女将
※まさかの本日二話目
夕方になって俺達が戻ると先に採集組がいて、少し遅れてから漁業組が戻ってきた。……どのグループも一年生が疲れているようでぐったりした様子だったが。
「……会長とセラスティア先輩がいませんね」
俺は言って周囲を観察してみる。だが二人が帰ってくる様子はない。
「……日本とイギリスの国家代表生二人がそう簡単にやられる訳はありませんが、少し心配ですね。生徒会役員で探してきます。その間に食料を厨房に入れて下さい」
副会長の百合香先輩が顎に手を当てて考え込むように言い、生徒会役員に目配せして四人で森の中に入っていく。……会長とセラスティア先輩は国家代表生だったのか。しかも会長は師匠と同じ日本の。まあ師匠は世界代表といってもいい程だから例外かもしれないが。
「……会長とセラスティア先輩がどこに行ったのかは分かってるんですか?」
俺は四人が同じ方向に姫神を展開して駆け出したのを見て、二年の先輩方に尋ねた。
「……最強のモンスター、いる場所、最強の二人、回る決まり」
両目を前髪で隠した暗い雰囲気の先輩が片言で言った。新楽先輩だ。無口なところが梨華に似ていて、梨華はすぐに打ち解けたらしい。
「……何かあったかもしれないってことですか?」
アリシアが心配そうな顔をして聞いた。……誰も答えらない問いだったが。
「……生徒会役員の方達が行ったので大丈夫だよっ。それより言われた通り食料を中に運んじゃおっ」
笑顔を浮かべて空気を変えようとするのは俺達と狩猟に出ていたリン先輩だ。……先輩三人と美咲には名前で呼ぶように言われた。
「そうですね。賢者……っと、ウエイトライト」
俺は一応賢者を発動させて重量軽減の魔法を使い、モンスター十数体と木の実たくさんが入ったでかい袋と魚や貝などの重量を軽減させる。負担を軽くして素早く行動するためだ。
賢者には眼鏡があるのは美咲にツッコまれたが、会長と書記の真央先輩に言われたと言ったら何故か納得してくれた。
「……大河、助かる」
細い身体の新楽先輩が短く礼を言って、軽々と重量が軽くなった木の実の入ったでかい袋を片手で持ち上げ、さっさと運んでいく。
他の皆も協力して大きなモンスターなどを運び込み、厨房いっぱいに食料が並んだ。
「……いつもは会長が料理を手伝うんだけど、一年生で誰か料理出来る人いる?」
リン先輩が聞いてくる。最初から二年生には料理出来る人がいない前提で話しているのに、誰も疑問に思わなかった。おそらく俺以外は。
俺は姫神を使えるためそこまで女尊男卑という文化を強く感じないが、姫神が使える女性が男性の上に立っているのが普通の時代だ。だから家事が出来る女性は少なく、姫神学園のように女子校だった学校の食堂に生徒のため気兼ねなく過ごせるよう女性の調理師を呼ぶ、または希望者に調理師になってもらうことがなければ、女性が作るということはあまりない。家事ではなく趣味の範囲になるということだ。
姫神という力が存在するため、女性が外に働きに出て、男性が家庭を守るのが主流になっている。そのため早ければ卒業してしばらくしてから結婚する先輩方も、そして大学生である師匠も料理が出来ないのだろう。
「……私は出来ません」
陽菜が言って、口々に他四人も頷く。すると俺に視線が集まった。……男が家事をする時代なので、期待としては俺が一番高いだろう。姫神使いとして莫大な財産を築いている師匠と暮らしていることもあり、家事を担当していたんじゃないかっていうのもあるかもしれない。
「……俺は出来ますけど」
正直に言った。ってか陽菜と明音は俺が料理出来ることを知ってるよな。逃げられる訳がない。
「それなら女将さんと一緒に厨房にいてくれる? ここの従業員は女将さん一人だから」
右だけのサイドアップテールをした美少女、荒浜先輩が言ってくる。料理担当の人は厨房で一緒に料理するようだ。……俺、モンスターを調理する自信なんて皆無なんだが。
「分かりました」
俺は頷き、食料を運んだそのまま厨房にいて、女将と調理を開始する。
「それではモンスターの調理方法についてご説明しますので」
女将は着物を着た美人で、大人の色香というのを纏っていて、俺の周囲にはいないタイプだった。だが髪は赤いので日本人じゃないのかもしれない。ポニーテールにしている。……と言いながら女将は俺達が最初に倒した巨大虎のバードレッグタイガーという見た目そのままの名前をしたヤツを捌いて肉にして並べていた。手際が良すぎる。
「……手慣れてますね」
モンスターの捌き方を説明しながら次々とモンスターを捌いていく女将に、女将の言う通りに捌きながら言った。
「ここで暮らしていますからね。モンスターを獲って過ごすこともあります」
女将は柔らかな微笑みを湛えて言った。……ってことはこの人もなかなか強いんだろうか。
「ここのモンスターは見た目通りの身ではなく馬や豚などの肉と同じにしてありますから、味は問題ありませんよ」
補足説明をしてくれる。……なるほどな。ってことは虎肉じゃなくて羊肉ってこともある訳か。
「弥生月さんも手際がいいですね。お料理はよくされるのですか?」
今度は女将から質問してきた。
「そうですね。師匠の雨釣木さんが家事をしないっていうのもありますし、今は男が家事をする時代でもありますからね。それに俺は両親がいなので幼い頃からずっとやってますから」
俺は言いながらも巨大なカジキっぽいが鳥のような翼を生やしたトビカジキというらしい魚を捌く。捌く方は師匠と暮らした際、魚を持ってくる師匠に困って身につけた技術だ。
「……そうですか。それは失礼しました」
女将はそう言って謝る。おそらく俺が両親が死んでいると言ったからだろう。
「いいですよ、幼い頃なんで記憶もないですし。それより女将は何で料理を? 旦那ぐらいいそうですが」
俺は密かに嘘をつきつつ、話を変える。
「いえいえ。私は独身ですよ。お料理は趣味で嗜んでいた程度です。本格的に始めたのはここの女将になってからの話で」
女将は年齢を特定させない微笑でそう言った。
女将と談笑しながらモンスターや木の実などの処理をしていると、
「大変よ!」
厨房のドアが勢いよく開けられ、荒浜先輩が血相を変えた表情で入ってくる。
「セラスティアが、傷だらけでシーター先輩に抱えられてきたの! 今生徒会役員が交戦中らしいけど、会長もピンチだって! 弥生月君も一緒に来て!」
荒浜先輩はどうしたんですかと尋ねる前に事情を説明した。時間が惜しいんだろう。それ程ヤバい状況なのかもしれない。
「……すみません、俺行きます!」
俺は女将に一言言って、荒浜先輩についていく形で厨房を飛び出し、案内されるままに駆け出した。




