思惑とハプニング
「……上手くいったようだな」
師匠は俺が近付いてきたのを察知していたのか、ニヤリと笑って言った。
「……ま、俺も師匠の弟子ですからね。色々勉強になることは多かったですし。それに、今回は急ぎです。こういうのはホント、自分達で理解した方がいいんですけど」
俺は師匠に言って肩を竦める。
師匠は姫神を解いて元の服装、白のタンクトップにミニデニムという格好になっている。師匠が着るとかなり似合うと思うんだが、些か以上に十代男子には強い刺激を与えてくる。露出も多いしな。だが俺はこんな師匠の無防備さを見慣れているので特に気にすることもない。
「まあな。だがそうも言ってられない。少しでも戦力は多い方がいいからな。あいつらにも、ちゃんと参加してもらわないと」
師匠は俺の言葉に頷いて、しかし険しい表情を作った。……こっちは学生だが、向こうは何を考えているか分からないテロリストだ。世界征服だと言われても納得してしまう気がする。
「……師匠も、あんまり無理しちゃダメですからね? いくら師匠が姫神を改造しまくってるからっつっても、元々が師匠以上の姫神で師匠と同じくらい改造してるヤツもいるんですから。それに使い手が耐えられなくてもいいなら、尚更です」
俺は師匠にも一応忠告しておく。師匠の姫神は本来、この学園にいる誰よりも弱い。神には見初められなかったが、膨大な才能を有しているのが、この雨釣木恵という訳だ。それはもしかしたら、生身で姫神と戦うことさえ出来る師匠へのハンデだったのかもしれない。
「……分かってる。相手が人道的でないなら私も用心してかかるさ」
師匠は俺の不安を読み取ってか、苦笑して言った。……分かってるならいいんだが。
「……それならいいですけど」
「何だ? まだ不安なのか? なら私が抱き締めてやろうか?」
俺が言うと師匠はニヤニヤしながら言って近付いてくる。……からかってるな? こうなったら俺もやり返すぐらいしてやった方がいいのか。
ほんのちょっとの、出来心だった。
「……っ!?」
俺は近付いてきた師匠に自分から抱き着いた。師匠の身長が高いと言っても俺の方が一応高い。五センチ以内の差だが。そのため抱き着くと互いに頬が触れるような位置になる。
「……た、大河? お前一体どういうつもりだ。は、放してくれ」
師匠は俺の予想外の攻撃に戸惑いじたばたする。……師匠のじたばたは軽く周囲のモノが破壊されるレベルなので師匠直々に鍛えられた俺でも師匠が暴れるのを押さえるのは難しい。
「……し、師匠! 冗談ですから暴れないで下さい!」
俺は何とか師匠を押さえようとするが、基本的な身体能力は師匠の方が高いので無駄だ。
師匠を押さえようと無理に抱き締めていたせいで俺と師匠は縺れ合って倒れる形となる。俺が下なので、師匠が俺に覆い被さるような形で。
「「……っ」」
師匠は地面に手を着くようにしているので、俺と吐息のかかる距離、という至近距離になってしまっている。……マズいな。師匠が俺の上になっているから師匠の胸元がより見えやすくなっている。刺激が増して俺も鼓動を早めてしまう。
「……っ。な、何やってるの、大河」
すると梨華が師匠を呼ぼうとしてかこっちに来ていて、俺に責めるような視線を向けてくる。
「……ま、待て! 誤解だ!?」
俺は梨華がかなり怒っているのが分かって慌てて師匠を押し退けようとする。その弾みで、俺の両手の平に柔らかい感触が伝わってくる。……マズい。いや、ヤバい。師匠の胸を揉むような格好になっていて、師匠も顔が真っ赤だし梨華がキレている。
「……天誅」
梨華は姫神を展開すると、俺に向けて光線を放ってきた。師匠に当たらない軌道なのはさすがとしか言いようがないが、俺はどうすることも出来ず(出来たとしてもここは受けておくべきだろう)光線が直撃した。
「……ぐふ」
「……」
俺がやられたのを見て梨華は満足したのか、師匠を連れてそのまま去っていった。……い、命だけは許してくれたようだ。有り難い。
「……俺も行くか」
俺は僧侶を展開して回復すると姫神を解いて起き上がり、皆が待つ方へ向かった。
……後で師匠と梨華に、謝っておこう。
師匠にキレられる前にと、俺はそう決めて歩いていく。
しかしそこにはギロリと俺を睨む皆がいた。……まさか、梨華がさっきのことを皆に言ったとか? そんなまさかな。
だが俺が梨華を見ると少ししてやったりという表情だった。……マジか。まさか俺への怒りを師匠にぶつけて力にしようというのだろうか。確かに姫神は使い手の感情に左右されることもある。
なので姫神を使うのが感情が昂ぶった時だといいっていうのは周知のことだ。だがそこまで激しい感情を抱くことが少ないので、こういう時こそいいチャンスなのは確かだ。
……それにしても、ゴゴゴゴ……という効果音がしそうな程の怒りを見せる六人はかなり怖い。梨華もしてやったりではあったがかなり怒っているようだ。これは後で誤解を解いておかないとマズいな。六人のチームワークは良くなるかもしれないが、俺とのチームワークが上手くいかない可能性がある。
そんなことを考えている俺が来ると、師匠と六人は五分以内に一撃を当てる、という条件の下、修行の続きを開始した。




