相部屋はこの人こんな人
読んでくれたらと思います。
よろしくお願いいたします~
「おっ?」
決勝戦の真っ最中だが、俺はのんびりと観戦していた。俺のさっきまでいいなぁと思っていた人が押されていた。
「まあ、姫神各々の強さもあるしな」
しゃーないか。
ウォーミングアップもせずにのんびりとしているのには全く理由がないのだが、まあ大丈夫だろう。
「……」
姫神の有り難いとこは相手に怪我をさせないで勝てるってとこだな。それなら、女子相手にも手加減せずに全力を出せる。
「陽菜は例外だが」
手加減したらめっちゃ怒られるし。
「う~ん。誰だって怒るよな?」
手加減してるってわかったら。姫神なら身体的ハンデがなくなって、練習度、熟練度で勝敗が決まるわけだしな。
「師匠さん相手なら十秒ももたないけどな」
あの人に手加減はされるが。……本気出されたら俺は姫神ごとこの世から消えてるだろうな。
「女尊男卑の世の中ね」
変わった世もあるもんだ。
「……試合が動いたな。もう少しか」
俺は試合を見て言う。
「ったく。面倒なことだ」
何で俺に姫神が宿ったんだか。
◇
「優勝者は、秋原梨華!」
秋原さんが俺の相手か。
「……」
秋原さんは無表情だ。
秋原梨華。黒い長髪の美少女で、左目を前髪で隠している。無表情の鉄面皮が常。姫神でも最強種の一つである『ゴット』。その名の通り神の力を扱える。“セレネー”というギリシャ神話の月の女神だそうだ。マイナーな感じだが、神だけにかなり強い。
「相部屋になるんだよな。よろしく」
俺は気にせずに言う。
「……」
秋原さんは相変わらずの無表情だが。
ちなみに明音は三回戦で負けた。
「それじゃ、このクラスの女子優勝者と、全世界最強の男子の試合を始めるよ~」
先生が気楽に言う。
……いや、俺しか使えないじゃん、姫神。確かに男子では最下位で一位なんだが。
間違っちゃいないが合ってもないぞ。
「……よろしく」
不意に秋原さんが言った。無視かと思ったが、普通に話してくれるらしい。
「始め」
ウグイス嬢らしき女子が言う。
「っ!」
いきなり秋原さんが突っ込んでくる。まだ姫神を使ってない。
「っと」
驚きながらもギリギリのところでかわす。
「……」
かわされたのに表情一つ変えずに、俺の攻撃を回避するためか一旦距離をとる。
「へぇ。やるな」
俺は少し冷や汗を浮かべて言う。女子であんなに動けるとはな。結構驚いた。
「……姫神見せて」
言葉は少ないが、はっきりと言う。
「いいが、秋原さんから見せてくれよ」
俺は少し笑って言う。
「いい」
こくん、と小さく頷いて、直立の姿勢をとる。
銀色の風が秋原さんの身を包み、変わる。
髪が銀色に変わり、三日月型の髪飾りで左目が顕になっていた。鮮やかな真紅を写す瞳だ。手からは武器らしき銀色の細剣を下げている。服は黒くドレスのようで、背後の月の装飾はより綺麗に見えた。その姿は女神であり、姫であり、女王であった。
「へぇ」
雨釣木恵師匠の姫神を見た俺でも圧巻される。
「ゴット、か」
俺は小さく呟く。神の名を冠する力、か。
「姫神、見せて」
再度、催促する。
「オッケ。見せてもらったしな」
見せてやるよ。
ゴットを越える力が顕現する。
白をそのまま纏ったような装束に、純白の翼が背中に生える。少し無骨なようなガントレットは白い輝きを放っている。
「ペガサス」
宣言するように言う。これはペガサスの伝説だ。
「……」
秋原さんは無表情に見つめる。……ん? 何かボーッとしてるような?
「っ!」
秋原さんは我に返って俺を睨む。俺、何かしたか?
