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PFF ~竜兵のゲーム~   作者: 広科雲
5/9

第四話 進化する化身

 冬休みがあけ、三学期がはじまる。

 竜兵は赤夜との一戦を忘れたように朝からPFFに燃えていた。クラスで一番の称号であるクラス・マスターに恥じない戦いぶりで、赤夜がゲームが離れている間にクラス二番手となった安田欽一に圧勝した。

「絶好調だな、チクショウ。今日は勝てると思ったのに」

「いや、あそこでブーストしなかったらヤバかったぜ。けど、おたがいこの調子なら、団体戦もいけるな」

「おう、がんばろうぜ!」

 竜兵と欽一がたがいを称え、握手する。近々開催さえるPFF学級対抗戦は個人戦と団体戦に分かれていて、個人はクラス・マスターの竜兵が、団体戦はクラス三位までの三人が出場することになっていた。

 クラス三番手の美守は、元気になった竜兵に嬉しくなった。冬休み直後は生気が抜けたようなプレイの連続で心配したが、どうにか立ち直ってくれたようだ。

 その赤夜は教室の自分の席でおとなしくしている。誰ともあいさつをせず、会話にも参加せず、話すら聞いていない。そんな彼に悪意を持つ一部のクラスメイトは「負け犬」やら「卑怯者」と陰口を叩いた。

「ちょっと、いいかげんにしなさいよね!」

 ガマンできなかったのは真矢だった。ずっと耐えてきたのだが、ついに限界を突破した。赤夜がいつもの短気で反発するのさえ期待していたのに、彼は沈黙を守り続けていた。

「お、嫁が出てきたぞ!」

「だれが嫁よ!」

「おまえだおまえ。こんな卑怯者をかばうなんて、バカじゃねーの?」

「なんですって!」

「やめろ!」

 男子グループに挑みかけた真矢を、竜兵がとめた。

「なんだよ竜兵。おまえが一番ムカついてんだろ? せっかくの完全勝利から逃げられたんだぜ」

「そりゃ頭にきたさ。けど、もうどうでもいい。あいつは尻尾を巻いて逃げるような弱虫だった。それだけだ。いちいちかまってられ――!」

 「竜兵ぃ!!!」吐き捨てる竜兵に、真矢が横っ面を殴った。女子の力とはいえ、相当にセンスがいいのか、タイミングがよかったのか、少年は床に叩きつけられた。

「紫堂竜兵っ、赤夜をバカにするのはわたしが許さない! あんたなんかわたしに勝ったこともないくせに、偉そうに他人を見下すんじゃないわっ」

「いつの話だよっ。転校してきてすぐの数回じゃないかっ。今だったらおまえなんか瞬殺だ!」

「やってみなさいよ。もしわたしが勝ったら赤夜に土下座して謝ってもらうからねっ」

「あー、いいとも。その代わりオレが勝ったら、おまえの持ってるカード全部もらうからな!」

「わかったわ。それじゃ、三〇分後に屋上で勝負よ。ルールはクラス対抗戦に合わせてビギナーじゃなくてスタンダードでやるからね」

「すたんだぁど???」

 久々に竜兵が呆然とした質問顔をした。

「だれかに聞きなさい。カードは二五枚だから、それだけは間違えないようにね」

 真矢は言い放ち、赤夜の襟首をつかんで教室を出て行った。「放せ」と抗議する赤夜におかまいなく。

「なんだよ、あれ……。で、だれかスタンダード・ルールについて教えてくれないか?」

 「ああ、いいぜ」安田欽一が一歩進み出た。このようなときイの一番で飛び出してくる美守の姿は、いつの間にか消えていた。

「従来のビギナーと違って、禁止になっていたカードがいくつか使えるんだ。デッキ枚数も二五枚に、基本ライフも三〇になる。それと、一番の違いはエクストラ・デッキを持つことができるってとこだな」

「えきすとら?」

「エクストラ。予備デッキとも呼ばれ、最大五枚まで入れられる。このデッキのカードは通常では使うことができないけど、特殊な条件を満たすと即時使用可能。ビギナーではすべて禁止カードになってるから、竜兵は使ったことがないだろうな」

