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その弾丸の行先  作者: 須方三城
魔国進軍編
14/24

第12話 傭兵、再起


「……桜、か」


 4月。クロウラのハッジタウン。ハトマのあるタストタウンの一つ隣の街。


 隣街とは行っても、その規模は天と地。何せハッジタウンはこの国、クロウラの首都だ。タストタウンの倍以上の広さがある。


「わふ!」


 そんなハッジタウンの花咲き誇る公園のベンチに、灰髪黒尾の魔人、ガツィア=バッドライナーは寝転がっていた。


 彼の現在の相棒である子犬も一緒だ。


(春か……)


 ハイネに拾われたのは二ヶ月以上も前。ハイネの元を離れて、一ヶ月程が経っていた。


 当然ながら、その間トトリ達には会っていない。


 ポケットから真新しいスマホを取り出し、そこにぶら下がる犬のストラップを眺める。


「俺にゃ似合わねぇにも程があったよなぁ、あの制服」


 少し、思い出に浸ってみる。らしくない。そう自覚しながらも。


 いつか、このストラップを何の感情も無く捨てられる様になるまで、きっとガツィアは思い出しては惜しみ続けるのだろう。


 セントカイン修道院を出た時もそうだった。


 何度も戻りたいと思った。引き金を引ける様になってからも、何度も、何度も。


 雨に打たれながら、冷たいアスファルトの上に伏せて泣いた。

 でも、その内泣かなくなった。

 時間が経てば、諦めが未練を濁してくれる。


 セントカインの心を封じ込めるのと同じ様に、誤魔化してくれる。


 そんな事を考えていた時、スマホが鳴った。

 どうもこのアーティストが流行らしく、トトリが設定してくれたスマホと同じ着信音だ。


(……同じ帰る場所でも、こんなに気分が違うのぁ何でだろぉな)


 答えは知れている。セントカインを刺激する暖かさが、今の居場所には無い。


 ガツィアの新たな帰る場所に、ハイネはいない。ハイネの様なまっとうな者もいない。


(ま、俺にゃお似合いの場所だ)


