最終決戦
※今日で完結となります
本日一話目
「……一人で来いっつったろ」
ダイアモンドの小島の上で仁王立ちしていた凱亜が、つまらなさそうに舌打ちしながら言った。
「……そっちだってツバキさんがいるだろ」
俺は師匠に背負われて飛んでもらい、ここまで来た。それは凱亜の後ろで腕を組んでいる師匠の前の世界最強、ツバキさんの介入、二対一を防ぐのが理由の一つでもある。
「……それに、飛ぶのだって少しは消耗する。いや、この距離だったら結構な消耗になる。それじゃあお前と全力で戦えないだろ?」
「……チッ。まあてめえの言うことにも一理ある。しゃーねえか」
凱亜は言って、準備運動なのか手足をプラプラさせる。俺は師匠に小島へ降ろしてもらった。
「……俺だって、いくら何でも百十五個の元素と四大元素と多分その上の上位元素も使えるんだろ? 使えなくてもそれだけの姫神を使えるお前相手に、無駄な消費は避けたいからな」
「……はっ。よく分かってんじゃねえか」
俺の告げた推測に、凱亜は笑って肯定した。……まあ、それは師匠の大剣がそういう本来ないハズの力を使えるからって師匠の資料に書いてあっただけなんだが。
ちなみに火と風で雷、風と水で氷、水と土で木、土と火でマグマだそうだ。……何の法則があってそうなるかは全く分からないが。
「……俺も、本気でやらないと勝てないからな」
俺はスッと目を細めて告げる。
「……はっ。てめえは俺には勝てねえよ。ただ一応言っとくが、てめえの次は雨釣木恵だ。一番近くにいるからな。で、その次は島にいるヤツらだ。殺されたくなきゃ、精々頑張ることだな」
凱亜はニタリと嗤う。……まさか関係ねえ皆まで殺す気があるとはな。皆が凱亜一人に負けるとは思わないし師匠もそう簡単にはやられないとは思うが、向こうにはツバキさんもいる。今は何やら難しい顔で動かないが、師匠が一度勝ったとはいえ世界最強。二人がかりなら師匠も、そして皆も危ないだろう。
そうはさせねえ。
「……悪いが、それは無理だな。お前が俺に勝つことはねえよ、凱亜」
怒気によっていつになく乱暴な口調になってしまう。
「……はっ。いい顔になってきたじゃねえかよ、大河ぁ!」
凱亜は心底嬉しそうに笑う。……このニタニタ笑いは、まだ本気になってない証拠だと思えばいい。この前一瞬だが見せた苛立ちの表情。あれこそが凱亜の本心だろう。俺も怒りが引き出されたことだし、俺も凱亜の本性を引き出してやるか。
「……師匠、下がっててくれ。全力でやって巻き込まない自信はない」
俺は本気中の本気で戦うために、師匠を下がらせる。
「……ツバキ。てめえも下がってろ。巻き添えで死にたくなかったらな」
凱亜もツバキさんに言い、下がらせる。
「……いくぜ、『アルティメイト』と一部の姫神だけが使える最強の力ぁ! ――全姫神開放!!」
シンプルだが、まさにその通り。『アルティメイト』が持つ全ての姫神や、アリシアの“パラディン”などが複数の姫神を使える者だけが使える、全姫神開放。それを発動した者は姫神の全てを瞬時に発動出来るようになり、全身を光が覆う。光は個々によって違うと言われ、凱亜の光がドス黒い。
「……全姫神開放」
俺も静かに、しかし確かな闘志を燃やして呟き、開放する。俺は白だ。全身から真っ白な光が放たれている。
「……黒と白かよ。相対するには丁度いいじゃねえかぁ! ダイアモンドの剣ぃ!」
凱亜は言って少し斜め上に飛行しつつダイアモンドで出来た剣を構えて猛スピードで突っ込んでくる。
「……オリハルコンの剣」
この前と同じように、俺は伝説の最高鉱物で迎え討つ。
「……いくぜぇ、大河ぁ!!」
「……来いよ、凱亜!!」
俺と凱亜は互いに力を開放しながら、全力で戦った。驚異的なのは伝説上全ての力を使える俺じゃなく、凱亜の方だった。俺が幻獣や神獣、聖獣などと呼ばれる全ての伝説の怪物達の力を膂力として戦っているのに対し、凱亜は元素の力だけで拮抗して見せた。何故かは分からないが実力は拮抗し、俺と凱亜の戦いは三日三晩続いた。
本来姫神使いなら、消耗が激しいため一日中でさえ戦えない。世界最強の師匠でも、ツバキさんでも、それは例外なく。長くても一日が限界だ。
『アルティメイト』の全ての姫神を開放し、百を優に超える数の姫神を展開しているにも関わらず三日三晩戦いが続いたのは、俺と凱亜だったからだろう。
姫神が個々で違うのは個性だとしても、何故消耗の違う姫神が存在するのか。何故個性に上も下もあるのか。それについて、以下のような推論がある。
姫神を一定時間、発動出来る力の差。
それが原因だとされており、決して上で消耗が多いから短い姫神の展開時間ではないという点からも、有力視されている。
つまり姫神を発動出来る力の量が関係しているのだろう、ということだ。
姫神の発動には体力を消耗する。鍛えれば発動時間も伸びるし、姫神を強化や進化させることが可能だ。
