作戦
「……準備は出来たか?」
師匠は笑いながらも真剣な空気を纏って尋ねる。六人は真剣な表情で頷いた。
「……じゃあ来い。制限時間は五分間だからな」
師匠は大剣を二本構えて言い、先手を五人に譲る。
「雷光の帝」
師匠はきっといいとこまでくるだろうと予想してか、黄と白の大剣を構える。本気モードだ。超怖い。
「「……っ」」
まず、師匠に向かって陽菜と浅島さんが突っ込んでいった。侍と騎士が並ぶ様はさすがに壮観だ。師匠の左に浅島さん、右に陽菜が向かっている。その後ろからはリーヴェンハートさんが突っ込んでいて、その陰に隠れるようにして明音が身を屈めて突っ込んでいるのが見えた。俺は師匠と五人が対峙していた丁度中間ぐらいにいるからな。戦いの全体がよく見える。
梨華は最初、突っ込まなかった。何故かは何か作戦があるからだろうが、ジッと後方で立っている。様子を窺っているようにも見える。
陽菜と浅島さんが、まず師匠と接触した。二人共武器で師匠の重い一撃を耐えた。目を見張るのは両手で日本刀を握る陽菜ではなく、右手の長剣一本で師匠の攻撃を受けている浅島さんだった。もちろん陽菜も上手い。日本刀で受け流し、攻撃をいなすのは様になっている。だが浅島さんは片手でそれをやってのけているのだ。……だとしたらいつ左手に持っている蛇髪女の生首を使うのかさらに不思議になるんだが。
“侍”には受けの技もあり、陽菜に危なっかしい様子はない。浅島さんは少し受け切れないだけで防御が崩れてしまうのだが、技術だけで受け切っているのはさすがと言える。
二人が師匠の攻撃を完全に防御している間に、リーヴェンハートさんが師匠に仕掛けた。リーヴェンハートさんは重い騎士甲冑を纏っているにも関わらず、高々と跳躍した。大きな盾を持っているリーヴェンハートさんが攻撃に徹しているのは、おそらくだが五人の中では実力が高いため防御も高いが攻撃も高いのだ。話し合って攻撃を任せることにしたんだろう。基本スペックは梨華の方が高いんだが、それを補って余りある実力が梨華との差を作り出している。……というかそれなら師匠が姫神としては一番弱い。大体本来の姫神は俊敏性としなやかさが売りだってのに。あんなに力のある姫神じゃないんだが。どんだけ改造してんだよって話だ。
それは兎も角実力によって『ゴッド』である梨華さえも上回るリーヴェンハートさんが攻撃に回ったことにより、五人の攻撃はかなり安定してきている。リーヴェンハートさんは何かの能力を使っているのか飛翔しながら師匠の隙を窺いつつも攻撃を加える。……これは避けている師匠が凄すぎる。リーヴェンハートさんの剣撃を防御に回る二人に攻撃しながら回避してるんだから、異常とさえ言える程だ。二人への攻撃の手を緩めない。リーヴェンハートさんも頑張ってはいるんだが、攻撃を当てられない。しかも隙を見せたらこっちがやられると思わせる程の気迫があって(実際にそうなる)大きな攻撃が出来ない。
「……陽光星天槍!」
二人の後ろから、必殺技らしき技を使って輝きを纏ったまま槍を構えて突っ込んでくる明音が飛び出した。
「っと」
読めていたこととはいえ、師匠は力を込めて二人を強引に押し返すと二本の大剣を交差して明音を迎え討つ。だが師匠も突進し続ける明音を無視出来ないが、飛翔して攻撃してくるリーヴェンハートさんも防御に徹していた二人も無視出来ない。
「はぁ!」
だから師匠は、二本の大剣の能力を解放する。解放すると言っても師匠の炎、水、雷、地、木、風、氷、光、闇の大剣はそれらを放つだけで特別な力を持っている訳じゃない。……それだけでもかなりの脅威なんだが。
雷電と閃光が周囲に思いっきり放たれ、輝きを纏って突進してきた明音と追撃しようとしていた三人が一気に吹き飛ばされる。それでも防御力が高い三人は無事に残った。明音もギリギリで耐えたようだ。
「……月光回復」
そこに梨華が細剣を上に掲げてボソリと呟く。空に出ている月の光が明音に降り注ぎ、見る見る内に傷を回復させていく。……梨華は今回援護に回るつもりだろうか?
