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PFF ~竜兵のゲーム~   作者: 広科雲
7/9

最終話 終わらせる者

 「竜兵!」

 ひときわ大きな呼びかけに、少年は目を覚ました。自分を取り囲む四人の姿があった。

「よかった、気がついた……」

「目覚めないかと思いました」

 二人の少女の瞳には涙が見えた。

「フン、健康だけがとりえのこいつが、簡単にくたばるかっ」

 赤夜がそっぽを向く。耳が少し赤いのがわかる。

「よかった。さぁ、早く決着をつけよう」

 雨宮士郎が手を伸ばし、竜兵を助け起こした。

「ああ、そうだな」

 決意をみなぎらせた少年がゲーム・マシンにつく。どうやらあれからゲームは進んでおらず、自分のターンかららしい。時計を確認すると、倒れる直前から三分も経過していない。


 紫堂竜兵……ラスター/P15/F12/ライフ16/AP19/手札12  

 雨宮士郎……エンダー/P15/F15/ライフ24/AP10/手札7


「さ、ターンを終了してボクに譲るか、フォース攻撃で自爆してくれ」

 竜兵は士郎の願いに首を振った。

「オレは3レベル・アームズ〈オリハルコンの刃〉を装備。パワーとフォースの攻撃力を+3する」

 「竜兵!?」真矢をはじめ、全員が驚いた。

「なに考えてるの!? 強くしてどうすんのよ!」

「オレは、エンダーをたおす」

 一同はまたも絶句した。

「オレの使命はレジェンドを斃すこと。『終わらせる者』……いや、ラスターといっしょに」

「ラスターって……。そいつはあんたの相棒じゃないのよ! バグで悪魔なのよ!?」

「そうさ、ラスターは相棒じゃない、オレ自身だ。ラスターの意思はオレの意思なんだ」

「竜兵……」

 真矢が助けを求めるように赤夜を見る。彼は竜兵の豹変に一つの仮説を立てたが、信じたくなくて無言を貫いた。

 代わりに士郎が赤夜の仮説をため息まじりに口にした。

「……どうやら、さっきの気絶中に『終わらせる者』にりつかれてしまったみたいだね。残念だ」

「どうすればいいの?」

「斃すしかない。斃せばきっと元に戻る」

「ならお願い、竜兵を助けて!」

 真矢は声にして、赤夜はうなずきで士郎に頼った。

「……違います」

「美守?」

「竜兵くんは正気です」

「そんなわけないじゃない。正気ならエンダーを斃すなんて言うはずない」

「いいえ、竜兵くんは気づいたんです。たぶん、真実に」

「真実?」

「はい」

 美守は微笑んだ。

 美守の竜兵に対する心情は、もはや崇拝と変わらないように真矢には思えた。信じるあまり、いや、信じたいあまりに竜兵のすべてを肯定しようとしている。

「信じたい気持ちはわかるけど、今の竜兵は――」

「美守、ありがとな。信じてくれるヤツが一人でもいれば充分だ。オレもラスターを信じる。だって、オレがオレを信じなきゃ、だれが信じるっていうんだ」

「がんばってくださいっ」

「おう!」

 竜兵は自分の中に満ちる力を感じた。味方でもなく、敵でもない、もう一人の自分が発する力だった。

『竜兵、共に』

「ああ、ラスター。ようやくわかったぜ、本当の敵ってヤツが」

『では行こうか、竜兵』

 今まで隠されていたラスターの能力がすべて開放された。竜兵はエンダーを指差し、宣言をする。

「『終わらせる者』ラスターのクラス・スレイヤーとしての能力発動! 一ゲーム中一つのクラスを選択。自分のターン、そのクラスに攻撃するとき、攻撃力が10アップする! もちろん指定するのはクラス・レジェンドだ!」