「そうすると、もう一度カードを見直さないとダメか」

「だな。そのための三〇分だろ」

 説明してくれた欽一に「サンキュー」と伝え、少年はカード・リストを凝視する。なるほど、スタンダード・モードに変更すると、いくつかのカードが使用可能になっていた。

 それから三〇分、竜兵はラスターを中心としたスタンダード用デッキを完成させた。


「よく逃げずに来たわね」

「おまえ相手に逃げる必要がないしな。さぁ、はじめようぜ!」

 二人がIDカードをゲーム・マシンに飲み込ませる。スタンダード・ルールを選択し、ゲームを開始。

『パワー・フォース・ファイト、フリー・モードで起動。レッド・コーナー、五年三組クラス・マスター、紫堂竜兵。ブルー・コーナー、五年三組フォース・ランキング四位、八神赤夜』

「赤夜? それにブレイズ・ドラゴン? もしかして、それ……」

「ええ。赤夜のIDカードとデッキよ」

「なんでおまえが?」

「赤夜と赤夜のデッキが最強って証明するため。あんたが本当はお情けで赤夜に勝たせてもらったってわからせるために借りたのよ」

「なんだとぉ?」

「さぁ、おしゃべりはここまでよ。わたしのターン、チャージ!」


 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP2/手札3  

 月浦真矢……ブレイズ・ドラゴン/P10/F9/ライフ35/AP2/手札3


「行きなさい、ブレイズ・ドラゴン。ヘル・ブレイズ!」

 ルーレットが動き、7を出す。合計攻撃力は16。

「それくらい! ソウル・スラッシュ!」

 ラスターが巨大鎌を振るい、竜の炎を魂を刈り取る魔力で吹き飛ばす。ルーレットは11! 基本能力では上回るドラゴンの灼熱咆哮ブレスを真正面からなぎ払う死神。

「まだまだ。ダイス運だけのヤツに、赤夜は負けないっ」

「そんなことを言ってるから負けるんだよ」

「ウルサイっ。わたしは負けないんだ!」

 ターン終了のボタンが押され、第2ターンへと移る。

「チャージ・フェイズ。ここはAP温存でパワー攻撃!」


 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP4/手札4  

 月浦真矢……ブレイズ・ドラゴン/P10/F9/ライフ33/AP4/手札4


 ルーレットは無情で、真矢は3ダメージを喰らった。両者ともにカウンターはないのでメイン・フェイズも静かに終わる。


 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP6/手札5  

 月浦真矢……ブレイズ・ドラゴン/P10/F9/ライフ30/AP6/手札5


「わたしの番。……このままフォース攻撃」

 手札を見て失望した真矢は、またもや単調な攻撃を繰り返した。

 そして竜兵よりも2小さいダイス目を出し、おたがいにダメージなしで引き分けた。

「スゲェつまんない試合だな」

「けど竜兵が有利じゃん。やっぱ卑怯者のデッキは弱いんだよ」

「月浦もバカだよな。竜兵に勝てるわけねーのに」

 ギャラリーの陰口と嘲笑が真矢の耳にも届いた。悔しかった。自分がバカにされていることではなく、赤夜のデッキがバカにされているのが。そしてそれをうまく扱えない自分が。

 証明するんだ。八神赤夜が最強だと。いつも、いつでもヒーローであるのを。わたしを守ってくれたあのころの礼を、今ここで返すんだ。なにより、ひたむきだったあいつを取り戻すためにも!

「下を向くな、真矢」

「……!」

 敵からの声にハッとして顔を上げる。

「それじゃ赤夜と同じだ。おまえも逃げる気か?」

「……冗談でしょ? わたしは証明する。わたしが正しいかったことを。わたしが信じたものを」

「なら、胸を張って戦え。オレのターン!」

 

 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP8/手札6  

 月浦真矢……ブレイズ・ドラゴン/P10/F9/ライフ30/AP8/手札6


「毎度おなじみ〈ストレングス〉。ダイス目は6! ブラック・エッジ!」

 ラスターのパワー攻撃が炸裂する。しかも3の3でブーストし、2の2につなげる。最後は1と5だった。

「10+6+3+3+2+2+1+5……えと、合計32!」

「こっちの目は8……。3レベル・アクション〈防御体勢〉。次のターン、攻撃できないかわりにダメージを半分にする」

「ダメージは7か。よく防いだ」

「これくらいで……!」

 竜兵にそれ以上の行動はなく、真矢のターンになる。


 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP7/手札6  

 月浦真矢……ブレイズ・ドラゴン/P10/F9/ライフ23/AP7/手札6


「〈防御体勢〉の効果で攻撃はできない。このままターン終了」

 