「……チッ。回復使えるヤツがいたんだったな」
師匠は回復が使える梨華がいることに舌打ちしつつ、二本の大剣それぞれに雷電と閃光を纏わせる。……どう対処するんだろうな。閃光の方は何とかなるとしても雷電は刃を交わらせるだけで感電してしまう。人が死ぬ程の感電ではないにしろ、上手く防御が出来ないのは言うまでもない。
「……陽菜さん、光の方をお願い!」
「……っ。分かった!」
だが浅島さんには何か策があるのか自ら進んで雷電の大剣に向かっていく。陽菜は指示通り閃光の方に向かう。
「……いいのか? 感電するぞ?」
師匠は念のためか浅島さんに忠告する。
「……ご心配なく」
だが浅島さんはむしろ微笑んで師匠と刃を交える。いや、刃を交えた訳じゃない。師匠の大剣に対して浅島さんは、左手に持つ蛇髪女の生首の石像を突き出している。……何だ?
俺の疑問に答えるかのように、大剣と石像に変化が訪れた。大剣が石像と同じ薄い茶色に変化していき、石像の蛇髪が蠢いて生首の目がカッと見開いた。
「……石化か!」
師匠はその現象を言い当てて、慌てて大剣を引っ込めようとするが、もう遅い。大剣は石像を切り裂いてしまったからか、石化の呪いが発動していて離れても戻らないし、これを狙っていた浅島さんが素早く剣を振るって石化した大剣を叩き割ったので戻ったとしても使いモノにならない。
「……はっ!」
そこに浅島さんより遅いがさらに遅くして突っ込んできた陽菜が日本刀に白いオーラを纏わせて振るう。師匠はオーラが何の効果を持っているかも考えず、防御しようと閃光の大剣を横にして受けに回る。おそらくこれは、“侍”の回数制限がかかっている特殊能力。文字通りの必殺技とされる能力で、万物切断という。その効果はその名の通り一刀でどんなモノでも切り裂くことが出来るというモノで、師匠の大剣はあっさりと陽菜がわざと狙った根元から、切り裂かれて刃のほとんどが地に落ちていく。
だが特殊能力を使って師匠の武器を封じた二人は、技の反動で動けない。浅島さんも追撃は無理がかかるモノだったんだろう。
「……デュランダル・ドライブ!」
「……天牙鋭爛槍!」
そこにリーヴェンハートさんの飛翔しながらの攻撃と再び突っ込んできた明音の同時攻撃が来る。リーヴェンハートさんが振るったデュランダルからドリルのように高速回転した攻撃が放たれ、明音はただ槍に貫通力を一点集中させて突っ込んでいく。
「くっ!」
師匠は呻いて、次の大剣を呼び出す。
「……嵐熔の帝!」
その二つが問題だった。九ついずれでもないが、別に俺は嘘をついた訳じゃない。師匠がここまで使うとは思ってなかったんだが、それだけ本気だということだろう。嵐は雷、水、風の三つの大剣を合わせた上位の大剣。熔とは溶岩のことで、炎と地の二つの大剣を合わせた上位の大剣だ。ここまで本気の師匠は俺も久し振りに見たかもしれない。もっと上位があるのを知っている(実際に身体で体験した)分驚きは少ないが、ここまでいけば押せると思っていたらしい五人のショックは大きかったようだ。
「……師匠のバカ」
俺はジト目で師匠を見ながらボソリと呟く。いくら本気になったからって、ここまですることはないだろうに。……師匠は俺の呟きが聞こえていたのかビクッと肩を震わせていたが。
……大体、五分っていう時間制限ももうすぐ終わる。
「……一斉攻撃して。あとは私がやる」
だが今まで一度も師匠の攻撃を受けずに後方で支援に徹していた梨華が歩いて前に出ると、四人に言った。いつも一貫して無表情だが、全員がショックを受けていた今の状況では頼もしい限りだった。
「……十二勇将!」
一足速く立ち上がったリーヴェンハートさんが、十二勇将全ての力を使うと思われる。神々しいまでの輝きを纏い、物凄い迫力で師匠を威圧している。その程度で怯む師匠でもないが、嬉しそうに笑った。