「月斬」
細剣を振るう。
「よっと」
軽く言って右のガントレットで受ける。
「天翔」
右腕をそこから振るう。
風が刃となって秋原さんを襲う。
「月界」
結界のようなものだろうか。『げっかい』と名付けられたそれは、俺の放った風を防いだ。そして、日の反射で光り、おそらくは長い間張ってあるんだろう。
「なるほど。かなりの実力だな」
俺はすっかり感心して言う。
「……ありがと」
若干照れているようだ。
「けど、まだ本気じゃないだろ?」
ニヤリ、と笑って言う。
「……」
驚いている。……気がする。表情は読めないが。
「重ねて――ユニコーン」
俺はさらに姫神を使う。
「っ!?」
俺の右手に身長大もあるランスが出現する。それと同時、左手に純白の長剣が出現する。
さらに、装飾が少し豪華に、格好よくなる。
「ペガサスとユニコーン。相性がいいんで重ねて使えるんだよな」
馬の神獣だしな、両方共。
「……降臨」
確か、神の力を限界まで取り入れる、だっけな。
これで全力でいけるか。
「神月」
三日月型の斬撃が幾つも放たれる。
「獣紋」
ガントレットの手の甲にあった紋章を俺の目の前に展開する。
それで斬撃を防ぐ。
「はっ!」
秋原さんが突っ込んでくる。
「いい判断だな」
笑って言い、長剣で受ける。
師匠さんなら、手加減あり容赦なしに一刀両断するだろうが、俺は出来るだけ相手が実力を出せるようにする。
「弐」
秋原さんが呟く。すると、右手に新たな細剣が出現する。
「っと」
ランスで右の攻撃を受ける。
「月閃光」
両手の攻防が展開されている中、近距離で背にある月の装飾から閃光が放たれる。
「ったく!」
かなり近距離でやり合っていたので回避が間に合わずに食らう。
「翼天翔!」
食らって吹っ飛ぶ時に長剣で大規模な斬撃を放つ。
「っ!」
秋原さんもこの反撃は予想してなかったのか、直撃した。
「おっ? もう半分も減ってんじゃん」
さすが神だな。結構効いた。
「……」
苦々しい顔をして俺を見る。
そういえば、エネルギーポイント、EPという体力は、本人にしかわからないんだった。ということは、もっとダメージを与えられるはずだったのに……みたいな感じか。
「まあ、姫神の力が拮抗してるからな」
やや慰めるように言う。
「別にそういう意味じゃない」
そうなのか。
「まあ、もうちょいいけるだろ」
半分なら、次食らったら負けるってことだが。
「……」
スッと両腕を下げる秋原さん。
「?」
何をする気だ?
「天月の舞」
世界が夜になる。
『っ!?』
まだ午前中だというのに、真っ暗で満月が出ていた。
「……おいおい」
俺は嘆息して言う。さすが神だが、やり過ぎじゃん。
「満月なら力が上がる」
狼男かよ。
「まあ勝負はこれからだよな」
俺は宣言するように言う。
「……」
こくん、と同意するように頷く秋原さん。
「じゃあ、ランスは要らないな」
俺は言ってランスを消す。長剣だけの方がいいからな。
「第二ラウンド、開始だ」
笑って言い、いきなり突っ込む。
「三日月神斬」
三日月型の斬撃が幾つも、雨のように降り注ぐ。
「奥義・天月神斬撃」
さらに奥義が放たれる。四方八方十六方から闇色の斬撃が幾つもくる。
「っ!」
直撃したらただじゃすまない。俺は上からくる斬撃を長剣で相殺して上空に飛ぶ。
――が。
「追尾機能付きかよ!」
思わず突っ込んでしまう。
「奥義・神雷斬天翔衣!」
この姫神での奥義の一つを放つ。
白い斬撃と白い雷が天を駆ける。そのど真ん中を、それらを纏うように俺が突っ込んでいく。
二つの力の激突は、第三アリーナ全体を揺るがし、砂煙で勝負の行方をわからなくした。
