plrologue
この物語は、五年前の過去の『僕』が中心の物語です。
物語の中で、五年前のお話と、今現在の『僕』のお話が出て来ます。
それではどうぞ。
僕はあの日、ずっと先輩を待っていた。
雨が激しく地面を打ち付けていても、
空が真っ暗になっても、
先輩が他の男とこの街を出て行っても、
僕はずっとキミを待ち続けていた。
(今日も雨か)
僕はそっと空を見上げた。今の季節は梅雨。雨が降り始める前の湿っぽい空気が流れ、厚い雨雲が青い空を覆い隠していた。
僕は小さな小屋のベンチに腰を下ろしていた。屋根付きなので雨の心配はない。
ここは昔バス停が立っていて、いろんな人がここからバスに乗っていたらしい。しかし僕が高校生になったとき、違う場所に新しいバス停が出来たので、この小屋は用無しとなった。それ以来、若い僕達の溜まり場となっている。
「今年で何年かなぁ……五年、か」
指折りに数えていると結構な日数だ。五年もあれば小学生が高校生になっている。
(僕ってよっぽどすることがないんだな)
苦笑いをしてベンチに横になった。携帯電話の時計は深夜ニ時を回っていた。今日は朝から大学の講義がある。それに出ないと単位がちょっとあぶない。
……だけど、何だかここを離れたくない。
(あと少しだけ……)
僕の瞼が湿気を含んだ空気に押されてゆっくりと閉じていく。視界が揺らぎ、それと同時に僕の意識は、五年前の記憶へと飛んでいった。