決戦前
※本日三話目
「……女将……?」
俺は薄れた意識の中でその人物を呼ぶ。
確かに、特徴的な赤い髪にこの声は、俺達が強化合宿で泊まっていた旅館の女将だ。姫神のエンジニアではあったんだが、女性だから姫神の力を持っていても何ら不思議はない。だが何でここにいるのかは分からなかった。
「はい。あなたの女将、シリリス・ティルトゥーナですよ」
女将は茶目っ毛たっぷりに言ってくるが、俺はその名前に聞き覚えがあった。
「……し、シリリスってあの……?」
“殺戮の貴婦人”と名高い凄腕の姫神使いの名前だった。
「はい。大河さんに知っていただけているなんて光栄です。証拠はこれですよ」
女将――シリリスさんは俺に見えるように、サーフボード程の大きさがある真紅のビット十三個を見せてくる。……ああ、ホントだ。
俺は納得した。ビットを使う姫神は少ないが、その中でも異質。自由自在に動き回すことの出来るビットだが、それを頭の中でイメージとして操作する。そのため数にも限界があるハズなんだが、このシリリスという“殺戮の貴婦人”は十三個のビットを自由自在に操りながら自分自身も戦うという強さを持っている。
強すぎて現れた当初は誰か操ってる別の人がいるなどと不名誉な噂も流れた程だ。
「……まさか作戦の切り札である私まで出てくることになるとは思いませんでしたが、ここは私に任せてもらいましょう」
シリリスさんは言って俺をビットの一つに乗せて艦船まで運ぶ。隣を師匠が寝かされたビットが並走する。
艦船にソッと寝かされた俺と師匠と疲れたのか戻ってきたセスティア先輩に駆け寄ってくる皆。
俺と師匠を運んだビットが戻っていき、一つのビットを足場にして立つシリリスさんは背中の方に扇状にビット二十九個を待機させる。
「……嘘だろ」
半笑いで呟いたのはツバキさんだった。俺も同意したい。……だって十三個でさえ凄いってのに、三十個もビットを待機させてるなんてあり得ない。
「嘘ではありませんよ。私が一線から退いて三年も経ちますからね。さあ、お二方。覚悟はいいですか?」
にっこりと微笑むシリリスさんはとても怖く、足場にするビットを絶え間なく動かして全ての攻撃を回避しながら残りの二十九個のビットを使って二人を翻弄しダメージを与えていく様は、とても凄かった。……何故か格好は着物のままだったが、それを差し引いても余りある程に強い。
旧世界最強ともう一人の男姫神使いの二人を相手に圧倒し、撃退に成功した。
……残念ながら勝利ではなく、撃退。一時的に二人を退けたに過ぎなかった。
「……てめえとは決着をつけてやる! 一人で指定する場所と時間に来い! そこでぶっ殺す!」
とは去り際に凱亜が放った言葉だ。……指定しないで去っていったが、どうやって伝えるつもりなのかは知らない。
それでもネオスはほぼ壊滅。ほとんどを捕えた状態で、世界中の作戦が成功していた。
後は、ツバキさんと凱亜だけ。
俺達はその日旅館に泊まった。
俺は疲労ですぐ眠ってしまい、起きたら全員漏れなく俺の布団にいて息苦しかったが、心配してくれたんだろうと思うと嬉しかった。その後風呂に入ったらシリリスさんが乱入してきたヤバかったが、束の間の日常を楽しんでいた。
「……」
俺の下に届いたダイアモンドでのメッセージ。日時は三日後、午前十時。場所は日本海に浮かぶダイアモンドで出来た島。俺がそれに気付いて手に取ろうとすると、粉々に砕け散ってしまった。……俺だけに見せたって訳か。
俺は布団で寝転がって、目を閉じる。
色々なことが思い浮かんできた。……ほとんどが嬉し恥ずかしのハプニングだった気もするが、気にしないでおいた。
凱亜は俺を殺す気だ。だが理由が分からない。それが分かったからといって説得出来るとは思えないが。
……元素について勉強しないといけないな。
理科とかはあんまり得意じゃないんだが、この戦いに勝つためだ。と思ったらドアをノックする音がして、誰かと思い出迎える。すると陽菜が立っていて、何やらプリントの束を突き出すように渡してきた。……元素についてまとめたプリントだった。
「……ありがとな、陽菜」
俺は思わず微笑んで、陽菜の頭を撫でてしまった。陽菜が嫌そうな顔をしないでくれてよかったが。
陽菜も頑張ってくれたみたいだし、俺も頑張って勉強しないとな。
と思っていると、またノックが聞こえて出迎える。……明音がいて、同じようなプリントの束を手渡された。「あんたのために作ったんだからありがたく思いなさいよね」と言っていたのは非常に明音らしかったが。
と感心していたら次々と部屋を訪れる人が……。
陽菜、明音ときて、美咲、梨華、アリシア、師匠、二年生の先輩方一人一人、生徒会役員一人一人、シリリスさんまで元素に関するプリントの束を渡してきたのだ。……俺を知恵熱で殺す気だろうか。
でも個人的に予測出来る使い方、という欄は手書きでプリントしてきた訳じゃなく、個々人で考えてきたモノらしい。非常にありがたい話だった。
俺は最終決戦に向けて、身体ではなく頭を鍛え始めた。