 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP9/手札7  

 月浦真矢……ブレイズ・ドラゴン/P10/F9/ライフ23/AP9/手札7


「さっきはうまく逃られたけど、今度はどうだ。3レベル・トリックカード〈トリック・カーテン〉。今回は3レベル常時スキル〈奇術大全〉があるから、トリック・カードの消費APが1下がり、成否判定で+1のボーナスを得る」

 つまりは〈トリック・カーテン〉の消費APは2、成否判定は11で成功となる。

 だが、運命のルーレットは6と3を出し、ギャラリーにため息を吐かせた。

「まだだ、3レベル・トリック〈トリック・ダイス〉発動! ダイス目一つを好きな数にする。当然オレは3を6にする。ブーストでさらに3と1。成否判定成功」

「……」

 真矢は唇を噛むだけだった。対抗のしようがない。

「ブレイズ・ドラゴンのパワーを0にして攻撃!」

 ラスターは漆黒のカーテンに消え、相手の死角から攻撃をする。死神のルーレットが4と5を表にして停止した。

「攻撃力19! おまえはルーレットもできないぜ。そのまま喰らえ!」

 ブレイズ・ドラゴンが悲痛の咆哮を上げる。致命傷に近いダメージに、巨体がのたうつ。

「いいぞ、竜兵! さすがクラス・マスター!」

「やっぱダメだろ、赤夜のデッキ。月浦も弱いしな」

「つまんねぇゲーム。一方的じゃん」

 竜兵は勝ち誇った顔で真矢を見た。真矢は睨み返すので精一杯だった。

「わたしの……ターン」

 

 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP7/手札6  

 月浦真矢……ブレイズ・ドラゴン/P10/F9/ライフ4/AP11/手札8


 真矢は逆転の必殺技〈ブレス・チャージ〉を使うタイミングを完全に逃していた。このスキルはライフがたくさんあるときか、安全が確保できなければ使えない。真矢は完璧な防御態勢を整えるのにこだわり、初期段階で使うのをためらってしまった。その結果、防御カードが手にできないまま時を逸したのだった。

 勝てない、という思いが少女にりついた。それでも真矢はもう、下を向かなかった。泣き出したい気持ちをぐっと堪え、今できることを探した。

 そして導き出した答えは――

「……ターン・エンド」

「え、何もしないのか?」

「……」

 真矢は答えなかった。

 ついにあきらめたのか、と誰しもが思った。降参しないのは赤夜との違いをアピールするためか。ギャラリーのザワめきにも、真矢は動じなかった。

「紫堂家・家訓第一条! 男はいつでも全力勝負!」

「な、なんだよ、竜兵?」

 いきなり叫んだ竜兵に、安田欽一がツッコム。

「だから家訓だよ。真矢はまだあきらめてない。あいつのあきらめの悪さ、オレはよく知ってんだ。だからこそオレも全力で戦う!」

「わたしは女だけどね」

 ポソッとつぶやいた真矢に、かすかな笑みが見える。それでこそ真矢だ、と竜兵も笑んだ。


「いいんですか?」

 背後からの声に、少年は驚いた。振り向くと日下美守がいた。誰にも気づかれない物陰から勝負を見ていたはずなのに、この少女はいつからいたのだろうか。

「彼女は全力で戦ってます。誰でもない、あなたのために」

「……っ」

 赤夜はきびすを返し、屋上から去ろうとした。

「真矢ちゃんを応援してあげてください」

「オレには関係ない。あいつが戦おうと、勝とうと、負けようと……」

「本当にそうならこんなところにいるはずないです。心配だからいるんです」

 「……」赤夜は答えられない。まさしく正解だったから。

「真矢ちゃんの言葉や行動で、少しはわかるつもりです。八神くんが独りだったときの気持ちもわかります。わたしもそうだったから」

「だからなんだ? 真矢を応援すれば、どうにかなるとでも言うのか?」

「わかりません。でも、行動すれば何かは変わるんです。そばにいてくれる人がいれば、世界は変わるんですっ」

 日下美守にはたった一人、この上なく頼もしい味方がいた。けれど、本当は彼が唯一ではなかったのだと最近わかるようになった。自分が世界を狭くしていた。自分の一歩が世界を変えた。それがようやくわかるようになってきた。でも、そのきっかけをくれる人は、やはり必要だったのだ。

