美しく咲く
※本日二話目
大河達が外で飛び出してくる暗黒狂戦士や『ゴッド』のレプリカを宿す者達と戦いを繰り広げている間、潜入組は二人一組になって艦内を探索していた。
出来るだけ外に誘き寄せる必要があるため、艦船への攻撃は必要だ。潜入してから途轍もない衝撃が襲い船体が大きく揺れるが、作戦を遂行しなければならない。
目的は、制御室の制圧。
対姫神用兵器が機械でのコントロール補佐をしているため、制御室は内部構造が分からなくともあることが確信出来る。
生徒会役員の三年生、姫神学園で経験を一年積んだ三年生に勝るとも劣らない二年生の精鋭、そして入学したばかりで実力もまだまだな部分が多い一年生。
一年生の陽菜、明音、美咲、梨華はほとんど単なる我が儘だけでこの作戦に参加していた。
もちろん梨華に関しては大河と同室ということも吟味し、『ゴッド』を持つ姫神使いとして実力も充分だと判断させたからだが、他の三人については正直足手纏いと言われても仕方がなかった。
それでも三人は自らの意思で作戦に参加し、この場にいる。
組み合わせは陽菜と美咲、明音と梨華だ。
強化合宿で強くなったとはいえ、まだまだ上級生の足元にも及ばない(と思っている)。……実際には何回かだが国家代表であるアリシアに勝つことも出てきたので、全く勝てないということはないのだが。
「……あぁ!」
陽菜が弾き飛ばされる。
「……陽菜さん!」
美咲は陽菜を振り返らずに呼び、敵の攻撃を受ける。
美咲と陽菜が制御室を目指し、明音と梨華が操縦室を目指す手筈となっており、その目前にして敵と遭遇していた。というより、その前で待ち伏せされていた。
「ふふん。まさかホントに来るなんて。でもここは通さないわよ? 操縦室と制御室には姫神使いが一人ずつつくことになってるから、他二人も今頃戦闘中だけど」
大人の色香を纏った美女が二人に告げる。
美女の名を、二人は知っていた。かつて“惨劇の妖花”と呼ばれたトップクラスの姫神使い。リナード・リフォルテ。『フラワー』の一つ“トリカブト”の姫神を宿した毒使いだ。
昔実戦で両腕の肘から先を失い一線から退いた後、姿を消した世界トップクラスの姫神使いだった。
だが今二人の目の前にいるリナードの両腕はあった。変わり果てた、歪な刃としてであったが。
「……何であなたがこんなことに加担してるんですか、リナードさん!」
美咲は悲痛にも聞こえる声で呼びかける。幼心に美しく戦うリナードに憧れ、「美しく咲く」という自分の名前を誇らしく思っていた。そんな憧れの人物と敵対する形で会うなんて、苦痛以外の何でもない。
「……何でって、それがあなたに関係ある?」
「……くっ」
美咲はリナードに押し返され、呻く。
「……悪いけど退いてくれない? 未来ある娘を潰したくはないのよ」
リナードはそんなことを言って妖しげな花、トリカブトを咲かせる。
「……残念ですが、それは出来ません!」
無理を言ってここまでついてきたのだ。美咲は言って陽菜と共に突っ込んだ。
「……そう。残念だわ」
十分後。全身をズタズタにされた陽菜と美咲が、地面に転がっていた。姫神の結界が作動してないかのような傷の多さ。
それはリナードの両腕にあった。
リナードの両腕についた刃は、ただの剣ではない。対姫神用兵器の一つであった。
対姫神用兵器、『ツキナギ』。その効果は、結界切断。
「……何で、そこまでしてネオスに加担するんですか……っ」
かつて憧れた姫神使いに、美咲が問いかける。
「……だから、答える必要があるの?」
「……あります。私が知りたいから」
「……。それじゃあ理由になってないけど、まあいいわ。教えてあげる。私に新しい両腕をくれたのよ。姫神使いが対姫神兵器を扱う実験だったとしても、呪われて義手さえ嵌められなかった両腕をね」
美咲に呆れつつ、リナードは答えた。そこには沈痛な面持ちがある。
「……でもあなたなら、こんなことに加担しなくても逃げ出せたんじゃないですか?」
「……出来ないわよ。確かに世界に喧嘩売るって聞いてさすがにヤバいとは思ったけど、これに逆らったら致死毒が流し込まれるようになってるし」
「「……っ!」」
「でも脅されてここにいる訳じゃないわ。私はまた両腕を失うのが怖いのよ、正直に言って」
だから、ネオスに逆らえない。リナードの顔はそう言っているように見えた。
「……それとも、それ以上の理由があるのかしら?」
リナードの問いに、二人は答えられない。
「……うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……って、いきすぎたぁ!」
勇ましい少年の雄叫びと共に天井が破壊され、しかし突っ込んできた人物はそのまま両者の間の床を蹴り抜いて下の階に突っ込む。
「「「……」」」
流れる気まずい空気。
「……いてて。ったく、まさか勢いつけすぎて下まで抜けるとは思わなかった。ってあれ? リナードさんじゃん。こんなとこで奇遇っすね」
海水に乗って戻ってきた少年は、軽い口調でリナードに笑いかける。だが、目が笑っていなかった。
「……ふふん。奇遇だなんて嘘、すぐにバレるわよ? 二人がピンチと見て駆けつけたんでしょ?」
「……まあな」
リナードが笑って言うのに対し、少年――大河は冷たい声音で返す。それは陽菜と美咲が聞いたこともないような冷たい声だった。
「……あなた、そんな顔も出来たのね」
「……まあそりゃ、仲間が殺されかけて穏便でいられる程優しくはないけどな。とりあえずあんたには、その趣味悪い両腕失ってもらうけど、いいよな?」
冷徹な視線をリナードに向ける大河。
「……私をそう簡単に倒せると思わないことね」
そう余裕ぶって見せるリナードだが、三十秒後には傷だらけで両腕を切り落とされ、地に伏していた。
大河の英雄、勇者、魔王、剣聖、拳聖、皇帝、帝王、ドラゴン、フェニックス、ポセイドンの十個重ねがけには手も足も出ずに、倒されてしまった。
「……大河」
強いのは当然として、容赦がなかった。いつもとは異なる大河の姿に、陽菜が不安そうな声を上げる。
「……俺も鬼じゃないからな。あんたの両腕、治してやるよ。元通りにな。タイムスリップ」
おそらく賢者の魔法だろう。リナードの両腕に魔方陣が展開され、両腕が再生していく。
まさに元通り。生身の腕が再生されていた。
「……っ! 時間を巻き戻したから、呪いなんて関係ないけど。やっぱ結構キツい」
大河はリナードの両腕が治ってから、ガクッと膝を着いて姫神を解除する。リナードは信じられないという表情で自分の両腕を見ていた。
「……嘘」
「……大河君」
リナードと美咲が大河を見やる。
「……まあ、あんたに同情した訳じゃない。ただ俺は、美咲が悲しむと思ってやっただけだ」
大河は言いつつ、フラフラして倒れ込む。
「……大河!」
「……大河君!」
陽菜と美咲が駆け寄ろうとするが、傷のせいで動けない。
「……もう」
倒れていく大河を、リナードが受け止めた。元に戻った両腕で。
「……こんな敵のお姉さんまでその気にさせるなんて、いけない子♪」
リナードは愛しそうに眠る大河を見つめ、微笑んだ。
それに陽菜と美咲は絶句するのであった。