「基本攻撃力だけで28……!?」

「そして4レベル・トリック〈ソリッド・カード〉。基本フォース攻撃力分のダメージを与える。相手は2D分だけダメージを軽減できる」

「くっ……!」

 士郎は2Dルーレットを行い、合計8を出した。ラスターの基本攻撃力は15なので、ダメージは7。

「そして攻撃。オリハルコン・エッジ!」

 虹色の光彩を放つ大鎌を一閃する。

「3ゾロブースト、1と5で12! スレイヤーの能力で攻撃力は合計40だ!」

 士郎が反撃のルーレットを行う。が、ダイス目は合計で6だった。対抗策がなければ終わってしまう。

「クラス・レジェンドの特殊能力! 〈伝説の楯〉発動。一ゲーム中一度だけ、ダメージを0にできるっ」

「かわされたか。さすが雨宮士郎っ」

 この攻防に安堵したのは真矢と赤夜だった。竜兵が『終わらせる者』に操られていると信じている二人としては、エンダーに負けてもらっては困るのだ。

「竜兵、しっかりして! 雨宮くんは敵じゃないの!」

「わかってるよ、それくらい。でも、だからこそ戦わないとダメなんだ」

「意味わかんないよー!」

「ターン、終了だ」


 紫堂竜兵……ラスター/P18/F15/ライフ16/AP15/手札11  

 雨宮士郎……エンダー/P15/F15/ライフ17/AP12/手札8


「危なかった。紫堂くんはやはり油断できないな。でも、これで終わる!」

 士郎の指がタブレットを激しく叩く。大型ディスプレイ上で、光を発しながら舞い上がるカード。それは――

「5レベル・アイテム〈伝説の書〉。このターン、使用したアバターの基本フォース値は二倍となる。また、手札枚数も加算される。手札枚数は7枚。よって攻撃力は37となる!」

「竜兵にまともな対抗策がなければ終わるな」

 赤夜がポツリとつぶやく。

「終わればいいよ、無事に終われば……」

 真矢はもう一人の仲間に視線を移した。美守はただ竜兵を見つめていた。

「来るぞ、ラスター」

『ああ、恐ろしいチカラだ。だが』

「なんでだろうな、ワクワクしてきたぜ」

『それでこそ竜兵だ』

 二人の会話を聞き取れる者はいない。だが、うっすら笑う竜兵に、士郎は負の感情が刺激された。

「なにが可笑しいんだ! 散れ、悪魔め!」

 フォースによる攻撃宣言がされ、ルーレット・スタート。5ゾロ、3の4。攻撃力54の大型光弾が一直線にラスターへと向かった。

「行くぜ、ルーレット!」

 竜兵も負けじと4ゾロ・ブーストを発動し、5と6の高数値をたたき出した。それでも合計値34では、残りライフよりも多いダメージを受けてしまう。

「あと5点足りない。どうするラスター?」

『好きな方法を選べ。だがキミは決めているのだろう?』

「ああ、もちろんだ。おなじみ〈捨て身の反撃〉。ルーレットで10以上出せばオレの勝ちだぜ!」

「ルーレットの前にカウンター発動。2レベル・アイテム〈伝説の予言書〉。ダイスを振る前に1から6の数値を宣言。その目が出た場合、0から6の好きな数値に変更できる。ボクが予言するのは6だ。そして6が出たとき、0に変更する」

