部活見学
カコーン。
何故か室内に鹿威しがあった。和風の雰囲気を出すためだろうか。
『……』
五人揃って正座中。抹茶を作るらしい。
五人共和服で、四人は結構様になっていた。……俺はどうだか知らないが。
明音以外は結構似合っていた。明音は性格上、大人しい感じの服は合わないからな。
……こんなに静かじゃ、集中力めっちゃ使うんじゃね? 結構大変だな。
―二十分後―
『……ふぅ』
茶道部の見学が終わってから、五人揃って一息ついた。
「お疲れ。初心者にしてはかなり耐えた方ね。五人共見込みがあるわね」
茶道部の先輩が笑って言う。
「ありがとうございました」
秋原さんは丁寧にお辞儀をして言う。
「ふーん。入部に期待しとくわ、新入生」
明らかに秋原さんを見て言う。……秋原さんがここを見たいって言ったのがわかったらしい。さすが先輩だな。
「……はい」
秋原さんは少し嬉しそうに言った。
「茶道部はどうだった?」
次の場所に移動中、浅島さんが秋原さんに訊いていた。
「有力候補」
元々秋原さんが行きたいって言ってたしな。んで、気に入ったと。良かったじゃん。
「次はどこに行くんだっけ?」
「この階に他に見たい部活ってあるの?」
浅島さんが質問返しする。
「書道、華道ぐらい。けど、明日以降でいい」
最後の二日間は個人の自由で動いていいらしいし、秋原さんなりに時間を取らせたくないんだろうな。
「別に気にしなくていいのに」
浅島さんが微笑んで言う。……女子ってめっちゃ仲いいのな。
「ん。けど、いい」
秋原さんは頷いて、しかし首を振った。
「そう。じゃあ、適当に見て回ろっか」
浅島さんが提案して女子四人はさっさと進んで行く。
……俺は?
「他に文化系の部活に行くのは?」
「う~ん。私は吹奏楽がいいんだけど、ここじゃないから」
ふむ。俺は特に決めてないから何でもいいんだが。……会話に入れないから意味ないか。
「二人は運動部っぽいけど文化系で見たいとこある?」
浅島さんが陽菜と明音に言う。浅島さんって結構しっかりしてるよな。仕切ってるし。
「ふむ。一つ、行ってみたい部活があった」
陽菜が考え込むようにして言う。陽菜が行くとしたら和風のヤツだろうか? さっき茶道部は行ったし、華道とかその辺か?
「花嫁修業部だったり?」
明音がからかうように笑って言う。
「それ、……ではないな。まあ、後々行くとしよう」
ん? もしかしたら、図星だったり? 何か少し言葉に詰まった感じだし。まあ、そんな部があるんだったら見てみたいかもしれないしな。
「じゃあ、次はどこに行こう?」
明音は何かに気付いたように笑っていたが、やめて三人に訊く。
ん? 珍しいな、明音がからかわないなんて。ってか、俺には訊いてくれないのか。ちょっと傷つくぞ。
「私は、吹奏楽に行ってから運動部を見るのがいいと思うんだが」
陽菜が提案する。
「いいの?」
浅島さんが言う。……意外と陽菜って気遣いが出来るよな。顔の割に。
「いいから言っているんだが」
少し戸惑ったように言う。浅島さんみたいな大人しい感じの人は苦手だからなぁ。ごり押しが出来ないからだとか。……しなくていいんじゃないのか、ごり押し。
「弥生月くんもそれでいい?」
浅島さんが急に話しかけてきた。
「ん? 別にいいけど」
今まで蚊帳の外だったのでちょっとビックリした。
「じゃあ、第二小体育館に行こっか」
浅島さんは少し嬉しそうに笑って先頭を歩いて行った。
◇◇◇
『……』
これが第二小体育館?
「でかすぎだろ……」
思わず呟いてしまう。小体育館とか言う割に、ホール並の大きさだった。
「別名、吹奏楽部専用ホール」
浅島さんが言うが、別名じゃなくてそっちがホントの方なんじゃねえの?
ってか、吹奏楽部専用かよ。豪勢な部活だな。
「ホールってことは、ここでコンクールとかも出来るの?」
「うん。去年のコンクールは私も見に行ったけど、どこの高校も凄かったよ」
明音の質問に、嬉々として答える。見に行ったんだな。しかも、もうすでにコンクールはやったのか。
「冷房暖房完備で気温対策の設備も整ってるし、楽器も人数分あるから」
へー。めっちゃいいじゃん。
「ん? それだったら部費が高くならないか?」
思いきって訊いてみる。学費も私立にしちゃあ安いし。
「ううん。部費は他より少し高いくらいだって。一応第二小体育館は吹奏楽部専用ってなってるけど、一般公開もしてるし、学園の方で出てるんだって」
……詳しいな。やっぱ入りたいからよく調べたんだろうが、中学ん時から入りたかったみたいな感じだな。
「詳しいんだな。浅島さんはいつから吹奏楽やってんの?」
「中学からかな。上条中学って知ってる?」
『知ってる』/「知らない」
女子三人が知ってるようで、俺は知らなかった。
「知らないの? あの、代々全国で金賞取る超有名校よ?」
明音が半ば呆れて言う。
「マジか。浅島さんって上手いんだな。そういや、俺の元クラスメイトが、めっちゃ上手い中学が同じ地区予選にいる、ってぼやいてたな」
不幸な。
「そ、そんな大層なことじゃないけど……」
浅島さんはさすがに照れて俯いてしまった。
「謙遜することはないと思うけどな。ま、吹奏楽の見学しに行くか」
『うん/ああ』
四人が返事をしたのを確認して、俺は第二小体育館、別名吹奏楽部専用ホールに向かった。
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