままに。言い出した彼女が計画を立てているものだと思っていた僕は朝、駅で驚いた。計画のない旅行は初めてだった。

空は曇っていて海からの風は少し肌寒い。遊泳禁止の海なのもあって人気など一切なかった。

海に入る予定はそもそも無かったらしい。今、僕と彼女は海岸線を永遠と歩くだけの時間を過ごしている。生産的でない時間の使い方だった。

一歩一歩変化する歩幅は不規則なリズムを刻む。水際でステップを踏んで彼女は満足そうにゲラゲラと笑った。

「超楽しい」

両腕を広げて一回転した彼女は僕に手招きしてまた一歩進んだ。

僕は何故彼女に誘われたのか。詳しい事を彼女は言わなかった。知らないまま僕はここまで来てしまった。思えば僕は今回の小旅行について何も知らなかった。

お土産をどうしようか。

周りを見渡しても買って帰れるようなものはない。砂浜の砂でも持って帰ろうかと思い、一掬いしてみたけれど特に面白いこともなくて止めた。

僕は。

どこかで呟く声がする。

初めは小さく、次第に合唱となって僕を追い立てる。

僕は。僕は。僕は。

まるで籠目籠目しているかのような聞こえ方だった。

僕は?

 一人がイントネーションを変えた。それが僕には刺激的だった。

 僕は何故ここにいる。ここに立っている。果たして今ここにいるのが僕である意味はあるのだろうか。

 考えは止まらない。自分を否定するような言葉ばかりが降り注いで、辛い。足は暗闇に沈んで消えていく。僕は円の中心に無理矢理立たされている。腕は動かない。僕には足掻き方がわからない。呆然とした。鯉のように口をパクつかせる事も出来なくて、開いたままの口が渇いていく。

「これがお前だ」

 誰かが吠えた。

 目の前には様々な色を混ぜたような、汚い色が広がる。僕の周りに群がる何かも美しさとは程遠い。

「……これが僕だ」

 僕ではない誰かが僕の声で呟く。

 そうかもしれない。そんな気がします。

 僕は目をゆっくりと閉じる。

 突然金色の光が差した。

「あんた二番目に好きだから」

「え?」

「美佳の次に好きだからさ、一緒に海に来てこうして歩いて。すっごい嬉しい」

 一陣の風が吹いた。髪の毛を押さえて彼女は輝く。嗚呼、彼女は僕とは違う大地で生きているのだ。

 僕の足は完全に止まった。

「まったく、手が掛かるんだから」

 絵を描いた後のバケツのような色をした僕の手を彼女が握った瞬間、世界は色を変えた。

「何故」

 僕が呟く。

「大切な友人なんだよ。あたしにとっては」

 彼女の目の中には僕が映っていた。




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