「つまり6を出さずに10以上出せってことか。ブーストするしかないな」

 竜兵はゾクッとした。寒気や恐怖ではなく、興奮のあまりにだ。これでこそゲーム。これでこそ勝負だった。

「だりゃっ!」

 気合をこめてルーレットを回す。五人の瞳がそれぞれの思いを込めてディスプレイを凝視する。

 ルーレットが停止した。

「ボクの勝ちだ、紫堂くん!」

 よりによって最高値、6ゾロだった。

「竜兵が、負けた……?」

 安心していいのか、ガッカリするべきなのか、真矢は自分の気持ちに整合がとれなかった。助けを求めるように見た赤夜は沈黙し、美守は呆然としている。

「ハハ……」

 竜兵が笑った。

「なにが可笑しい?」

「だって、最高じゃん。まだワクワクできるんだぜ」

「キミのゲームは終わった。『終わらせる者』は消え去る」

「なにいってんだ? まだルーレットは続いてるぜ」

「!」

 士郎がディスプレイに視線を移す。たしかにまたダイスが動きはじめていた。

「0、0だって立派なゾロ目だ。そして――」

 ルーレットが5ゾロを表示した。

「……!」

 士郎は全身の震えを感じた。

「この時点で〈捨て身の反撃〉確定! 骨を切らせて肉を断つ!」

「逆!」

 真矢が即座にツッコむ。あまりにも竜兵が普段どおりなので、つい反射的に出てしまった。それに少年が楽しそうにゲームをしている姿は、状況がどうあれ気持ちがよかった。

 (あ、そうか……)真矢は唐突に気づいた。今の竜兵こそが、彼が正気である証明だった。勝負とゲームが大好きで、他人の意見など聞きもしない、我がまま勝手な楽天少年。美守の言葉どおり、紫堂竜兵はなにも変わってはいなかった。

「……フン、バカはバカか。バカを汚染できるウィルスなどあるものか」

 赤夜も理解した。どういうつもりかは知らないが、竜兵は士郎ではなくラスターを選択したらしい。ならば少しだけ信じてやってもいい。まっすぐなバカほど怖いものはないのだから。

