無人島での狩猟
※本日一話目
やっぱり視線を合わせようとしない会長を不思議に思う十四人に内心苦笑しつつ、とりあえず知らぬ存ぜぬを貫いた。
「……特訓は森に入って食料を集めるところから始めるから。一年生は二人一組になって果物や野菜、魚や貝、肉の三つに分かれてもらうから」
会長は俺と目を合わせないようにしつつ、言った。……俺も気まずいから少しほとぼりが冷めるまではいいんだが、やっぱり傷付くもんは傷付く。
俺達一年生六人は、俺抜きのグッチョッパ(同じのを出した相手と組むヤツ)で一人余った人が俺と組むことにしたようだ。
陽菜と明音、梨華とアリシア、俺と浅島さんが組むことになった。
「……えーっと、よろしくね?」
「……お、おう」
俺と浅島さんは互いに戸惑いつつ顔を見合わせる。……何故かは分からないが、四人がめっちゃこっちを睨んできているのだ。そりゃ戸惑う。
「……二人一組に分かれたら、採集、狩猟、漁業の三つを決めてくれる?」
会長は一年生全体を見て言う。……決して俺だけを見ることをしないようにしているのが丸分かりなので、周囲からのチクチクしたトゲのある視線が痛い。
「……狩猟ということは、何か動物でもいるんですか?」
陽菜が丁寧に挙手をして尋ねた。……ってか食べ物は自給自足なのかって聞かないんだろうか。聞いても答えてくれるかは分からないが。
「……まあ、そうね。でも姫神があれば問題ないから。そういうのも修行の一環だと思って」
歯切れ悪く答えた会長は苦笑して告げた。……何かがいるってことか。旅館は襲われないんだろうな、多分。その辺も実験の一つなのかもしれない。
六人で話し合った結果、何があっても対処出来る俺が狩猟をすることになり、浅島さんも了解してくれた。陽菜と明音のペアは漁業、梨華とアリシアのペアは採集ということになった。
「……じゃあ狩猟は副会長と庶務とキアントさん、採集は書記と新楽さん、漁業は会計と凛根さんと荒浜さんに説明とか聞いてね。セラスティアさん、行くわよ」
「……分かりました」
会長は簡単に各担当の先輩を言って、さっさといつも不機嫌そうに見える二年の先輩を連れて森の奥に消えていった。
「では狩猟について説明と自己紹介をしながら、私達も行きましょうか」
副会長らしい先輩が柔らかな微笑を浮かべて言ったので、庶務の先輩と二年の先輩と浅島さんと俺は、大人しく副会長についていった。
「……まるで日本じゃない樹林ですね」
森を歩きながら、浅島さんが言った。俺も同感だ。まるでアマゾンの熱帯雨林を歩いているようだった。気温は日本の春なのでそこまで暑い訳じゃないんだが、生い茂る樹林はまさにジャングルだった。
「はい。住んでいる生物の生態に合わせた環境を作り出しています。日本の森林より外国の森林の方が適していたので、そうしたというだけの話ですよ」
副会長は相変わらず柔らかな微笑を湛えたままで説明してくる。……ってことはジャングルの王者、虎とかがいるってことなんだろうか。猛獣じゃないか。
俺とおそらく浅島さんもそう思ったんだろう、少し顔を引き攣らせていた。……まあ姫神があれば何とかなるとは思うんだけどな? やっぱり怖いモノは怖かったりする。
そう思っている内にバキバキバキッ! と木々が圧し折れる音がして、二人同時に身体をビクッと震わせてしまう。
「ガアアアアアァァァァァァ!!」
「「……えっ?」」
音はだんだん近付いてきて、咆哮と共に姿を現す。……現したそいつを見て、俺と浅島さんは間の抜けた声を上げてしまう。
そいつは一見虎。だがただの虎ではなく体長が十メートルもあるような超巨大な虎だった。しかも四肢は普通のそれではなく、鳥の脚だった。
「……あらあら。いきなりバードレッグタイガーなんて、運がいいですね」
だが顔を青褪める俺と浅島さんに対して副会長は相変わらず微笑していた。……いやいやいや! そんな場合じゃないでしょうに!