 赤夜にもたった一人、味方がいた。不器用で頭もよくないが、笑うとこっちまで嬉しくなる女の子だった。彼女が見ているから、期待してくれるから、少年はがんばれた。だがいつしか時は流れ、少女が離れていくのを感じた。自分がヒーローではなく、凡百の一人でしかないのもわかってきた。だからといって今さら逃げたくはなかった。ガムシャラに、ひたむきに、まっすぐに進んでいった。しかし終着はミジメなものだった。一番にもなれず、少女の視線ももはや自分にはなく、気がつけば独りだった。虚しさだけが残った。

「……オレには何もない。今、あいつが戦っているのもオレに対する責任と同情だ。負けたとしてもすぐに忘れるだろう」

「忘れるわけないじゃないですか!」

 美守が赤夜の前に立ちふさがり、涙をためて叫んだ。

「わたしが竜兵くんを忘れなかったように、真矢ちゃんもあなたを忘れないっ。きっと帰ってくるって信じてるっ。じゃなきゃあんな場所で戦えないです!」

「……!」

 突き動かされるように、少年は振り返った。そこには観客からの罵声と嘲笑を浴びてなお、凛と立つ少女がいた。


 『重荷なら捨てればいいよ。誰かのヒーローでいる必要なんかない』

 『わたしは見てるしかできないけど、見続けるくらいはできるから』

 『八神赤夜、最強になりなさい! 誰もが認める最強の王になればいい!』


「真矢……っ」

 竜兵のターンがはじまっていた。おそらくこれが最後のターンになるだろう。

「もう間に合わないかもしれないけど、行ってあげてくださいっ。お願いですっ」

 頭を下げる美守に、赤夜は「フン」と鼻を鳴らした。

「何もできないのに、行く意味があるのか?」

「それは……」

 返答に迷う美守を一瞥いちべつし、赤夜はまた歩き出した。

「いい、答えはすでにもらっている」

「え?」

 心に残る一言を、赤夜は思い出していた。


 『八神赤夜ならできるんだから!』


 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP9/手札7  

 月浦真矢……ブレイズ・ドラゴン/P10/F9/ライフ4/AP13/手札9


 「いけぇ、ラスト・ルーレットだ!」

 竜兵のタップと同時に、ルーレットが勢いよく回る。

 じれったいほど長く画面を駆け回ったダイスは、6と6を出してとまった。

「おー、この場面でブーストきたぁ!」

「さすが竜兵、ダイスに愛された男!」

「赤夜のデッキなんて相手にもならない!」

 沸き立つ群衆に押され、ルーレットが再び回転する。惜しいことに5と6で終わった。それでも総攻撃力は33。スキルもカードもなしに容易に出せる数値ではない。

「まだ終わりじゃないっ。わたしもブーストすれば……!」

 対する真矢もルーレットをスタートさせる。

 が、最後まで彼女に運はなく、1と2という最弱の目を出した。

「攻撃力は決まった。対抗は?」

「……ないわ」

 真矢の言葉が終わらないうちに、ギャラリーは竜兵の勝利に浮かれた。

 攻撃エフェクトがハデに流れる。竜兵のラスターが真矢のドラゴンの首を刈り落とす。断末魔の叫びもなく、巨体が沈み、自身の炎で燃え散った。

 感慨もなく、真矢はその映像を眺めていた。

「真矢」

「赤夜……」

 真矢は驚かなかった。むしろ泣きたいくらい嬉しくて、失敗した笑顔を浮かべた。

「お、負け犬コンビだぜっ」

「ダッセぇ。二人して偉そうにして、この有様かよ」

 そんな外野を無視して、赤夜は彼女に言葉をかけようとした。けれど、彼女の手が口をふさぐように当てられ、少年は戸惑った。

「礼も詫びもいらない。またやる気になったんでしょ? それだけでいいよ」

「……そうか」

 不器用な少年の、精一杯の返事だった。

「さて、それじゃ、竜兵を片付けようか。来るのが遅いから、演出過剰になっちゃったじゃない」

「え?」

 真矢の発言に、全員が目を見張った。すでにドラゴンはライフもなく死んでいる。ゲームは終わっていた。

「赤夜、あとは任せるね。あのお調子者、ちょっと懲らしめてやって」

 彼女が指す一枚のカードに気づき、赤夜が失笑寸前の顔になった。

「待たせたな、紫堂。この間の借りを返す」

「いや、それはいいけどさ、なに、もう一戦てこと?」

「ゲームはまだ終わっていないっ。5レベル・スペル〈破壊からの再生〉」

「え、え、ちょっと、もうブレイズ・ドラゴンは死んでるって!」

「そうだ、ブレイズ・ドラゴンは死んだ。そして以前のオレもだ。だからこそ蘇る、新たな意志と力で。再生せよ、〈フェニックス・ドラゴン〉!」

「フェニックス・ドラゴン!?」

 大型モニターが地震のエフェクトを流し、ブレイズ・ドラゴンの灰を映す。そこから巨大な火柱が発生し、それはやがて鳥のような姿を見せた。炎の翼はさらに二枚増え、鉤爪のついた手足を伸ばし、長い尾を波打たす。そして羽ばたいた。


 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP9/手札7  

 月浦真矢……フェニックス・ドラゴン/P15/F14/ライフ35/AP8/手札8


「おい、ちょっと待て! なんだその能力値は!」

「〈破壊からの再生〉はクラス・ドラゴンがオーバー・キル10点以上を喰らったとき発動できる。エクストラ・デッキにあるクラス・イモータルのカードを選択しアバターとする。パワーとフォースは基本値を+5され、ライフを初期値まで回復する!」