 ラスターは巨大な光の弾に半身をかれながら、エンダーとの間合いをつめて一閃した。エンダーに避ける余裕はなく、黄金の鎧を引き裂かれ、胸部から鮮血を飛ばした。

「……来た!」

 雨宮士郎は叫ぶ。覚悟を決めていた瞬間だった。

「オレの、勝ちだ――あ?」

 勝利に叫んだ竜兵は、画面に現れるべき勝利報告がないのにいぶかしみ、ついで目を見張った。

「……エンダーはまだ死んではいないよ」

「ウソだろ? 20ダメージがいってるはずだ。だって、オレのライフは〈捨て身の反撃〉の効果で10喰らってるじゃないか!」

 士郎がカウンターでカードを使った形跡はない。スキルも同様だ。なのにエンダーはライフを残して立っていた。

 いや、そのライフ・メーターすらがおかしかった。通常、緑色のバーと数値で表示されているものが、赤色とマイナス数値となっている。エンダーのライフは-3。

『竜兵、どうやら遅かったようだ』

「どういう意味だ?」

『エンダーはすでにレジェンドではない』

「だからどういうことだよ!」

『あれは、バグだ』

「バグ!?」

 「なんなの、竜兵?」真矢たちに竜兵とラスターの会話はわからない。竜兵の独り言が届き、三人は顔を見合わせた。

「あれがバグ? エンダーがバグの正体だってのか?」

『いや、エンダーはバグにりつかれたのだ』

りつかれたってなんだよ? 意味がぜんぜんわかんねぇっ」

 頭をかきむしって暴れる竜兵と対照的に、赤夜が「もしかしたら」と冷静につぶやいた。

「オレたちは騙されていたのか? 紫堂、ラスターこそがバグの排除プログラムなのか?」

「へ? そうなの?」

「おい!」

 真矢と赤夜が同時にツッコむ。美守さえつい苦笑いが出てしまった。

「わかっててエンダーと戦っていたんじゃないのか!」

「いや、そういうのはまったく。ただ、ラスターが望むならそうしたいと思っただけで」

『竜兵……』

 見えない死神がかすかに微笑んだ。

「こいつはオレなんだよ。ずっとオレと戦ってきた、もう一人のオレなんだ。だから信じたかった。それだけだぜ」

「本当のバカね、あいつ」

 真矢が深い深いため息をついた。

「でもそれが竜兵くんです」

 美守は心温まるのを感じた。そうやってただまっすぐに進んでいける少年だから、自分も変われたのだと思う。出会うことがなければ、彼女は未だ独りだったかもしれなかった。

「フン」

 赤夜は今さら竜兵を論じない。

「で、赤夜、ラスターがなんだって?」

「バグの消滅を目的にしているのは、エンダーではなくラスターだったのではないかと言っているんだ」

「なんだって?」

「疑うべきは雨宮士郎の言葉だった。エンダーがバグであれば、ラスターを排除したがるのもわかる」

『いや、そうではない。エンダーもわたしも、バグを消滅させるために生まれた』

 外部スピーカーを通して、ラスターの音声が流れた。

「ラスター!?」

『ようやくプログラムの修正ができた。これでわたしの声がみなにも聞こえるはずだ』

「聞こえるけど……、これがラスター?」

『そうだ、月浦真矢。キミのアイシャとは何度か闘ったな』

「わたしを知ってるの?」

『もちろんだ。わたしは竜兵の闘いの記憶でもある。八神赤夜や日下美守との勝負も、1ターン残らず覚えている』

「そんなのはどうでもいい。今、プログラムを修正したと言ったな? キサマ、なぜそんなことができる?」

 赤夜が挑戦的な目でディスプレイ上のラスターを見上げた。

『PFFには三つのメイン・プログラムが存在する。一つはゲーム本体、もう一つがオンライン・システム。そして最後に監視システムだ』

「監視システム?」

『オンラインでのデータのやり取りには、情報保護や外部からの違法アクセスに対する監視が必須となる。わたしはその監視システムから作成された自律進化型アンチ・ウィルス・プログラムだ』

「じりつしんかがたあんちうぃるすぷろぐらむ?」

「自分で考えて必要に応じて能力を拡張できるウィルス撃退プログラムってことだ。……だからスピーカーの制御プログラムも変更できたわけか。そんなおまえが作られた理由はただ一つ――」

『バグの消滅』

「そうなるわけだ」

 赤夜とラスターのやり取りを、竜兵はポカーンと眺めていた。話が理解できないまま、今度は真矢が疑問を口にした。

「ちょっと待って。それじゃ、エンダーってなんなの? あなたと同じバグ排除プログラムって言ったよね?」

『そもそもバグはごくごく小さく、人間に影響を与えるようなものではなかった。それがいつのまにかネットワークに介入できるほど大きく成長した。バグはウィルスとなり、いろいろな場所に転移するようになった。この時点で監視プログラムはわたしを――初期型ワクチン『終わらせる者』を生成した』

「PFFのメイン・プログラマである父さんは、『終わらせる者』だけでは不安に思い、完全を期して排除プログラム『レジェンド』を作った。けれど、バグはものすごい勢いで成長していった。進化するバグに対して『レジェンド』にできたのは抑制と転移を最小限に留めることだけだった」

 真矢と赤夜が顔を見合わせた。話がおかしい。

「それってさっきと話が違う! 雨宮くん、ラスターが元凶だって。エンダーで斃さないといけないって!」

「そんなこと言ったかなぁ?」

 士郎がニヤリと笑った。

「士郎……?」

 竜兵の目前で、士郎は明らかに変貌していった。目が血走り、体が小刻みに揺れている。

「どうでもいいじゃないか、そんな話。ボクがラスターを斃せば、みーんな解決するんだからさ!」

「雨宮くん、どうしたの!?」

『バグがエンダーだけにとどまらず、彼にまで憑りついたようだな』

「ありえるのかよ、そんなこと」

『わたしもキミに刺激を与えただろう。あれをさらに進化させたと考えられる』

「でも彼のエンダーだってバグ排除プログラムで、バグの天敵なんでしょ? 近づくのだってイヤなはずじゃないの?」

『バグがもっとも怖れたのはわたしだ。進化できるわたしより、『レジェンド』のほうが相対しやすいと考えたのだろう。なにより『レジェンド』の能力――プログラムを排除する力はわたしにも有効な手段だ』

