合宿前
襲撃当日まで急遽強化合宿に行くことになった俺達。準備をしたり買い物をしたりして呼び出された生徒会室に向かうと、ほとんどの人が来てなかった。というより会長だけだった。
「……よろしく」
どこか梨華と同じ雰囲気を持つ無表情な書記の三年生の美少女が扉から入ってきて言った。「……よろしく」と言う割りに顔は手に持った書物に向いている。……何の書物なのか。分厚い本だ。
梨華とは違って俺に興味関心がないようにも感じる。それはちょっと有り難いかもしれなかった。……最近ファンクラブや何かで色々あったから何も言ってこない人というのも新鮮でいいかもしれない。
「……はい」
俺は頷き、今回の合宿の色々を詰めた大きなバッグを置く。……バッグも急遽買うことになったから適当だ。もしかしたら値札とかがついてるかもしれない。一応ザッと確認して切ってきたが。
一週間と言うこともあってでかいバッグが二つ。中学の時の修学旅行が二泊三日とかで一つだったんだから、それも当然か。
「……それで、今回の合宿場所ってどこなんです?」
俺は時間がありそうなので会長に尋ねた。
「絶海の孤島。ともいえるけどただの小さな無人島よ。動物も住んでるから気をつけないといけないけど、私達ならそこまで危険だってこともないし、サバイバルしながら身体を鍛えましょうってことで毎年どっかの部活が使ってたかな。でもちゃんと旅館もあるし普段はいないけど私達がいる間は従業員の人達もいるから絶対の無人島って訳じゃないんだけどね」
会長が説明してくれる。……つまり旅館以外はホントに何もない場所なのか?
「……ここ」
書記の先輩が言って投影型ディスプレイで地図を表示する。地図は日本列島の中部地方の上の方で、佐渡島から大きく左斜め上の位置に、点が明滅している。これが目的地なんだろうが、こんな場所に島なんてあったんだろうか。無人島だからあまり知られてないってのはあるかもしれないが。
「そこは姫神研究所の日本支部が持ってる実験場の一つみたいな感じで、地球温暖化に強い植物の研究だとか、人工生命体の研究だとかが行われてて、まあ研究施設の一つって感じなのかな」
俺が首を傾げていると、会長が説明してくれた。……つまり人工無人島って訳か。研究施設なら俺が知らないのも無理はない。
「……場所覚えた? ここに転移する。細かい座標は私で調節するから」
ここにテレポートを合わせるってことか。……俺、そういう細かい技術的面は苦手なんだよな。ここら辺にテレポートすることは出来てもちゃんと島に転移出来るかは分からない。
「……俺、こういう地図見てそこに合わせるのとか苦手なんですけど」
俺は正直に先輩二人に苦笑して言ってみる。
「……まあ、大丈夫でしょ。何なら会計の娘が来た時遠視で見たらいいんじゃない?」
会長が少し苦笑して言ってくる。……遠視か。なるほど、その手があった。
「……遠視ですか、それなら今見ればいいんですね」
「……えっ? いやでも転移に結構消耗するって聞いてるんだけど?」
会長が言ってくるが、その点は問題ない。
「大丈夫です、その辺は。一回なら何とか十人以上でも持ちますし」
俺は言って頭の中に発動させる姫神を思い浮かべる。……賢者は必要か。後は遠視の効果があるグリフォンとかもいいかもしれないが、賢者だけでいけるかもしれないな。
「……賢者」
俺は賢者の力を発動させる。左手には大きな杖、魔術師らしく豪華なローブを纏っている。服装も制服から変わってそれに合うモノになっている。
「……う~ん。眼鏡があった方が賢者っぽくない?」
俺が遠視と透視で無人島がある方を見て島を見つけていると会長がそんなことを言ってきた。
「……一応島は見つけたんで島には行けそうですけど、眼鏡ですか?」
俺は一応報告だけはしつつ、会長に聞き返した。……確かに伝説上の人物だから俺がどういう想像をしているかで決まるのかもしれないが、眼鏡か。
「……伊達眼鏡ってことですよね」
俺は別に目が悪い訳ではないので眼鏡をかける必要がない。ただ眼鏡をかけると知的に見えるということはあるかもしれない。書記の先輩も眼鏡をかけていて知的そうに見える。
「そうそう。それで、どんな眼鏡が似合うと思う?」
会長は頷いて書記に聞いた。……少し楽しそうだ。
「……賢者なら黒縁がいいと思う」
書記は本から目を離さずに答える。……確かに賢者ならチャラい赤色とかより黒の方がいいかもしれないな。ファッションでもあるが、今回は知的に見せるのが目的だろうし。
ということは今の賢者である俺は知的に見えないということだろうか。ちょっとショックだ。
「……そうね。じゃあ転移する時は黒縁眼鏡をかけてお願い」
会長は顎に手を当てて言うと、微笑んで言ってきた。
「……はあ」
なので俺は曖昧に頷いた。何でそこまで眼鏡に拘るのかは分からないが、別に賢者っぽくなるならいいだろう。丁度魔法使いとの区別が微妙だったからな。
俺はそう思い、十六人全員が揃うまで待っていた。




