部活見学開始
「んじゃ、何から行く?」
俺は同じグループになった四人に訊く。
俺と同じグループになったのは、秋原さん、浅島さん、陽菜、明音の四人だ。
「私は決まっているから後の方でいいぞ」
陽菜がいつものように不機嫌そうな顔をして言う。
「明音は?」
陽菜は多分剣道部だろう。
「私も二つに候補は絞ってあるから後でいいわよ」
明音はやや素っ気なく言う。
「そうか? 秋原さんは?」
明音はまあ、運動部だろうな。
「……文化がいい」
抑揚のない声で言う。……少し不機嫌な気がするのは気のせいだろうか?
「浅島さんは文化系だって言ってたし、まずは文化系の方から見ていくか」
俺は提案する。
「他の人がいいならそれでいいけど?」
浅島さんは控えめに言う。
「じゃあ文化系にするけど、まずはどこ行くんだ?」
俺は改めて四人を見渡して言う。
「茶道とかその辺がある、西校舎二階がいい」
秋原さんが小さく言う。何か、女子の雰囲気が気まずくないか? ……気のせいだといいんだが。
「それでいいか?」
再び四人に言う。
「別にいいが」
「同じく」
「……(コクン)」
「いいよ」
四者四様に言う。まあ、一人は頷いただけだが。
「んで、西校舎ってどこ?」
『えっ?』
俺が訊くと、四人がきょとんとした様子で聞き返してきた。
「ん?」
何か悪かったのか?
「……え~っと、西校舎の場所知らないの?」
浅島さんが戸惑ったように訊いてくる。
「ん? ああ。俺さ、この校舎から校門までしか頭に入れてないし」
最低限それを覚えておけば困らないって師匠さんに聞いたんだが。
「ああ、体育館とかも覚えてるな」
授業に使うだろうから覚えた。
「え~っと、ここの全体図って頭に入ってる?」
全体図?
「ああ。色々あったな」
建物が。あっ、アリーナとかも覚えたな。
「……まあ、部活見学のついでに教えろって話だしね。でも、校舎ぐらい覚えておけばいいでしょ?」
浅島さんだけでなく、明音までも言う。
「まったく。西校舎に向かいながら説明するか」
「……呆れた」
四人から集中砲火を受ける。そこまで言われるとさすがに傷つくぞ?
「仕方ないだろ。俺の入学が決まったのは五日前なんだし」
五日前に入学が決まるとかバカじゃん。覚えられるかっての。
「五日前? 急なんだ。けど何で?」
浅島さんが言う。
「さあ? けど、師匠さんとこで修行してたら、連絡取れなかったとか」
学園からの使者が言ってた。……まあ、森の奥深くにいたからな。そりゃわからんだろ。使者が来たのが俺達が森から出た後だし。
「恵さんの修行ってどんなの?」
明音が訊いてくる。
「……きつすぎて思い出したくないな」
ぐったりして言う。恐怖体験だな、あれは。
「そんなにきついの?」
浅島さんが訊いてくる。
「まあな。師匠さん、そういうとこには容赦ねえから」
苦笑して言う。あの人の性格上、容赦なんてあるわけないが。
「あー……。確かに、手加減なしに圧倒するね」
浅島さんが思い至ったように言う。まあ、あれでも手加減してるらしいが。
「……んんっ」
「っ!」
陽菜に咳払いされて、浅島さん以外を見る。
『……』
三人が半眼のジト目で俺を見ていた。
「え~っと……」
うまく次の言葉が出てこない。蚊帳の外だったのは事実だし、弁明出来ないんだが。
「すみませんでした」
一応謝っておく。俺が悪いと思うし。
「……はぁ。じゃあ、行くわよ」
明音がタメ息をついて言う。そして、四人が先行して西校舎へと向かって行った。
……浅島さんまでついていく。
……。
…………。
俺だけかよ。女子は仲がよろしいようで、責められることはないらしい。
「はぁ」
俺はタメ息をついて数歩後から四人について行った。
◇
「茶道とか華道を見るのか?」
「うん」
「へぇ。確か、体験も出来るのよね?」
「そうなの? 私もやってみようかな」
「……」
俺はやっと四人に追い付いたのだが、女子のおしゃべりタイムが始まっていた。
……入れねえ。
「和服着れるんだよね?」
「うん。着てみたい」
「だな」
「そうよね。和服着れるってのは憧れっぽいとこがあるわよね」
「うん。和服着たい」
「梨華は和服に憧れてるんだ?」
「……うん」
秋原さんは照れたように言う。楽しそうで何よりっすね。
その後もキャッキャキャッキャとおしゃべりして、西校舎二階に辿り着いた。
◇
「ここ」
秋原さんが言葉少なく言う。
「茶道?」
「……うん」
どうやら、茶道部の活動場所らしい。
「体験は三十分ぐらいだけど、いい?
秋原さんが三人に確認をとる。
「ああ。私もやるからな」
「同じく、やるわよ」
「私もやってみようかな」
どうやら、今度は俺が蚊帳の外らしい。男子だが、どこにでも入れるらしいが、まあ、四人のを見学するか。
「……」
仕方なく、四人の後について茶道部を見学することになった。
「あっ。部活見学第二号入りました~」
受付みたいな位置にいるらしい先輩が俺達を見て言う。結構早く来たつもりなんだが、第一号ではないらしい。
「見学? 体験? どっち?」
先輩が早速訊いてくる。
「体験」
「ホント? ありがと~。え~っと、一人?」
先輩は嬉しそうに言って、さらに質問する。
「ううん。五人」
秋原さんは小さく首を振って言った。
ーーって、五人? あと一人は誰がーー。
「俺もか?」
俺以外いないしな。
「暇そうだから」
おぉ。何気に気が利く秋原さん。
「えっ? 噂の男子生徒までいるじゃん。こりゃ、やる気出していかないとね」
先輩が笑って言う。
そして、部活見学一個目が始まったわけだ。
どうでしたか?
次の話も読んでもらえるといいです。