「毒をもって毒を制す、か。虫のクセによく考えたものだ。キサマがバグより先に『レジェンド』と戦ったのは、これを予測してのことか?」

『そうだ。いずれエンダーではバグに抗しえなくなるのはわかっていた。だからその前に斃し、憂いを断ち切っておきたかった』

「たがいに協力すりゃいいじゃんかよ」

 竜兵が呆れる。

『満足に会話もできなかったわたしには、雨宮士郎に協力を要請するのは不可能だった。それにうかつに彼に近づけば、エンダーによって消滅させられるおそれもあった』

「ああ、そうか。て、じゃあなんでオレとかランカーに接触してきたんだよ?」

『進化するためには人間の知識と強い刺激が必要だった。それが高ランクのプレイヤーであるなら、より速い進化が望めた。それに――』

「なんだよ?」

『竜兵ならば共に戦ってくれる気がした。何も語らなくとも、人間で言う気持ちでつながることができると思えたのだ』

「な、なにいってんだ、おまえは!」

 恥ずかしいセリフを臆面もなく大音量で告白され、竜兵は真っ赤になった。

「それじゃ、試してみようか? 人間を支配できるバグ(ボク)と、人間にこびるラスター(おまえ)のどっちが強いのかを」

 士郎が下卑た笑みを浮かべ、ターン終了のボタンをタップした。

「そうだな、話はあとにしようぜ。今はこいつを斃すのが先決だ。オレのターン!」


 紫堂竜兵……ラスター/P18/F15/ライフ6/AP14/手札11  

 雨宮士郎……エンダー/P15/F15/ライフ−3/AP7/手札7


 勢いよくチャージしたものの、竜兵に策があるわけでもない。ライフがマイナスになっても生きている相手に、どうやって勝てというのか。

「ラスターが強くなったといっても、エンダーを取り込んだバグに勝つのは難しい。そして、エンダーを斃さなければバグには近づけない」

 赤夜の分析は正しく、今やバグは黄金の騎士(エンダー)をとりこみ、文字通り自らを守る最強の騎士としていた。しかもクラスは『レジェンド』から『バグ』へと変更されている。スレイヤーのクラス・レジェンドに対する攻撃力ボーナス能力は効果を失っていた。

「とにかく攻撃してみるしかない! パワー攻撃オリハルコン・エッジ!」

 甲高い音とともにルーレットが回る。2ゾロ・ブーストし、3と5。

「攻撃力30!」

「るぅれっっとぉぉぉぉ!」

 士郎の瞬きもしない目が大きく見開かれる。感染がひどくなっていく。竜兵は舌打ちし、拳をにぎった。

 エンダーの攻撃力は19。ダイス目には恵まれていないようだ。それでもライフは平然と減り、マイナス14になってもゲーム・オーバーにならない。

「ダメだ。まったく意味がねぇ……」

「竜兵、なんかないの!?」

「あればやってるんだよっ。ターン終了!」


 紫堂竜兵……ラスター/P18/F15/ライフ6/AP16/手札12  

 雨宮士郎……エンダー/P15/F15/ライフ−14/AP9/手札8


「ボクのターンん! 〈伝説の剣〉!」

 士郎から飛び出したカードは5レベル・アイテムだった。

「相手に自分が受けた総ダメージ分のダメージを与える。相手は2D分軽減でき、この効果を使用したターンは攻撃できないっ」

「今までのって……34からマイナス14までか!? えと、48ぃ!?」

「さぁ、最後のルーレットを回せ」

「くそっ」

 カードに対する対抗策がない以上、ダイスを振るしかなかった。

「5と1。ここで〈トリック・ダイス〉。1を5に変更する」

「悪あがきを」

 士郎の指がスキップを押した。

「回れ、回ってくれ! よし、3ゾロ。そして――2と4」

「合計は22。ダメージは26か。4回死ねるな」

「〈ポーション〉で3」

「まだ23」

「くそ、これしか残ってねぇ。5レベル・スペル〈デーモン・トレード〉。悪魔との取引で5ターンの間パワーかフォースを0にすることで、その値分ライフを借りる。5ターン後に借りたライフの二倍ダメージを喰らう」