ただ、例えば陽菜が“侍”を一日中展開出来たとして、陽菜が“侍”と言う枠から外れない程度でしか進化、強化が行えない理由は分かっていない。
一方で、姫神には個性によって何が適切かを判断する力があるという説もあり、確証はない。
ただ、『アルティメイト』を発動するのには相当な体力が必要であり、肉体的な面において女性より男性の方が体力があるというのは、女尊男卑の今の世の中でも変わっていない。
男である俺と凱亜だからこそ、『アルティメイト』の姫神であり、三日三晩という傍から見れば異常な程の時間、戦い続けられるのだろう。
それともう一つ、姫神は意志によって強さを発揮する。
強化合宿の期間中で、仮にも陽菜と明音と美咲などが国家を代表するアリシアに一度でも勝てるようになったのは、作戦メンバーでの自分の弱さを認識し、そして弱さを乗り越えて強くなりたいと強く願ったからだ。願い、そして努力を重ねた。それが姫神の強さとして現れたのだろう。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
凱亜と俺は互いに互いを傷付け、瀕死の状態になりながら、おそらく最後となる一撃を放ち、交差した。
全身を蝕む激痛に耐え、まだ戦える、と言い聞かせて身体を奮い立たせ、後ろにいるハズの凱亜を振り返る。……だがそこには、俺をギラついた目で睨み付けてくる凱亜はいなかった。
跡形もなく粉砕されたダイアモンドの島の上で倒れる、凱亜がいた。全姫神開放の光も消え、力尽きていると分かる。
「……勝った……のか?」
俺は呆然と呟く。三日三晩徹夜で戦っていたせいか、実感が湧かない。もしかしたら今にも起き上がった「……演技だったんだよ、残念だったなぁ!」と言いながら襲いかかってきそうに感じる。
「……あーあ、負けちゃったな。弟子同士の戦いも」
よいしょ、と意識を失ったらしい凱亜を肩に担ぐツバキさん。
「……じゃあ次は師匠同士でリベンジマッチか?」
師匠が警戒しながら尋ねる。
「……それもいいかもしんねえけど、オレは強化とかなしで強いヤツと戦って、負けたかったんだよ。やっとオレに勝ったヤツが現れたと思ったら強化と進化しまくりでよ。こりゃ一生現れねえな、と思ってたから、なら自分で育てりゃいいじゃねえか、と思って凱亜を育ててたんだが。今度からは心のケアもやんなきゃダメだな。凱亜のファンクラブでも作りゃよかったのかもな」
少し茶化すように、しかし自嘲気味に笑う。……俺は戦っている間、俺が負ければ師匠や皆が凱亜に殺されると聞いて、皆を守りたくて戦った。だからこそ三日三晩戦えたんだと思う。凱亜は何故そこまで戦えたのか。俺だけは絶対に倒さないといけない、みたいなことを意識が朦朧とし始めてからずっと叫んでいたが、それと何か関係があるかもしれない。
「……凱亜は大河より先に姫神に目覚めた。もちろんネオスの改造は後だったけどな。でも男姫神使いとして世間に知られる前に、大河が出てきた。それも『アルティメイト』の“レジェンド”っつう立派なもんを引っ提げてな。そりゃ世界中から歓迎される。凱亜は逆に見捨てられて、早々に大河に乗り換えられた。まあ逆恨みっちゃ逆恨みだが、大河のせいで俺がネオスに改造を受ける羽目になったとか思っちまったんだろうな。だから、心のケアが必要だった訳だ。オレも師匠としてはまだまだだな」
ツバキさんが少し悲しそうに微笑みながら言った。……俺を恨んで、あそこまで戦えるのか。俺ってどれだけ恨まれてたのか。まあ確かに俺も、もし凱亜の立場だったら殺したい程恨んでいたかもしれない。
だって、もしかしたら自分がそこの、チヤホヤされる場所にいたかもしれないんだからな。それなのに自分は何かよく分からない組織で改造受けて。そりゃ恨みもするか。
「……まあこいつの自業自得だが、ここは退かせてもらう。もう二度と会うことはねえだろうが、じゃあな。また会うことはねえだろうが、オレは凱亜と二人でどっか人里離れた山奥とかでひっそり暮らすからよ」
ツバキさんはそう言って、最初からほとんど仇敵であるハズの師匠にも目をくれず、去っていった。……もしかしたら、凱亜が心配で来ていたのかもしれないと、俺の知らない雰囲気のツバキさんの背中を見てそう思った。
「……大河ぁ」
「……うおっ」
呼ばれて振り返ると、涙やら何やらで顔をグシャグシャにした、見たこともない表情の師匠がいた。……正直に驚いた。
「……全姫神開放なんて、無茶して。大河のバカぁ」
グスグスと泣きじゃくる師匠。……何この師匠。可愛い。不覚にもそう思ってしまった。これがギャップ萌えというヤツだろうか。恐ろしい……。
「……よしよし。大丈夫だから」
俺は言って師匠の頭を撫でて――全姫神開放が強制解除された。
「……あっ」
俺は何かを思う暇もなく、師匠に倒れ込むようにして、意識を失った。