◇
砂煙が晴れる頃。
「……ったく」
俺はまだ立っていた。姫神で纏った物は半分吹き飛んでいた。
「……」
しかし、それは相手も同じ。
「やるじゃん」
出来るだけ気楽に言う。
「そっちこそ」
戦いを通じて大分打ち解けたっぽいな。
「じゃあ、終わらせるか」
秋原さんも同意するように頷く。
「「はっ!」」
二人同時に斬る。
「「……」」
交差は一瞬。手応えがあった方が勝つ。
「ってえ」
俺は呻いて膝を着く。腹に切り傷が一つ。姫神の結界を破ってダメージを受けていた。
「……」
が、秋原さんは姫神の結界を破られていないのに、倒れて俺の勝利が決まった。
「しょーりーっと」
少し笑って言う。
『わあ――――――――!!!!』
大歓声がアリーナに響く。
俺が強さは関係ないって言ったのは、伝説に神は出てくるし、鳥も出てきたりするからだ。
要するに、相手と同じ姫神を使うことも出来るからだ。今回は関係なかったが。
「大丈夫か?」
俺は秋原さんに駆け寄って訊く。
「大丈夫……」
大丈夫そうでない顔で言う。
「大丈夫じゃねえだろ」
俺は呆れて言って秋原さんを抱える。
「えっ……?」
驚いたような声を上げる。
「ったく。医務室まで運んでやるからあんまり動くなよ」
「……うん」
小さく頷く秋原さん。
よし。んじゃ、これで師匠さんに怒られなくて済む。
◇
「ん~」
俺は大きく伸びをする。
あの大会から一日。俺はのんびりと朝を迎えた。
「おはよ」
秋原さんが挨拶する。
「ん。おはよ」
俺も挨拶を返す。
結局秋原さんと同じ部屋になってしまったのだが。
「しかしな、師匠さんの話を聞きたがるとは……」
秋原さんは師匠さんに憧れているらしく、夜にめっちゃ話を聞きたいと言ってきた。
もしかしなくてもそれが俺の相部屋になるために頑張った理由か。
「雨釣木恵様は神」
そこまでかよ。まあ、神的な強さではあるが。姫神はそんな大層なもんじゃなくて、もっと身近なもんなんだが。
「恵様の姫神は?」
昨日から繰り返されている質問。師匠さんに口止めされてるから誤魔化しているんだが。
「だから、師匠さんに口止めされてるんだよ
ややめんどくなってに言う。
「テレビでしか見たことないけど、何の姫神か全然わからないから」
師匠さんのことになると饒舌になるらしい。
……まあ、あの姿は元の姫神からかけ離れてるしな。わからないのも無理はない。
「そんな凄い姫神じゃないさ。ま、師匠さんに直接訊けばいいだろ」
俺は肩を竦めて言った。
「……」
恨みの籠った眼で睨んでくる。
「……はぁ」
秋原さんに聞こえないようにため息をつく。
その件に関しては俺は関与してねえってのに。いい迷惑だ。
「あの師匠め……」
弟子になった俺のことも考えてくれよ。どんだけあんたのこと訊かれたと思ってんだよ。
「とんだ傍迷惑な師匠だな」
俺は苦労人かもしれないな。
「さて。今日も学生らしく学業に励むとしますか」
とりあえず遅刻だけはしないようにしないと。師匠さんに怒られる。
「……ん? 師匠さんのメアド持ってるから直で呼べば……?」
そうすれば俺がこんなに苦労することはない。
「っ! ¥%&◎!?」
……ちゃんと俺のわかる言葉で喋ってくれ。
「恵様のメアドを持って――!」
詰め寄ってくる。
「とりあえず落ち着け。師匠さんはめったなことがないと連絡取んなって言ってたんだよ」
「恵様が……なら仕方ない」
諦めたように言う秋原さん。
「んじゃ、教室に行くか」
「……」
こくん、と頷く秋原さん。
……これからが大変そうだ。
次回もよろしくお願いいたします~