いざ決戦へ
三日後。午前九時。
予定より早く出て、十分前に着くというのは待ち合わせでも常識だ。それでも二十分程の余裕を見て旅館を後にしたのは、誰かに見つからない内に出たいという理由があって、心配してくれている皆に気付かれないように戦って、気付いた時にはもう勝って戻ってきている、ということで終わらせたかった。
別に格好をつけたい訳じゃなかった。一人で来いって言われてるんだから一人で行くことには反対しない。だが皆に見つかると一緒に行くとか余計な心配をかけてしまいそうなので、黙って行くのが一番いいと思ってのことだ。
今日は丁度食料が切れたらしく、全員が出払っている。そのため、絶好のチャンス到来、という訳だ。この隙を見逃さない訳にはいかない。
「「「……」」」
だが真正面から出たのが間違っていたんだろう。全員が横並びに整列した待ち伏せしていた。……バレバレじゃん。
「……」
ドアを開けたところで全員が整列しているというヤバい状況に、俺は思わずドアを閉めてしまう。……確かこの旅館には裏口があったよな。
「……逃げたわ! 各自戦闘準備! それに加えて包囲!」
音緒さんの勇ましい声が聞こえてくる。……えー。
「……これは、観念して出てくしかないな」
俺はため息をついた。裏口から逃げるのは諦めて、仕方なく堂々と前から出ていく。……するとやっぱり全員が横に整列した状態だった。さっきの声は音緒さんの演技だったんだろうか。いや、実際に俺が逃げるつもりなら包囲してたかもしれない。
「……何の用ですか?」
ドアを開けて旅館を出てから、俺は全員を見渡して尋ねた。作戦に参加した十六人にシリリスさんというこの旅館の女将でトップレベルの姫神使いを加えた十七人だ。
「……何って、あんたこそどこ行くなの?」
ジロリ、と明音から睨まれる。……そう言われると返す言葉もないというか……。
「……別に、トイレだ」
「「「……」」」
苦しい言い訳をしてみると、全員から呆れた視線を貰ってしまった。……まあ確かにトイレを野外でするなんて変態ぐらいしかいないし、俺はノーマルなので旅館で済ませてるんだが。
「……わ、分かったよ。白状するよ。これから凱亜んとこ行って戦う気だったんだよ」
「……やっぱりか。どうせ大河のことだから黙って一人で行くとは思っていたが」
俺が正直に白状するとこの中では一番付き合いの長い陽菜が嘆息混じりに言った。
「……一応言っておくけど、止める気はないからね?」
「……えっ?」
立ち塞がれてるから、それも考えられると思ってはいたんだが。美咲が言うには、違うようだ。
「……ん。大河のことだから止めても無駄」
「……大河様ならきっと勝てると思いますからね!」
梨華とアリシアが言ってくる。……アリシアよ。その気持ちは嬉しいがファンの方が表に出てるぞ。いいのか?
「……まあ各自色々言いたいことはあるけど、それは大河君が引き籠もってる間に話し合って言わないことにしたから」
音緒さんが代表して告げる。……引き籠もらせたのはあなた達ですけどね? 俺は姫神の理解を深めるという名目でネット検索して知識増やそうと思ってたのに。まあ一応それも済ませてはあるんだが、きちんと覚えておきたかった。
「……という訳で、大河は止めないし一緒に行くとも言わない。だが向こうがいる場所に行くんなら大河が飛ぶことでそれだけの消耗がある。それに、向こうにはツバキさんがいるんだぞ。もし騙して二対一で戦われたら厄介だ。という訳で、私が同行することにした。それでいいな?」
師匠からの有無を言わせぬ視線。……確かに凱亜の下にはツバキさんもいる。警戒するに越したことはないだろう。
「……分かった」
俺は素直に頷く。いくら俺が最大の切り札を使ったところであの二人を同時に相手をして勝てる自信はないからな。
「……じゃあ最後に一言だけ」
音緒さんが言って、全員が姿勢を正す。
「「「……いってらっしゃい」」」
声を揃えて、そう言った。……中には涙を浮かべてる者もいた。
「いってくる」ってことは「帰ってくる」ってことでもある訳で。行って帰ってこないのは卑怯というモノだろう。戦争は帰ってこれない可能性が高いから兎も角。
「……ああ。行ってきます」
「……ちゃんと、帰ってきなさい。大河君」
「……ああ」
俺が頷いて返すと、音緒さんが薄っすらと涙を浮かべて言った。俺がそれに応えると、何故か音緒さんにジト目が集中する。
「……それは台本にない」
ボソッと書記の真央先輩が呟くと、途端に音緒さんが慌て始める。
「……そ、それはその、感極まってつい出ちゃったんだから仕方ないでしょ」
「……言いたいことは言わないって約束だったのに」
「……自分だけ狡いですね」
頬を染めて言い訳する音緒さんに、全員から小言が集中砲火させられる。……ってか台本なんてあったのか。道理で息の合った見送りだと思ったら。
「……とりあえず、もう行くから。じゃあ、皆」
「「「……」」」
事態が収束に向かわなさそうだったので、俺からそう告げる。
「……とりあえずまた戻ってくるとして、じゃあな」
俺は言って、姫神を展開する師匠に背負われる。……この体勢で向かうのか。まあ抱かれる方じゃなくてよかったともいえるが。
「……絶対戻ってこい!」
飛び立つ師匠と俺に、陽菜が叫んだ。それを皮切りに口々に全員が色々声援なのか罵倒なのかよくわからないことを叫んでくる。
「……ああ、必ずな」
とりあえずいつも通りのまま見送ってくれた皆に手を振って、旅館の傍から遠ざかっていく。
「……師匠」
「……何だ?」
皆の声が聞こえなくなってから、師匠に声をかける。
「……勝てるかな?」
「……勝てるだろう。何たってお前はこの世界最強の私の弟子なんだからな」
「……そっか」
俺の姫神が何だとか、そういうことじゃなくて励ましてくれる頼もしい師匠の背中に身体を預けて、最終決戦へと向かう。
……悪いが、凱亜。お前に負ける訳にはいかない。
だって俺には、帰りを待ってくれる人達がいるんだからな。
あと二話で完結の予定です