「ハハハハッ。自ら悪魔に魂を売ったか!」

 竜兵は反論もせずにパワーを悪魔にささげ、18点のライフを買った。これであと5ターン以内に決着をつけなければならなくなった。しかも頼りにしてきたパワーはもうない。

「ボクはこれでターン終了だ」


 紫堂竜兵……ラスター/P0/F15/ライフ1/AP11/手札11  

 雨宮士郎……エンダー/P15/F15/ライフ−14/AP6/手札8


「竜兵……」

 真矢の視線に気づき、竜兵は「余裕だ」と虚勢を張った。どんなときでも下を向くなと、彼は彼女に言った。今度は少年が少女に応える番だった。

「竜兵くん、がんばって……」

 美守は手を組んで祈った。窮地に立たされている少年に、彼女はなにもできずにいるのが歯がゆかった。

「……」

 赤夜は沈黙したまま、勝負の行方に注目している。

 三者三様を舞台上から眺め、竜兵はフッと息を吐いた。

「ラスター、勝てると思うか?」

『可能性は低いな』

「はっきり言うな、おまえは」

『わたしはおまえだからな』

「ハハ…。そりゃそうだ」

 「――!」竜兵は脳裏にひっかかりを感じた。今のたわいのない会話の中に、答えを見つけた気がする。

「一心同体……いや三身一体……?」

『どうした、竜兵?』

「なぁ、あいつは今、だれなんだろうな」

『だれ、とは?』

「雨宮士郎なのか、エンダーなのか、バグなのか」

『それは、そのすべてだろう。エンダーは雨宮士郎のアバターであり、バグはエンダーに憑りついているのだから』

「だよな。そうだよな!」

 竜兵が手札を漁りはじめる。その目に輝きが、体に勇気があふれていた。

『……そうだ、これがわたしの見出した希望だ』

 ラスターのつぶやきの先に、少年の光があった。

「いっくぜぇ、5レベル・スペル〈パワー・フォース・コンビネーション〉」

「バカめ、そのスペルはライフが2以下のときにしか使えない究極必殺技。その効果はパワーとフォースの値を合計して攻撃力にできる。だが今のキサマは――」

「これをおまえにかける!」

「なんだと!」

 士郎も、真矢たちも竜兵の宣言に驚いた。

「気でも違ったのか、紫堂!」

「マジも大マジだぜ、赤夜。これが唯一の答えだって信じてやってるんだ」

 自身ありげな顔はいつものことだ。だが、この土壇場で笑顔が浮かぶのは紫堂竜兵だからだ。

「……そうか、ならやれ」

「おうっ。あとはオレの運……いや、確定した勝利への軌跡を追うだけだ」

 士郎に向き直ると、彼は「おもしろい」とスペルを承諾した。これにより、エンダーの攻撃力は15+15で30となる。

「フォースで攻撃! ルーレット、いけぇ!」

 三人が祈り、一人が嘲笑あざわらう中、ダイスが転がり弾ける。

 一つが先に停止し、4を表にした。

「4出ろ」

「4きて」

「4出せ」

「お願いっ」

「出ても勝てないよ」

 思いを乗せて、ダイスはとまる。

「1! 1だよ、いちぃ!」

 士郎のゆがんだ声が響く。もはや以前の彼は消えてしまったのか、性格も表情も崩れきっていた。

「カウンター・スペル〈ヒート・アップ〉」

 4レベルのカードが場に出された。

「手札一枚につき数値を1上げる。オレは残り全部のカードを捨てる」

「それでも8しか上がらないじゃないか!」

「そうだな。で、認めるのか?」

「ああ、いいさ。APもわずか2しか残らず、手札もなく、パワーもない。そんな状態で負けたいというなら、いくらでも認めてやるさ!」

「これでオレの総攻撃力は15+5+8で28だ。そっちのルーレットの番だ」

「振る意味もないけどね」

 そうあざけながら、いい加減な動作でルーレットを動かした。態度が結果に結びつくのか、数値は4であった。

