the present story-1:僕の約束
サブタイトルがthe present storyとなっている物語は、砂智が大学生の、現在の物語です。
だんだんと日差しが強くなり始め、長袖から半袖の季節に変わりつつある。
僕が午前中までだった大学の講義を終えて、食堂で昼ご飯を食べているときだった。ピリリッと僕のケータイが鳴った。手に取って見ると、サブディスプレイに――守尚――の文字があった。
「もしもし?」
『あ、久し振りぃ。今大丈夫?』
二年ぶりに聞く守尚の声は、少し落ち着いた雰囲気だ。
「もう今日の講義は終わったから大丈夫」
『そっか。いやぁ、ふとどうしてるかなって思ってさ。この後何か予定ある? 久し振りに会わない?』
僕は少し考え、
「うん、大丈夫。どこにしようか?」
と、食べ終えた食器を片付けながら守尚と約束をした。
「おっす」
僕を見つけた守尚が、先に入っていたコーヒーショップから軽く手を振った。
「何年ぶりに会うんだっけ?」
僕は守尚がいるテーブル席に座った。ウェイトレスがやって来てアイスコーヒーを注文した。
「たぶん、二年ぶりだと思うよ」
僕の答えに守尚は目を丸くして溜め息を吐いた。
「それぐらい会ってなかったんだ。何か不思議だな。高校のときは毎日っていうぐらい、つるんでたのに」
守尚の言葉に僕は少し笑った。
守尚は隣り町の大学に通っている。高校を卒業してからは何度か会っていたが、大学に入ってお互いに忙しくなり、かれこれ約二年連絡を取らないでいた。
「最近はどうなの?」
僕は渇いた喉をアイスコーヒーで潤して聞いた。守尚は待ってました、と言わんばかりに瞳を輝かせた。
「なんと、彼女が出来たんだよねぇ」
自慢げにVサインを突出した守尚は、ふふんと鼻を鳴らした。僕はぱちぱちと拍手した。
「やったじゃん」
「おぅ! これで今年の夏は、寒い夏で終わらないよ」
へへへ、と舌を出して喜んでいた守尚だったが、急にはっとした顔になった。
「どうした?」
「いや、何て言うか……」
急に言葉を濁す守尚の考えを、僕はすぐに見抜くことができた。守尚は軽く見えて、とても素直な奴だ。
「僕のことは気にしないでよ。せっかくの嬉しい出来事だろ?」
「そうだけど……」
守尚は一度、目を伏せてもう一度僕を見た。
「まだ待ってるのか?」
からんっと、アイスコーヒーの氷が音を立てた。コップには水滴が零れた。
「俺が言うことじゃないかもしれないけど、もう諦めろよ」
「……何か期待してるわけじゃないんだ」
僕は静かに呟くように答えた。
「ただ、約束したんだ。僕からした約束だから、僕が破るわけにはいかないんだよ」
僕はあの日、雪花先輩と約束をした。
僕は一度、先輩との約束を破ってしまったから……。
だから、この約束だけは守らなければならないんだ。