 ゆっくりと立ち上がり、通話ボタンをタップする。


「休憩は終わりか」

『ええ』


 電話越しに響く幼い少女の声。


『早く戻って来なさい。今日の「試合」は中々よ』





 趣味が悪い。


 そう評価するしかない、高圧電流の流れるフェンスに囲まれた檻の様な円形のリング。


 そこかしこが血で汚れたそれを更に囲む無数の客席は今日も満員御礼。

 皆興奮の余り総立ちなので、席は余り意味をなしていない。


 そんな異様な世界の中心で、ガツィアは一人の魔人と対峙していた。


 かなりの巨漢。ガツィアの倍の体躯はある。指二本で並の人間の腕ならシャー芯を折るようにペキッといけそうな程、その巨躯は筋骨隆々としている。


 その肉の鎧に身を包んだ巨漢の顎が、ガツィアに蹴られて跳ね上がる。


「ぐ…ぅ…」

「遅ぇわクソ肉ダルマ」


 巨漢が顎を下げる暇すら与えず、ガツィアの黒い尾が巨漢の首に巻き付く。その尻尾を軸に、巨漢の右頬へ膝蹴りを叩き込む。


 巨漢がよろめく。その巨体を背後に回って突っ蹴って、電流の流れるフェンスへブチ当てる。


「がぁあぁぁっぁあぁぁああああっっ!!!?」


 カエルか何かの様に巨漢の四肢がびくんびくんと跳ね、そして倒れる。


 湧き上がる歓声。それは、ガツィアを勝者として称える物。


「……くっだらねぇ」


 ポツリと吐き捨てる様につぶやき、ガツィアは勝者としてリングから去った。






 ✽





「いやぁ、あんたやっぱ最高!」


 クルノ=グレイホープ。見た目は子供、しかし爆誕から30年近くが経過している大富豪女。


 そんなクルノの所有する絢爛豪華な屋敷の地下には、とてもブラックで物騒な闘技場があったりする。


 肌触りが絶頂物なカーペットの敷かれた部屋で、クルノは高笑いしながらある男と食事を取っていた。


 ガツィアだ。現在、クルノと専属契約中の傭兵。


 住み込み可、ペット可、三食充実、高給確約、呼び出した時以外自由行動可。


 職務内用は大体『賭け馬』になる事。


 用意された相手と闘い、その勝敗に賭けて楽しむ者や単純に間近で殺伐とした肉弾戦が見たい変態共を喜ばせる事。


 時にはクルノに挑戦しようと己の『賭け馬』を連れてくる富豪もおり、その『賭け馬』とレギュレーションマッチなんてのもやったりする。


「見た?あの盛り上がり!入場料がっぽがっぽ!あんたに賭けといた金も増えて、あんたに1回分のファイトマネー払ってもあと8回は払えるだけの黒よ!」

「そぉかい」


 そいつぁ何よりだ、とクルノの話に全く興味を示す事無くガツィアは高級料理の山を胃に収めてゆく。


 その足元で子犬も皿に盛られた高級ジャーキーに無我夢中。


 しかしまぁ、ガツィアはいつにも増して不機嫌そうだ。


「いつも思うけど、もうちょっと楽しげに食事できないの?」

「とびきり美味ぇモン持ってきたら考えてやる」

「ま!これだけの高級料理を前にしてよく言うわ」


 自慢げに笑うクルノ。


 クルノは己の財力を誇示する事に快感を覚えるタイプの金持ちだ。この食卓も、ガツィアへの労いとかではなく一種のアピール。


「味は金じゃぁねぇんだよ、金持チビ」


 そう言いながらガツィアが噛み付いたのは高級な鶏を使ったグリルチキン。一本で5000Cは下らない金持ちの悪ふざけの様な一品。


 しかし、ガツィアはこれより美味い安作りなお手製グリルチキンの味を知っている。


 ガツィアの評価上、あの女の料理を引き合いに出せば、この卓にある物は全て平均点以下の烙印が押されてしまう。


 高ければ美味いなんて法則は存在しない。そんなの、ガキの頃から知っている。


 高級さに見合ったバカウマ料理だってこの世には存在するのだろうが、少なくともこの卓には無い。


「ま、いいわ。次の試合もこの調子でよろしくね」

「……おう」


 くだらねぇ、心の中でそう吐きつつ、ガツィアはうなづいた。


 どれだけくだらない事でも金のために、生きるためにやる。それが、傭兵である自分には相応しい生き方だ。






 ✽





「何ですか、この不格好なEAは」


 タルダルス王城。EA地下格納庫。


 そこに運びこまれた、一機のEA。


「アトゥロの発展機、の様にも見えるが……」


 そのEAを見て、ロイチとアムは二人そろって首をかしげていた。


 そのEAは、アトゥロに脚部を追加で四本足して六本足にし、ラグビーボールの様な楕円の機器を背負わせたデザインのEA。


「EA『アラーニェ』だ」

「グレイン総司令!」


 二人に声を投げかけたのは白髪の男。初老の入口に差し掛かっているとは思えない若々しくたくましい肉体を誇る、魔王軍総司令。


 グレイン=ガストマン。


 魔王軍総司令、つまり、魔王軍内の上位組織である騎士団すら、彼の指揮系統下にある。


 本来はもう一つの魔国、アビスクロックで執務にあたっている人物だ。


「何故タルダルスに…」


 アムの問いに対し、グレインはアラーニェと呼んだEAを指差した。


「『Gジャマー』の視察だ」

「Gジャマー……って、あの…」

「このアラーニェは、Gジャマー搭載機だ」

「もう完成したのですか!?」


 アムが驚愕の声を上げるのも無理は無い。


 何せ、あと半年で完成するかも知れないという見込みが出て、まだ二ヶ月しか経っていない。


「いやいや、当然試験機だ。と言っても、充分予定より早いがね。アラーニェの背に積まれた楕円の機器、あれが記念すべき試作Gジャマー1号機だよ」

「あれが……」


 もっと複雑そうな物を想像していたロイチだが、実物はかなりシンプルなデザインだ。


「試運転は明日の午後、デルミウスの森で行う」

「ああ、あそこは魔国内で魔石磁場が一番強いという話ですしね」


 Gジャマーのテストは魔石磁場を相殺出来るかで測定してゆく。少しずつズレを直し、完全な魔石磁場を複製するために。


「例の『ハイブリッド』も調整が順調らしいし、新機軸のEA…『10番目の特機』も理論が完成したらしい。そしてこの試作Gジャマー。本当、シャリウス博士はすごい」

「…………」

「どうした?アイアンローズ騎士長。浮かない顔だな」

「……私は、素直には喜べません」

「騎士長……」

「勝つために、兵装技術の進歩は必要でしょう」


 そこはわかっている、だが、やはり釈然としないのだ。


「君はそういう女性だったな。争いを嫌う、素晴らしい心。故に、君は前線に立つ」

「……はい」


 アムは戦いを望まない。


 1000年以上も前の事など、資料文献でしか知らない。だが、そこにあるのは平和という言葉すら不要な程、平和な世界。


 それを取り戻したいから、アムは弟と共に騎士になった。


「…そんな矛盾はさっさと終わらせよう。我々でな」


 そう言い残し、グレインは二人に背を向けて歩き出した。


(……争いが嫌いだから、平和のために戦う、か)


 その矛盾は、誰もが抱える物だろう。『まともな者』なら、誰もが。


 しかし、グレインは知っている。そのまともな考えは、危険なのだ。……本人が。


(まともな者は、戦場に立つべきでは無い)


 しかし、彼女の戦術的価値は大きい。もう、引き返らせる事は、出来ない。


「……祈るよ。欠尾種ロアーズが駆逐された時、君がまだ『まとも』である事を」






 ✽




 月の登る春の夜空が、紅く燃えている。


 巨大な施設が一つ、丸ごと燃え盛り、空すら染める程の炎が上がっているのだ。どれだけ消火剤をかけても、炎は消えない。ただの炎では無い。


「おいおい……」


 炎の中に立つ、一人の人間、だった者。


 施設の従業員達が奔走する中、男は悠々と炎の中を歩いていた。


 赤髪が目に付く、全裸の青年。


「『こんなん』が出るなんて、聞いてねぇぞ」


 アシド=リヴァルフレイム。


 人王軍の軍人だ。彼は、自分が作り出した光景を満足そうに見回す。


 今まで彼の首と両手首を拘束していたリング型の爆弾は、もう存在しない。


 ついさっき、爆裂した。アシドの放った『物』の暴走を止めるために。しかし、アシドは軽い裂傷を負っただけ。


 GM未使用なら、装甲車すら吹っ飛ばす『爆炎』を放つ爆弾だったのに。


(成程……これが白衣野郎が言ってた、『特性』って奴か)


 今のアシドに、『熱』は効かない。


「良いねぇ……!最ッッッ高だ!!」


 これが、獣人計画ビーストフェイズ


 人王軍が進める、『魔国への侵攻』を目的とした大きな計画のファーストフェイズ。


 アシドの口角が裂けそうな程に吊り上がる。


「人間でも無ぇ!魔人でも無ぇ!」


 夜空へ向け、高らかに叫ぶ。



「こいつが、『獣人ビースト』か」




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