作戦前夜
※最近は毎日更新しています
女将の策略に嵌まったり、会長のドッキリにかかったり、梨華の無防備な行動があったり、アリシア含む全員に日焼け止めを塗るように強要されたり。
様々なハプニングを乗り越えて(?)、一週間の強化合宿を終えた。
作戦決行は明日。今は休養も兼ねて各自が部屋で休んでいるところだ。作戦前夜ともなると、緊張している人もいたりして、心の準備が必要だと思ったからだろう。
俺も少し物思いに耽っていて、頭の後ろで手を組み、布団の腕で寝れもせずに明かりを点けず、天井を見上げていた。
……いよいよ、戦いが始まる。露のかかる早朝から、動き出して敵艦隊を襲撃する予定になっている。
こっちは専門の学園で訓練し、さらにはファンタジー感溢れる異形のモンスター達とも戦い経験を積んだ姫神使い。
だが相手も姫神使いであり、場合によっては姫神を移したり対姫神用兵器を使ってきたりするかもしれない。
しかもこれは姫神使い同士の戦いでも、学校で行う訓練や試合じゃなく、生死を懸けた戦いなのだ。戦争、といっても過言じゃないのかもしれない。
極端に言えば、死ぬかもしれない戦いということだ。そして、人を殺してしまうかもしれない戦いでもある。
実戦経験があるらしいアリシアやセスティア先輩(名前で呼ぶように言われた)などはまだマシだとしても、俺は暗黒狂戦士の一件ぐらいしかそんな戦いをしてない。実戦経験は浅いといえる。
「……はぁ」
眠れない。他の皆はどうなんだろうか。
梨華は、何か普通に寝てそうだ。不安がる相部屋の人なんて気にせず、眠そうに目を擦ってマイペースに布団に入り、いつの間にか眠っている。梨華なら有り得そうだった。
アリシアは命が懸かった戦いも経験してるそうなので、疲れを癒す休養のためと思って寝てるかもしれない。……抱き枕さえあればいつでも寝られるって言ってたしな。
美咲は眠れてないかもしれないな。結構真面目だから、作戦の概要や流れ何かを読み返して暗記してるかもしれない。緊張して寝不足、なんてことにならないといいんだけどな。
明音はいつも明るく振る舞ってるが、いざという時に背負い込みすぎるきらいがある。ちょっと重く考えすぎて明日無茶をするかもしれなかった。
陽菜は真面目で厳しいので、眠れなかったら外にランニングにでも行ってると思う。運動して一汗流し、さっぱりしてからスッと眠るのがいつものスタイルだった気がする。
……何かこう考えてみると不安が残る人ばっかりだな。ちょっと様子を見に行ってこようかな。いや、もし真剣に色々考えて覚悟を決めてるんだったら、邪魔しちゃ悪いだろうし。行かない方がいいのか? でもこのままだと俺が気になって眠れない気がする。
「……よしっ、行くか」
ということで、俺は意を決して部屋を出た。
最初に訪ねたのは梨華と美咲の部屋。眠そうに目を擦りながら梨華が出てきたので、俺の予想通りだと告げていた。部屋に入れてもらったが美咲も予想通りに作戦について読み直していた。
だがしばらく話してると梨華が寝てしまい、続いて美咲もウトウトし始めたので、俺は起こさないようにソッと退散した。……寝る前の二人に、コソコソとこの戦いが終わったらどこかに遊びに行こうと言われ、それは死亡フラグなのか? と思ってしまう俺だった。
気を取り直してアリシア、明音、陽菜の部屋。陽菜はやっぱりというかいなくて、アリシアと明音が作戦について話してたようだ。明音が難しい顔をしてたので、これは重荷を背負う気だと分かって一言二言声をかけた。相変わらずツンツンしていた明音だったが、重荷が降りたようで良かった。アリシアにも根を詰めすぎないように言って、二人の頭を撫でてやると眠くなったようで寝てしまった。俺は部屋に戻りつつ途中で壁に寄りかかって、戻ってくる陽菜を待っていた。
