会長の窮地
二日連続です
「……ハァ……ハァ!」
姫神学園の生徒会長にして日本の国家代表でもある筒凱音緒は、姫神使いとしてかなり上位にいる。だが今は、かなりの苦戦を強いられていた。
しかも、人工無人島にいる実験動物――モンスター相手にである。
「……ああもう! 何で政府はこんなのを作ったのよ!」
音緒は苛立たしげに叫ぶが、応える者はいない。
いるとしても対峙している目の前の巨大で凶悪なドラゴンだけ。蜥蜴を巨大化させたような体躯に蝙蝠のような翼を持つ漆黒のドラゴンだ。
音緒と共に森の最奥に来ていたセスティア・セラスティアは目の前のドラゴンにやられてしまい、治療は出来ないのですぐに駆け付ける範囲内だが攻撃の巻き添えをくらわない場所で寝かせてある。
「……姫神の力を吸収するなんて、チートでしょ!」
音緒は吐き捨てるが、作った者がいないため声は届かない。
音緒の姫神はそこまでレアな『レジェンド』や『ゴッド』、ましてや『アルティメイト』程強いモノではない。
『エレメンツ』という属性を操る姫神の内、しかしここはレアな二つを宿す世界でも唯一二つの種類を宿すのが筒凱音緒という人物だった。
『エレメンツ』の“フォッグ”と“ラヴァ”を扱う。霧と溶岩である。『エレメンツ』は得意な武器を選択出来るという点で自由度があり、その属性を自由自在に操ることが出来る。
音緒は両手に杖を持っており、先端には青い水晶と黄、赤、橙、焦げ茶の四色が混じった水晶が嵌められていて、杖としての使い方はしていない。
「……ラヴァ・ブレード!」
杖を柄として溶岩の刃を作り出す。杖を柄に代えているので刃もそれなりに大きい。
「ガアアアァァァァァァ!!」
ドラゴンが咆哮するが、そんなことで怯んでいては会長や日本代表は務まらない。音緒は全く怯まずにドラゴンに突っ込み、両手の杖を振るってドラゴンを焼き尽くす――ことはなく溶岩の刃が吸い込まれるように吸収されてしまう。
「……これでもダメならっ! ラヴァ・フォッグ!」
音緒は普通では有り得ない現象に驚くことはなく、すぐに次の手を打つ。それは、通常の『エレメンツ』では不可能な現象。凍える火、アイス・ファイアや燃える雷、ファイア・サンダーなどと同じく二つの『エレメンツ』を持っていなければ出来ない溶岩の霧。もちろん『エレメンツ』で二つ同時に宿すのは音緒しかいないため、例は“魔術師”や『レジェンド』、大河が使った場合である。もっともそれには音緒よりも多くの力を消費するため、使う者は少ないのだが。
炎の壁と見紛う程の溶岩の濃霧がドラゴンに襲いかかるが、それらもあっさり吸収されてしまう。
吸収する容量を超えればダメージを与えられるのだが、不運なことに音緒は純白の反射するドラゴンを倒したばかりでほとんど力を残していない。
「……これはヤバいわね」
音緒は失笑を漏らした。生存出来る確率が、かなり低いと判断したのだった。もう決めた集合時間は過ぎているので役員が向かってきているかもしれないが、間に合うかは分からなかった。
「……諦めるのはまだ早いの、会長」
耳を劈く雷鳴が轟く直前、音緒の耳にそんな声が聞こえた。
「……あら。間に合ったみたいね、皆」
力をほとんど残していない音緒の前に、三人の美少女が立っていた。
「……セラスティアさんはアレンに任せました。すぐに応援を寄越してくれるでしょうから、もうちょっと頑張りましょう、会長」
「……久し振りに本気で戦えそうかな」
柔らかな微笑を浮かべる副会長の百合香と男前にフッと微笑む会計の須沙野尾天里が頼もしく言って、それぞれの姫神を展開する。
「……気をつけて。そいつ、姫神の力を吸収する能力を持ってるから。容量があるみたいだけど、私が万全の状態で全力の一撃を叩き込めば倒せるくらいよ。頑張って」
「……それはかなりの威力。会長がやって」
「……さっきこいつと一緒にいた純白の反射するドラゴンをそれで倒しちゃったからもうほとんど力が残ってないというか」
「……それでここまで苦戦していたのですか。では大河さんが来るまで時間を稼ぐとしましょう」
「……何でそこで大河君が出てくるの?」
音緒は頼もしい仲間に情報を与えていたが、不意に出てきた名前に何故かカチンときて少しキツく尋ねた。
「彼は『アルティメイト』で『レジェンド』の姫神を重ねられるようなモノですからね。彼なら倒してくれるでしょう」
百合香は真意の読めない微笑で答えた。……確かに正論だと分かっている。それにこのドラゴンが容量がある吸収または反射を持つと分かった時、真っ先に思い浮かんだのが大河だった。
「……確かにそうだけど、持つかしらね?」
「持たせますよ、もちろん。私達はこれでも最高学年ですからね」
音緒が意地悪く言うと百合香がきっぱりと答え、ドラゴンと交戦し始める。
「……っ!」
だが数分後、音緒も膝を着き他三人は地面に倒れ伏していた。
「……迂闊だったわ」
音緒は自嘲気味に笑って迫る死を覚悟し始める。
吸収する能力を持つ。ではその、吸収した力はどこへいくのか? 答えは簡単だった。
ドラゴンが内部に貯蔵し、蓄えているのだ。二年の最強でイギリスの国家代表でもあるセスティアがそう簡単に負けるハズがない。攻撃し続けたがそれら全てを吸収され、まとめて一気に返されたのだとしたら、説明がつく。
音緒がドラゴンに与えていた溶岩や霧が、全て駆けつけた三人に返ってしまい、何とか同じ属性だったため耐えた音緒以外は倒れてしまっていた。
「……ガアアァァァァァ!!」
ドラゴンがゴポゴポと音を立てる熱々の溶岩を霧に変えて音緒に向けて放つ。音緒にしか出来ないハズのラヴァ・フォッグを丸っきり真似されてしまっていた。
「……ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
残った姫神の結界も消え、直撃しなかったものの熱気が音緒の肌を焼く。
「……ぁ」
徐々に迫るドラゴンの巨躯。僅かに漏らした声は誰にも届かない。
「……た……いが……くん」
溶岩で焼かれた森の炎の熱気を浴びながら一人の名前を呼ぶ。それはこの状況を打破出来るかもしれない人物の名前だった。
「……音緒さん!」
聞いたことがある声だったが、呼ばれたことのない呼び方だった。しかしドラゴンを包み込む激しく強大な雷光が閃き、吸収されたが僅かに押し返されるドラゴン。
「……大丈夫ですか?」
その攻撃と声の主は、傷ついた音緒の優しく抱き上げて聞いた。
「……大河、君」
「はい」
そこには音緒が望んでいた人物がいた。




