真の神
※二話連続更新します
世界最強の師匠、日本代表の音緒さん、イギリス代表のセスティア先輩、フランス代表のアリシアは出てきた『ゴッド』のレプリカを扱う五人の内一人ずつを相手にしながら、暗黒狂戦士を倒して戦っている。師匠はそれ含めて、さらに艦船を二つ攻撃するという程の余裕を見せている。
だが俺は、一人を相手にするので精一杯だった。
そりゃ海上で海のゼウス(ゼウスは一番偉い神)とまで呼ばれる“ポセイドン”を相手に余裕なんて見せられるハズもない。つまりは相手の独壇場だ。
「……海神大竜巻!」
「……っ!」
海面から巨大な竜巻が巻き起こり、空にいる俺に襲いかかってくる。俺が海面に浮かべていたトリモチフィールドはすっかりバラバラにされていた。捕まえた相手は逃がしてないが、救助に向かわれれば逃がすことも可能だろう。ってかバラバラにされたせいで暗黒狂戦士を落とすのも狙いを定めなければならず、四人の負担が大きくなっている。
俺はトリモチフィールドを海一面にじゃなく、四人の下に展開する。俺の相手をしているエルナが周囲の海水だけを操っているからだ。
「……海神龍群翔!」
エルナは俺がやったことに対して眉を寄せつつ、俺の下の海水を無数の龍に変えて放つ。……チッ。竜巻に囚われてそれどころじゃないってのに。
「……青龍雷衣!」
バリバリバリッ!
と激しい雷撃を全身に纏い、消耗は激しかったが竜巻も龍も全てを消し去れた。……クソッ。八聖獣のまま戦っても、持久戦が出来る“ポセイドン”が相手じゃ敗北の色が濃い。
海を操るということは、ほぼ無限に力を使えるってことだからな。
「……解除」
俺は雷撃を警戒するエルナの隙を見て、八聖獣を解除する。……賢者を使って浮遊をかけておいたので、解除しても墜落することはない。
「……どういうつもり? 姫神を解除するなんて。負けを認めて大人しく投降する気にでもなったの?」
エルナは訝しむように俺を見て言ってくる。
「……まさか。“ポセイドン”相手に海じゃあ、消耗の激しい八聖獣じゃ厳しかったんでな。姫神を変えさせてもらうことにした」
「……『姫神を変える』なんて発言、他の姫神使いが聞いたら嫉妬するわよ?」
「……そんな嫉妬、筋違いにも程があるだろ。俺は残念ながら全てを満遍なく鍛えるのが苦手だからな。ただ重ねて重ねて、無茶することでしか強くなれないんだよ」
「…………知らないわよ、そんなこと。それを私に聞かせて同情でも引こうっていうの?」
呆れるエルナ。
「……まさか。俺が姫神を変えるのは、相手がただ重ねがけの力押しじゃ勝てないって思った時だけだからな。エルナ、お前を強敵を認めて、存分に倒してやる」
「……偉そうなこと言うじゃない。海で“ポセイドン”に勝てる姫神が、他にあるっていうならやってみなさいよ! 海神牙龍陣!」
エルナは言って、下の海面から超巨大で口を大きく開いた龍を出現させる。……じゃあ、お言葉に甘えて。
「……見せてやるよ。『ゴッド』で『アルティメイト』の“レジェンド”に挑む無謀さをな。――ポセイドン」
「……っ!」
俺が発動したのは、エルナが持つレプリカ――じゃなくて、オリジナルの“ポセイドン”の力。
水色の和服に全身が包まれ、紺色の長いマフラーが首に巻かれる。
「……止まれ」
超巨大な海の龍が顎を閉じその鋭い牙で俺を貫こうとしてくるのを、声だけで制止させる。レプリカじゃない、オリジナルの“ポセイドン”の力が海から出来た龍を支配下に置いたのだ。
「……なっ!」
「……悪いな。もうこの海は、俺の支配下にある」
俺は驚くエルナに言って、手を伸ばす動作だけで、超巨大な龍を出現させ、エルナを囲む。
「……っ! あ、あれ? 何で何も起きないの? 嘘っ、まさか私の力を上回って……!」
「……これで終わりだ」
おそらく海が全く反応しないことに気付いたんだろう、エルナは焦っていた。俺はそんなエルナに告げて、龍達を襲いかからせる。
海神の力を持ってるからといって、海からの攻撃を受けない訳じゃない。海に住む生物達にも海は牙を剥く。それに今海は俺の支配下にあって、エルナの支配下にはない。
コピーの、本来の自分の姫神じゃない力に頼ったせいで、負けたんだ。本来の自分で戦っていれば、一矢報いることぐらいは出来ただろうにな。
「……っ」
「……あっ」
龍達にやられ、気絶して姫神が解除され墜落するエルナ。その下の海面には、トリモチがない。
俺は焦って飛び出す。……後で思うと、海水を操って受け止めればよかったんだが、焦ったせいで思わず飛び出してしまった。
「……エルナ!」
俺は高速で飛び、何とか海面に叩きつけられる前に抱き止めることが出来た。
「……あ、危なかったー」
俺は冷や汗を掻いてしまったが、所謂お姫様抱っこという格好で受け止めたので、拭えない。
「……な、何で私を助けたのよ」
エルナはさすがに“ポセイドン”の力を持っているだけあってあまりダメージがないのか、すぐに目覚めて聞いてくる。
「……だって死んだら困るし。事情聴取とかあると思うからな。それに、個人的にあんまり敵視出来なかったというか、その……」
「……何そのヘタレ」
エルナのジト目に、俺は思わず「うっ」と言葉を詰まらせてしまう。
「……まあいいわ。助けてくれたことにはお礼を言ってあげる。でも敵に情けをかけるなんて、特にあの子にはダメよ? ここだけの話、あの子滅茶苦茶あんたのこと恨んでるから」
「……マジで?」
おそらくエルナの言う「あの子」とは、男子の姫神使いのことだろう。……せっかく仲間を見つけたと思ったのに。実験にされてるなら別に悪いヤツじゃないかもと思ったんだが。
「……大マジよ。だから気をつけなさいよ」
「……ありがとな、敵なのにそんなこと教えてくれて」
「……う、うるさいわよ。いいからさっさと行きなさい」
「……ああ、じゃあな。エルナ、また今度な」
「…………何よその友達みたいな挨拶。――また今度、ね?」
俺が言って海面にゆっくり下ろしてから持ち場に戻ろうとすると、呆れられたが、少し嬉しそうに微笑んでくれた。
……おそらく、ネオスの一員だったというだけで色々処分が下されるだろう。特に自ら加担していたともなれば、厳しい処分になるハズだ。
だが彼女はまだ未来ある姫神使いで、一生収監されるようなことはない。いつかまた、会えるだろう。