「合計で34。勝負あったな」

 士郎が指を差して笑ってやろうとした相手は、なおも不敵だった。それはディスプレイに映るラスターも、舞台下の真矢たちも同様だ。

「竜兵くん、やっぱりスゴイです」

 美守は涙を堪えず真っ赤な顔で微笑んだ。

「なにを……?」

 挙動不審に周囲をうかがう士郎に、竜兵が残された最後のボタンに手をかけた。

「さぁて、鬼が出るか、チャが出るか」

「ジャ、ね。蛇よヘビ」

「わかってるよ! ……まったく、最高に盛り上がってるってのに」

「わかったわかった。さっさとトドメをさしなさい」

「ああ、これで終わろうぜ、ラスター」

『ゆけ、竜兵』

 竜兵は一息吸い込んだ。

「カウンター・スキル〈最後の切り札〉!」

 ラスターに唯一残された2レベル・スキルを少年は叫んだ。デッキからカードを一枚チャージし、タイミングが合えば無条件で使用できるトリック・スキルだった。

「そんな、まだそんな手が……! いや、だけど、しかし……!」

「ウダウダ考えたってはじまんないぜ! オレはただ、自分のデッキを信じるだけだ!」

 カードが飛び出し、竜兵の元へと舞い降りる。そのカードは――

「10レベル・キセキ・カード〈受け継がれる意志〉発動!」

「キセキ・カード???」

「一〇〇人と名刺交換したときにもらえるカードさ! 知らないってことは、おまえ、友達いねーんだろ!」

「……!」

「このカードは、フレンド登録者数を任意の数値に加算できる。オレの登録数は一三八人! みんなの意志を、オレの力に!」

「今回だけ貸してやる、紫堂」

「いけー、竜兵!」

「受け継いで、みんなが笑えるようにするために」

 三人の笑顔を受け、竜兵は心の底から嬉しくなった。

「サンキュー、みんな。さぁ、トドメだ、ラスター!」

『おう!』

 ラスターのオリハルコンの刃が青い炎をまとってやってくる。エンダーは大勢の意志の力に圧倒され、数歩退いた。

「意志がなんだ! そんなものが効くか! ボクは無敵なんだ! ダメージなんて受けないぞ!」

「今のおまえに逃げ場はない」

「え……?」

「パワーとフォース……体と心の力は〈パワー・フォース・コンビネーション〉で一つになっている。どこにも逃げ場のないおまえになら、このダメージは通る!」

「そんな理屈……!」

「そしてエンダーへのダメージは、一体となっているバグにも通じる。『終わらせる者』ラスターの対バグ用特殊プログラムも載せて、おまえにくれてやる!」

「ま、待て……! そうだ、カウンターだ。まだボクにはカウンター・スペル――!」

 伸びかけた士郎の手が、タブレットの寸前でとまった。

「なぜだ、なぜ動かない、この体ぁぁぁぁ!」

「雨宮、士郎……?」

「この瞬間を待っていた。紫堂くんが真実にたどりつき、ボクを……バグを斃してくれるの、を……」

『オマエ、ハジメカラ……』

 士郎側のディスプレイ・スピーカーから、誰のものでもない声が発せられた。それがバグのものであるのは全員が即座に気づいた。

「紫堂くん、バグをたおしてくれ!」

「ラスター!」

 ラスターに迷いはなく、大いなる意志を込めた蒼炎の刃でエンダーを斬り裂いた。しかし血は噴き出さず、かわって黒い煙が立ち登る。

『オオオオオノレェ……!』

 それがナニか、だれの目にも明らかだった。ラスターは鎌を振りかぶり、草を刈るようにいだ。

 終わりの合図だった。


 紫堂竜兵……ラスター/P0/F15/ライフ1/AP0/手札0  

 雨宮士郎……バグ/P+F30/ライフ消失/AP6/手札8(ゲーム・オーバー)


 

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