「なに、つまりはオレ、やりすぎたってこと?」

「そういうことだ。さんざんやりたい放題やった報いを、ここで受けるがいい!」

「クスッ。これを狙って黙ってやられてたんだからね。覚悟しなさい」

 真矢の冷ややかな笑みに、竜兵はゾッとした。

「ヒデェ、おまえは悪魔か」

「なんとでも。さ、他に何もできないなら、ターン終了宣言しなさいよ」

「うわぁ……」

 弱気になりながら終了ボタンを押す。形成が一気に逆転したのを悟らざるを得なかった。


 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP11/手札8  

 八神赤夜……フェニックス・ドラゴン/P15/F14/ライフ35/AP10/手札9


「オレのターン! 2レベル・スキル〈ブレス・チャージ〉」

「マジかよ……」

「ターン・エンド」


 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP13/手札9  

 八神赤夜……フェニックス・ドラゴン/P0/F29/ライフ35/AP10/手札10


「ここで決めるしかねぇ!」

 竜兵は通常のパワー攻撃を指示した。ルーレットはそれなりに活躍し、5と2で7。総攻撃力は17。赤夜のパワーは現在0なので2Dルーレットの値分だけが減少する。

「よし、ここで3レベル・トリック〈トリック・ダイス〉!」

「カウンターはない」

「じゃ、2を5に変更してブースト。……4と4。ラッキー。で、3と3! ここまで来たら届けぇ! 2と4!」

 合計で40。竜兵、執念のダイス目だった。

 観客がザワめくなか、赤夜も負けじと叫ぶ。

「たかが攻撃力40、6あればいい! ……ルーレットは4と3だ!」

 「おおおおお!」観客の怒号が二人を包む。ギリギリだがフェニックス・ドラゴンのライフは残った。

「まだだ。2レベル・アクション〈追撃〉。ダイスは2」

「ならばフェニックス・ドラゴンの特殊能力発動。手札を一枚捨てるごとにライフを2回復できる」

「おい、ちょっとさすがに反則だろ!?」

「これがフェニックスだ」

「ぐ、ぅ……」

「さらにここで〈逆鱗〉。攻撃力が一度だけ10上がる」

「ぐうぅぅ……」

「さぁ、終わりならば死刑執行のボタンを押すがいい」

 竜兵はあきらめてターン終了ボタンを押した。


 紫堂竜兵……ラスター/P10/F7/ライフ35/AP11/手札8  

 八神赤夜……フェニックス・ドラゴン/P0/F29/ライフ2/AP10/手札10


 突然の逆転劇に、観客がようやく事態の大きさに気づきはじめた。もしかして赤夜が勝つのかも知れない。そんな期待と奇跡に、みな固唾をのんでいる。

「容赦はしない。5レベル・カード〈ブレイズ・カース〉!」

「まだ重ねるのかよ!」

「キサマはオレたちを傷つけすぎた。楽には終わらせん!」

「言いがかりだろ、それ」

 ボヤく竜兵に、真矢が笑う。竜兵の態度も可笑しいが、それよりも赤夜が『オレたち』と言ってくれたのが嬉しかった。