そして一人ずつゆっくりとだが立ち上がっていき、各々の武器を構える。
「……トゥエルブ・デュランダル!」
大きく背後に回ったリーヴェンハートさんが十二勇将全ての力を纏ったデュランダルを大上段から振り下ろす。
「……煌蓮天穿槍!」
明音が両手に持ったランスに渾身の力を込めて衝撃を散らし真正面から突進する。
「……大和斬り!」
右に回った陽菜が大上段から日本刀を振り下ろす。
「……聖天流星斬!」
左に回った浅島さんが右上と左上から連続で袈裟斬りを放つ。
四方向からの攻撃。
「……夢月幻舞」
さらに梨華による前後左右から攻撃する四人の間四方向から高速で突っ込んでいく攻撃と地面から出てきた梨華による攻撃、上から細剣を携えて梨華が突っ込むという梨華六人の六方向からの攻撃。
四方八方に加えて上下からも攻撃された師匠は、嵐と溶岩を撒き散らして二本の大剣を回すように振るい、全員を一撃で吹き飛ばした。
「……まだまだだな」
師匠は梨華六人と四人を吹き飛ばして少し息を荒くしながらニヤリと笑った。……まあ、師匠が実戦の本気じゃないってのもあるが。
「……隙あり」
背後に現れた梨華によって、細剣で小突かれてしまった。
「なっ!?」
師匠は驚いて振り返る。梨華が背後に現れたことで六人の梨華は消えた。
「……夢月幻舞は六人の自分を出現させて攻撃する幻を見せる技。最初から私は破られてからの隙を狙ってた」
驚く師匠に対し、梨華は淡々と、しかし嬉しそうに説明した。四人にも内緒だったのか、四人も嬉しそうではあったがいいとこ取りされて苦笑していた。
「……これで、私達の勝ち」
梨華が言って師匠は「ぐっ」と呻く。……負けるつもりがなかったんだろうな。
だが、
「…………っ。ざ、残念だが五分を過ぎてたからな。お前達の負けだ」
師匠は圧されつつも時間を見て言い、胸を張った。……大人げないなぁ。
「……こら師匠」
だから俺は師匠に歩み寄って、脳天にチョップをくらわせた。
「いたっ。何をする」
大して痛くもないだろうに師匠はそう言って、姫神を解き頭を押さえ涙目で俺を上目遣いに見上げる。超可愛い。だが俺は騙されない。
「……ちょっとぐらいオーバーしたっていいだろ、第一段階飛ばしてクリアしたんだから」
「……でもルールはルールだし」
大人げないと自分でも分かっているんだろう、師匠は唇を尖らせて反論するも少し弱い。
「……ちょっと待って。第一段階って何?」
だが浅井さんが話に割り込んできたこともあって、師匠は俺の説教を一時的にだが逃れた。
「……師匠のやり方には段階があって、第二段階が五分で一回攻撃を当てる。第一段階は確か、生身の状態で師匠の攻撃を一分間回避し続けるだったか」
「「「……」」」
おそらくそっちじゃなくて良かった、と思っているんだろう五人。嫌そうな顔をしていた。……姫神を展開していてあれだけダメージがあれば、回避し切れなかった場合のダメージは相当だってことを身を以って体験したからだろう。
「……ま、そういうことで俺からクリアでいいよ」
「ま、待て大河。私がやってるんだから私がルール……」
俺が言うと五人は顔を輝かせたが、師匠は負けるのが嫌なのか抵抗する。
「……師匠には充分な説教が必要なようだな」
「っ! ま、待て大河! 弟子のお前に説教されることなんてない!」
「……そう思うなら五人に謝ってごらん、師匠」
俺はにっこりと笑って師匠に謝罪を促す。だが師匠は不満そうに唇を尖らせて「……別に、私が負けた訳じゃないし」とボソボソ言っていた。……これは説教だな。
「……じゃあいこうか、師匠。皆はもう部屋に戻っていいぞ。ゆっくり休んでな」
俺は五人に言って、師匠の首根っこを掴み引きずっていく。……今夜は長くなりそうだ。




