作戦前の強化合宿
五人の師匠との短い修行が終わり、師匠はどこかへ行ってしまった。……そういう理由で俺の説教から逃げたんだが。
修行で疲れたらしい梨華とアリシア(リーヴェンハートさんと呼んだら怒られて名前で呼び捨てするように言われた)が師匠がいなくなり広くなったというのに俺に抱き着いてきたが、段々慣れてくるとすぐに寝て現実逃避出来るようになるらしい。気付いたら朝だった。
……しかし師匠はやっぱり忙しいんだな、と思ってしまう。一ヶ月なかったとはいえ俺の専属師匠として過ごしていた訳だが、実際に忙しそうにしているのを見るとそう実感する。
もちろん俺が弟子になってからも緊急の用事が入って一緒に出掛けることもあったが、そこまで忙しくはなかった。多分俺の師事を優先していたからだろう。
師匠が去った翌朝、俺達六人は生徒会室に呼び出されていた。
「「「……」」」
そこには十名の精鋭達がいた。精鋭だと聞かされた訳じゃないが、雰囲気で分かる。
一年で見たことがないということは、二、三年の先輩だろう。今回の襲撃作戦において一緒に戦う人達だ。入学式で見た生徒会長もいる。……生徒会室なんだから当たり前なのか。
「……来たわね」
生徒会室の奥にある席に座った生徒会長が言った。その席の前に二列で長机が並べられていて、残る九人が座っている。俺達から見て左が四人、右が五人だ。俺達の席はないので入り口付近で立っていろということだろう。下級生だからかもしれないが。
「……一人一人の自己紹介は後程してもらうとして、私が生徒会長の筒凱音緒よ。あなた達から見て左が生徒会役員。手前から庶務、書記、会計、副会長よ。で、右が二年生の代表者」
会長は自分の紹介だけして簡単に紹介を済ませる。……ってことは三年の代表、二年の代表、一年の代表が揃っているという訳か。
「……ここに呼ばれた理由は分かってると思うけど、姫神を使って良からぬことを企んでるネオスって組織を潰すための作戦に参加するんだよね。他の国からは候補を含めた国家代表十人で挑むんだけど、生憎こっちはここにいる十六人と雨釣木さんの十七人でやることになってるのよ。っていうのも日本の国家代表って数が少なくて、学園に二人もいるからなんだけど。雨釣木さんが艦隊五隻の内二つか三つを相手にしてくれるから、私達は三つに分かれて襲撃する予定ではあるんだけど、まあ戦力が上手く分散してるのが生徒会と二年生、それからあなた達の三つなのよね。それでいいかしら、弥生月君?」
生徒会長は概要を説明していくと同時に作戦を決めていくらしい。俺に対してそう聞いてきた。
「……俺は国家代表じゃないんで、アリシアに聞くべきなんじゃないんすか?」
だがここで一番実績と評判があるのは俺じゃなくアリシアだ。俺は会長に対してそう尋ねた。
「……何言ってるのよ。世界でも数人しかいない『アルティメイト』の使い手でしかも“アニマル”や“フィッシュ”と違って伝説上の全てを使うことが出来て、アリシアさんの“パラディン”も梨華さんの“セレネー”も真似出来るあなたが」
会長はフッと不敵な笑みを浮かべて言った。俺の『アルティメイト』があれば自分達の能力が使えると知ったからか、二人にジト目を向けられてしまう。
「……使いこなす度合いで言ったら二人には及びませんよ、実際俺は使ったことがありません」
「……ふ~ん? まあいいけど。とりあえずあなた達の中では弥生月君が雨釣木さんの師事も受けてるし男子なんだからリーダーってことで」
「……男子だからって……。今はもう女尊男卑の世の中ですよ?」
俺が肩を竦めると何かを見透かすような視線を向けられるが、俺は苦笑にして返した。
「まあいいじゃない。そんなことより弥生月君」
会長は無駄話はここまでにしようと思ったのか、明らかに話題を転換させる。だが俺はさっきから少し違和感があるのを感じていたので割り込んで言う。
「……会長。俺のことは大河でいいですよ。さっきから名字が言いにくそうですし」
「……え、ええ。ごめんなさいね。それで大河君がリーダーなんだけど、連携とかは大丈夫?」
会長は歯切れ悪く言い、聞いてくる。そんな会長の様子を見て生徒会役員も怪訝そうな表情をしていた。
「はい。昨夜師匠に五人の連携は師事してもらいましたから。俺も五人に合わせるのは簡単だと思います」
俺は言って頷く。……それに“ハリネズミ”以外は俺も使えるから能力も頭に入っている。コンビネーションの点も特に問題はないだろう。仲のいいメンバーが集まったようなモノだからだ。
「……そう。じゃあこれから一週間、私達は授業免除で特別強化合宿みたいなことをやるから。そのまま襲撃作戦に移る感じね。大河君はテレポート使える?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ大河君は合宿中にウチの書記と話し合って転移させる場所を決めといてくれる?」
「……はあ」
俺はいきなり話が進んできたので曖昧な返事をする。……だって何も聞かされてないのにいきなり合宿なんて、無理じゃないか? 用意とかあるし。
「…………ん~。合宿って聞いてる?」
「「「……いえ、全く」」」
話が分かっていないような俺達の様子を見たからだろう、会長が尋ねてきた。俺達は自信さえ持ってきっぱりと答える。
「……そっか。じゃあこれから用意したとして、正午集合にするしかないわね。転移系が使える人が一人増えただけでも楽になるから大丈夫だけど。ってことで皆、正午にまたここ集合でお願い。一年生の六人がまだ用意してないから。ああ、あと水着は持参してきてね。無人島でサバイバル特訓だし」
「……海があるからですか」
会長の言葉に俺は呆れて返す。だがふと五人を見ると少し嬉しそうにしていた。……合宿は遊びじゃないんだが、まあ息抜き程度なんだろう。
「……そう! 海があったら泳ぐしかないでしょ! あ、大河君に見せられる水着じゃない人は買い替えにいってもいいよ」
会長が何故か熱弁したところで、一人の二年生がフンと不機嫌そうに鼻を鳴らして生徒会室を出ていった。……俺達が入ってからずっと不機嫌そうに腕を組んでいた人だ。
「……あ~。無難に競泳水着とかだったのかな? マニアックな人ならそれでも良かったんだろうけど、見せる水着としてはイマイチだもんね」
会長は納得したような顔をしていたが、俺は違うと思う。だってずっと不機嫌そうにしていたし、きっと要件が終わったならさっさと帰るぞ、ということだろう。俺も早く帰って身支度しないといけないし。それに水着も買ってないから買いにいかないと。
「……まあ、俺も水着ないんで買いにいかないとですし、これで戻りますね」
「ええ。ブーメランパンツでお願い」
「……全力で遠慮します」
俺が言って戻ろうとすると会長が言ったので、呆れてツッコんだ。……何人か残念そうに見えたのは気のせいだと思いたい。
こうして、学園でもトップクラスの人達と、急な強化合宿が行われることとなった。