「灰も残さず熔けるがいい、ゴッド・ブレイズ・バースト!」

「……イマイチな技名だな」

 のん気にツッコミを入れている場合ではなかった。赤夜のダイス目は11、総攻撃力は50になっていた。

「50っておまえ……。行け、オレのダイス!」

 竜兵は持ち前のダイス運でブーストを一度はさんだ13を出した。それでも攻撃力は20だ。通常ならライフが5残るところだが、〈ブレイズ・カース〉の効果でダメージは30×2の60である。それこそ消し炭も残らないダメージだった。

「まだまだぁ、3レベル・アクション〈捨て身の反撃〉!」

「フン、最後まで強運が続くか?」

「紫堂家・家訓第二条、結果を恐れず突き進め!」

 「ああ、だから他人の迷惑考えないんだ」真矢がため息を吐き出す。

 竜兵のダイスが最後の賭けに出る。この他にも回復手段があるにはあるが、とても60点のダメージを抑えるほどではない。ここで10以上出さねばならない。

「よし、4と6!」

「3レベル・スペル〈フレイム・バインド〉。属性・水以外のアバターが使うアクション・カードを無効にする。代償は使用カードのレベル分の手札破棄だ」

 赤夜が余りあまった手札から三枚捨て、竜兵の〈捨て身の攻撃〉をキャンセルする。

 竜兵にもう手立てはなく、ラスターが焼かれるのを見ているしかできなかった。

『勝者、八神赤夜』

 コンピュータ音声が宣言すると、観客はたがいの顔を見合わせ、そして怒号を上げた。それは赤夜に送る賞賛と、竜兵の健闘に対する言葉、真矢に告げる謝罪が混じっていた。

 その中で、紫堂竜兵は一つ大きなため息をつき、八神赤夜に近づいた。

「いや、負けたぜ。スタンダード・ルールは奥が深いな。あんなアバターが出てくるなんて予想もできなかった」

 竜兵が手を差し伸べる。

「紫堂家・家訓第三条、勝負のあとは笑って握手」

「……っ」

 赤夜は戸惑い、真矢を見た。

「いいんじゃない、たまには」

「フンッ」

 赤夜は手を出し、竜兵の掌を軽く叩いてマシンを降りた。

「素直じゃないわね」

「おまえもな」

「あら、わたしは素直よ」

「どの口が言うんだか」

 殴られた痛みを思い出したように頬に触れる。かすかに熱をもっているが、それだけだった。

「……ごめんなさい。それと、ありがと。竜兵がああ言ってくれたから、わたし、戦えたんだよ」

「なんだそれ? オレは言いたいことを言っただけだぜ」

 そっぽを向いて離れていく竜兵に、「あんたのほうがよっぽど天邪鬼あまのじゃくじゃない」とボヤき、もう一度感謝を込めて「ありがとう」をつぶやいた。

 竜兵は赤夜の復活と、新たな敵――フェニックス・ドラゴンを思い、心も体も震えていた。こうでなければいけない。ゲームは楽しくてワクワクしなければ。興奮が高まり、噴出口を求めて少年の体を突き動かす。

「よぉし、やるぜぇ!」

 竜兵は走り出していた。

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