ファンクラブ
三ヶ月振りくらい
毎朝毎朝のいつものように、寮内一階にある食堂で朝飯を食べていた。
そこにチラ見やガン見で注目を集めるグループがあった。
姫神学園唯一の男子生徒、弥生月大河ーー俺。
俺を抜いてクラス一の実力者、秋原梨華。
元伝説の吹奏楽部にして戦い方というモノが分かっている将来有望な実力者、浅島美咲。
俺の小学校からの知り合い、暁陽菜。
俺の中学からの知り合い、恵ヶ原明音。
世界最強の姫神使いにして俺の師匠でもある、雨釣木恵。
どっかの国の代表生。
という組み合わせだ。
……そりゃ注目を浴びるよ。
俺は珍獣扱いだし、梨華は俺と同室で男女仲が噂されてるらしいし、陽菜と明音は俺と幼馴染みということで色々聞かれてるし、浅島さんは伝説の吹奏楽部だったし、師匠は世界最強だし、国家代表の娘は初めて見る顔だろうし。まあ、あるいは知ってるだろうし。
「えーっと、色々聞きたいこともあるでしょうけど、まずは事情を説明しまーす」
担任の篠原亜紀が軽い口調で言う。……だから朝からここにいるのか。
「昨日吹奏楽部のホールが襲撃されたのは知ってると思うけど、洗脳みたいな感じでこの国家代表生のアリシア・リーヴェンハートさんが犯人だった訳。んで、最強の雨釣木恵さんが駆けつけてくれて、倒せたって訳なの。雨釣木さんに関しては予定を早めて臨時講師として滞在してもらうから。アリシアさんに関しては、留学生だったし、丁度いいから紹介しとくね。アリシア・リーヴェンハート。ヨーロッパ、フランスの国家代表生よ」
かなり適当だったが、いつもこんな感じなので、特に追及されなかった。篠原先生の人望が為せる技だろう。
「雨釣木恵だ。しばらく滞在するから、よろしくな。部屋は大河と同じだ。私用がある時はそっちを訪ねてくれ」
師匠は食事の手を休め、立ち上がって言った。
……その発言は、余計だった。
俺と同じ部屋だと言ったことが余計だ。男子と同じ部屋だからか、周囲がざわつく。
……特に、今一緒に朝食を食べている皆からの視線が痛い。
配置は俺の左にアリシア・リーヴェンハート、右に秋原ーーじゃなくて、梨華。対面に師匠、その横に二人の幼馴染みがいて、アリシア・リーヴェンハートのさらに左に浅島さんがいる。
三日月型のソファーの内側に丸テーブルがあるんだが、今日初めて使ったグループ用席だ。
「……私はアリシア・リーヴェンハート。フランスの国家代表生で、部屋は大河様ーーじゃなくて、弥生月君と一緒だから」
師匠が座ったのとほぼ同時、タイミングを見計らってリーヴェンハートさんが立ち上がって言った。
……朝もそうだが、何故俺を様付けするんだ? ファンクラブとやらの会員だったとして、そんなに陶酔されるようなヤツじゃないと思うんだが、我ながら。
「質問いいですか? 何で弥生月と同じ部屋にしたんですか? ファンクラブ会員だから?」
一人の女子がやや言葉にトゲを見せながらリーヴェンハートさんに質問した。
「……そうよ。私は会員番号一番! しかも会員証もゴールドなの!」
リーヴェンハートさんは観念したように、しかし堂々と言った。内ポケットから金色のカードのようなモノを取り出している。……何だ、ゴールド会員証って。俺のファンクラブはどうやっている?
「……一番だって!? 幻の全世界で最初の会員……!」
それを聞いてさらにざわめく。一人の女子が大袈裟な反応を見せて驚くが、他も似たような反応だった。
「……七番」
誇らしげなリーヴェンハートさんとは対照に、しゅん、として落ち込んだような雰囲気でゴールド会員証を取り出したのは、梨華だった。……あれ? 梨華も会員だったのか? しかも七番目って。
「……まさか、会員ナンバー十番以内が二人も!?」
誰かが大袈裟に驚いていた。……さっきから誰だ? あと、誰かゴールド会員証の凄さを教えてくれ。
「……ゴールド会員証は、より多くのグッズや写真を買った会員が手に入れられる会員証だ。抱き枕とか、ポスターとかな」
師匠が理解出来ていない俺を見かねてか、説明してくれる。……あんた、俺で金儲けしてたのか。
「……まあそう言うな。弟子入りしてから好きに金使わせてやってるだろ?」
俺の非難の視線を受けてか、師匠が苦笑して言った。
「……俺で稼いでるからか!」
……道理で簡単に使わせてくれる訳だ。
「……私は最近入ったばっかりだな」
「……あたしも」
幼馴染み二人までもが会員証を持っていた。……何故だ。
「……嘘ばっかり。それ、シルバー会員証じゃん」
「「うっ……」」
幼馴染み二人はジト目で指摘され、縮こまる。……シルバー会員証? また違うのが出てきたぞ?
「……ゴールド会員証はベスト百、シルバー会員証はベスト千の会員が持てる」
師匠が付け加えてくれる。……ベスト百って。何人いるかは知らないが、結構な金額じゃないのか? まあ、どれくらいなのか分からないが。
「私、ノーマルだなぁ」
「私も~」
と次々に会員証を取り出していく皆。……おいおい。
「ま、弥生月君のことを調べるなら弥生月大河公式ファンクラブだしね」
俺が視線を向けると、照れたように言った。
……いや、公式じゃないだろ。俺が認めてない。
「……ってか、何でほとんどのヤツが持ってるんだ……」
会員証を取り出しているのは、ほぼ全員。俺が見える範囲で持ってないのは、どうやらファンクラブ創設者の師匠と浅島さんだけらしい。……まあ、俺のことがよく分かるらしいから、同じ学校に来るって分かってるなら普通、なのか?
この件には深く関わらないようにしよう、と固く心に決める俺だった。
「んじゃ、そういうことで~。質問は休み時間とかにやってね~」
篠原先生は無責任に言って、手を振りながら去っていく。
……質問と聞いて、女子達の目がキラリと怪しく光ったのは見間違いだろう。
と思った次の瞬間には、
女子達に詰め寄られていた。