「……あんな化け物日本にだって、外国にだっていませんけど! 完全にファンタジーの世界じゃ……」
「そ、そうですよ! 生態とかほとんど分からないようなモンスターじゃないですか!」
俺が言うと続いて浅島さんも必死になって言った。だが先輩三人は笑うだけで取り合ってくれない。
「とりあえず実力も見たいですし、お二人だけで戦って下さい。姫神があれば問題なく倒せるハズですよ」
副会長が有無を言わせない微笑みで言ってくる。……姫神を使えなければ完全にアウトだけどな。
「……やるしかないのか」
「……そ、そうみたいね」
俺が諦めたように言うと浅島さんも覚悟を決めたようだ。……押しに弱いという点で浅島さんとは仲良くなれそうだった。
「……っ」
まず浅島さんは“ペルセウス”を顕現させる。首から下を覆う深い紺色の金属甲冑を着込み、右手に長剣左手に蛇髪女の石像の生首を持っている。
「……ここはファンタジーらしく、戦士でいくか」
俺は少し考えた結果、無難に戦士を選択した。鈍い鋼色の首から下を覆う金属鎧に、右手に大きな盾を、左手に両刃片手剣を持っている。
「……シールド・アトランス!」
俺は叫んで技を発動させる。盾から波動を放ち、その波動を受けた対象は俺が持つ盾に意識を集中させてしまうという、相手を引きつける技だ。
「俺が防御する! 浅島さんは攻撃を頼んだ!」
「……分かった!」
俺が言うと浅島さんは少し間を置いて頷き、モンスターの意識が盾に集中しているので横から容赦ない攻撃を加えていく。完全に切り裂けない場合は石化を上手く使って剣で砕く、という風にどんどん攻撃していた。
俺も負けらないのでモンスターの攻撃を盾で受け流しながら隙を見て攻撃を加え、モンスターの体力を削っていく。血を流している姿は瀕死状態だと分かり、もうそろそろ倒せる。
「……盗賊」
俺は爪での攻撃を横に受け流し、戦士を媒体にして盗賊の素早さを加算し、くるりと身を翻して腕を斬りつける。
「……賢者」
さらに眼鏡をかけてマントを羽織り、賢者の力を顕現させて盾からサンダー・ブラスターを発動させて雷の波動を放ち追撃をする。
「……英雄」
さらに英雄の力を顕現させて鎧と剣と盾を金色に変更し、強大な斬撃を放ってモンスターを縦に真っ二つにしてトドメを刺した。
「……ふぅ」
「さすがだね、弥生月君は」
俺が一息ついて姫神を解除すると、浅島さんも姫神を解除して言ってきた。
「……いや。浅島さんもトドメを刺す機会があっただろうに、刺さなかったからだろ。それに俺よりも先輩達の方が凄い。俺達が戦ってる間に周囲に寄ってきたモンスターを静かに倒し続けてたんだからな」
俺は首を振って言う。
「……えっ? そうなんですか?」
浅島さんは気付かなかったようで驚き聞いていた。
「はい。お恥ずかしい話ですが、実力を見るためだったので勝手ながら手助けさせてもらいました」
「……まさか気付かれてるとは思わなかったけどな」
「これでも先輩ですからね」
三人の先輩は苦笑もあったが微笑んで言った。……あんなでかくて強いモンスターをあっさり倒すってのはさすが先輩だよな。
その後自己紹介とこの島についての詳しい説明を受けた。
副会長は艶やかな黒髪を腰辺りまで伸ばし、柔らかな微笑を常に湛えたスタイル抜群の美少女で鳥居百合香。
庶務は明るい茶髪をショートカットにして、長身でスラリとした長い手足を持ち、スタイルはそこまで優れているという訳じゃないがスラッとしていてバランスがいいように見える美女でアレン・シーター。アメリカ人とのハーフらしく日本で過ごしたらしい。アレンは漢字で書くと亜蓮だそうだ。
二年の先輩は青っぽい肩ぐらいまで伸ばした髪に小さな背丈をしていて、スタイルもその背丈に見合ったぺったんこさの美少女というよりは美幼女でリン・キアント。俺の知り合いでは梨華が一番小さいが、梨華よりもさらに小さい。ホントに先輩なのか怪しいところだ。……先輩をつけて呼ぶとかなり嬉しそうにするので、年上と思われるのが嬉しいらしい。
この島とその周辺では生態系を崩さないように何でも食べるようにした凶悪なモンスター達を放っており、入っちゃいけない区画には最強のモンスターがいるそうだ。モンスターと戦うことも修行の一環だそうなので、姫神を使った特訓はすでに始まっているようだ。
俺達五人は続いて狩りをし、夕方になって日が沈み始めてから旅館の方に戻った。