陽菜は汗を流してきたのか色っぽい姿だったので、ギロリと俺を睨んできたが、少し話をしたいと言ったら渋々といった感じで久し振りに一番付き合いの長い幼馴染みと、二人きりで会話をした。これといって特別なことを話す訳でもなく、ただ普通の会話だった。だが何故か、少し心が軽くなったように思えた。
そして何故か三人共終わったら一緒に出かけるという約束をした。……だからそれは死亡フラグだろって。
「……ふぅ」
俺は気にかけていた全員と話すことが出来て、心おきなく寝られると思い、部屋に戻ってきた。だが俺の布団の上には、繋がってはいるものの隣の部屋にいるハズの会長が正座していた。
「……会長?」
「……ご、ごめんね、大河君。いきなりこっち来ちゃって。ちょっと時間いい?」
俺が声をかけると、会長は少し慌てて早口に言う。俺は頷き、会長が座っている前に胡坐を掻いて座った。
「……それで、どうしたんです?」
こんな夜更けに。女性が男の部屋に来るのにはちょっとダメな時間帯ですよ? ……そんな状況のいい時間帯があるかどうかは兎も角。
「……い、一緒に寝て欲しいのよ」
「……え」
俺は聞き返すでもなく、恥じらいながら言った会長の言葉に、ただ固まった。
「……だから、一緒に寝て欲しいの」
「……な、何でですか?」
俺はもう一度言われてフリーズから直り、聞いた。
「……だって、怖いじゃない」
「……へ?」
顔を真っ赤にして俯いた会長の言葉に、俺は今度こそ聞き間違いかと思い、聞き返した。
「……だから、怖いの! 何度も言わせないで、恥ずかしいんだから!」
大抵は余裕そうな態度を取る会長がこうしてはっきりと怖い、と口にするということは、余程怖いんだろう。
「……怖いって、明日の戦いがですか?」
人を殺しても平気、とまではいかないが、相手を容赦なくぶっ倒すのは会長の得意分野だと思っていた。そのため少し意外だったのだ。
「……そうよ。私ね、生徒会で唯一実戦経験がないの。姫神で戦ったのは相手を傷付けない試合や練習、それにここのモンスターだけ。だから怖いのよ。明日ちゃんと戦えるか、全く分からないのよ」
会長はそう言って、くるっと俺に背中を向ける。多分涙が滲んだから見せたくないんだろう。肩を震わせて声を出さずに泣くその背中は、生徒会長ではなく筒凱音緒という女の子の、か弱く小さな背中に見えて、
「……っ!」
思わず抱き締めてしまった。……抱き締めたくなった、ではなく抱き締めた。思ったらもう行動してたんだから、どうしようもない。
「……た、大河君?」
会長は俺がやったいきなりの行動に驚き戸惑い、若干涙声になりながらも聞いてくる。
「……大丈夫です、会長。俺がいますから。気にせず、いつも通りにやればいいんです。敵も味方も全員、死者は出しません」
「……」
ギュッと会長の華奢な身体を抱き締めて囁く。
「……もう。大河君ったら、大胆なんだから」
会長は茶目っ気たっぷりに微笑んだ。……元気は出たみたいで良かった。
「……それと、音緒って呼んでいいわよ。どうせ一回呼ばれてるし」
続く会長の言葉に、俺は「うっ」と言葉を詰まらせた
「……ね、音緒先輩?」
「それじゃあ普通だからダメ」
「……音緒会長」
「会長はつけないのでお願い」
「……じゃあ音緒さん?」
「……っ。そ、それでいいわよ。じゃあこのまま後ろから抱き締めて、寝てくれる? 大河君に抱き締められると何だかホッとするの。お父さんってこんな感じなのかなって。
「……そ、そうですか」
少し嬉しそうな会長の理由は分からなかったが、とりあえず頷いておいた。……お父さんとはいえおっさんと比較されたら素直に喜んでいいモノかと悩む。
だが俺は音緒さんの甘い匂いにやられつつ、すぅすぅと安らかな寝息を立てて眠る音緒さんは、予想以上にあどけない顔に見えた。
ついに明日は、決戦だ。……会長の出現で最早そこまで寝られなかった俺は、少し寝不足で挑むことになりそうだった。




