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かかりつけ医はAIがなればいいと思う

作者: 上条ソフィ
掲載日:2026/08/02

 ある初診のクリニックに行った時のことです。院長先生は本を執筆されている有名な方らしく、先生の本がずらりと置いてあります。人気の高いクリニックのようで、待合室で待っているうちにどんどん混雑してきました。


 やっと順番が来て診察室に入ると、院長先生は大変穏やか且つにこやかに説明してくださいます。Googleレビューが賛否両論だったので心配していたのですが、説明も分りやすいし、高圧的なところはありません。


 ただ一つ。私が話そうとすると、先生は手を前にして私の話を遮ります。


「こうやって話を遮られたのは人生で初めてだな」と内心驚きつつ、先生の話をおとなしく聞きました。私が何か言おうとすると、先生はまた同じように五本指を揃えて、私の顔の前に突き出します。私は言葉を飲み込んで、先生の話に頷きました。三度目に私が話し出そうとした時は、手を前に出すだけでは足りないと思ったのか、「話を聞いて?」と諭される始末。


 その時、私は悟ったのです。ああ、ここは患者が症状を話す場所ではなく、先生のありがたいお言葉を拝聴する場なのだ、と。先生の中にはどうやら台本のようなものがあるらしく、「あなたの場合は典型的な〇〇だから、〇〇しましょう」と最初に宣言された後は、先生の中にあるフローチャートでたどり着いた台本を、最初から最後まで読み上げるといった感じでした。


 その流れを遮られるのが嫌だったのでしょう。だから私が話し出そうとするたびに、手で遮られていたのです。

 症状の一部しか言っていないんだろうけどな、と思いつつ、もう先生の中では診断が固まっているようなので、これ以上何かを言っても多分変わらないだろうなと思い、そのまま「はい。はい。ありがとうございました」とお話を拝聴して待合室に戻りました。


 疑問が解決しないまま次の予約を取り、お会計を済ませ外に出ました。何せ先生のお話で疑問が解決しなかったので、私は今の時代、皆が取るであろう行動に出ました。Google検索です。

 そこで出てきた情報をもとに、「先生が説明していたのはこの話だったんだな」と理解を深め、さらに対策法を自分で調べて、納得した次第です。

 そして思ったのです。「これさ、もうAIでいいんじゃない?」と。


 お医者さんが忙しいというのは理解できます。人気のクリニックであれば患者は続々とやって来ますし、その一人一人の話をいちいち丁寧に聞いていたら、時間内に患者は裁ききれないでしょう。そして私の症状は「典型的」と言うくらいだから、先生はパッと見ただけで分ったのかもしれません。

 そういえば、先生、私の患部に目もやらなかったなあと気づいたのは、家に帰ってからでした。


 患者の話は長い。それはごもっともです。ですが、患者というのはそもそも体の構造に関しては素人であって、何がその症状に関連しているのか、関連していないのかなど、分かるはずがありません。ゆえに、関連のありそうなことを先生にお伝えするわけですが、先生的には「そんなこと聞いてねえんだよ」とか「それは関係ねえんだよ」ということも多々あるでしょう。


 そもそも、症状がいつ出たかという基本的な問いにだって、答えられる人がどれほどいるか。交通事故に遭ったり、誰かに刺されたりするなど、ドラマチックな変化があれば、「この時ですっ!」とピンポイントにお伝えすることはできますが、慢性的な体調不良と言うのは、少しずつ体を蝕んでいくものです。


 そんなクダクダした話を聞くのが嫌だ、というお医者さんの気持ちも分らないではありません。お医者さんというのは、医師になれるくらいですから頭の回転が速い人が多いです。が、その分、気が短い人も多いような気がします。こう言っては大変失礼ですが、コミュニケーションが好きそうなお医者さんに今まで会ったことはありません。メディアにガンガン出るタイプの方(ホームページの目立つところに自分の写真を載せていたりする)でない限り、言葉のキャッチボールを楽しむタイプではないと言いますか。

 言葉のキャッチボールというのは、人間関係を円滑にするには欠かせないものですが、一方で、モノトーンのスピーチよりも倍の時間がかかる、というデメリットがあります。そして、医者には時間がない。


「ええ! それすっげーやばいじゃないですか!」

「しんどいっすねー」

「パネエ」

 といったチャラい合いの手を入れられても困るわけですが、かといって全然話を聞いてくれないのも困るものです。その辺りのバランスが難しいのでしょう。


 だからこそ、AIの出番だと私は思います。


 チャットボットだったら、いくら話をしても、「こいつまた同じ話してるよ」とか、「その話全然関係ねえんだけど」といった態度を取ることはありません。適当な相槌もしてくれるでしょうし、気持ちに寄り添ってくれます。


 患者は体の構造に関して素人でありますが、話すことについても素人です。病院やクリニックといった特殊な空間で、自分でもいまいちよく分っていない不調について、『先生』という立場のお方に話をするというのは、結構ハードルが高いものです。


 話は少し変わりますが、知人に「ネタになることがあったらなるべく多くの人に話をする」という人がいます。私は飽きっぽいタチで、同じ話を繰り返してお客さんに話さなければいけない職に就いていた時は、気が狂うかと思いました。ですが、知人は「繰り返し人に話すことで、話がどんどん上手くなっていくのがわかる。相手の反応を見て、ここは反応が良かったというところはちょっとオーバーリアクションに話し、ここは反応が薄かったというところは省いてとかして、工夫を繰り返す過程が好き」と言います。

「お笑い芸人か」と私は思わず突っ込んだのですが、知人のやっていることはまさに、話が上手くなるコツです。プロの芸人さんだって、人前でネタを披露する前には後輩たちを居酒屋に呼んで話を聞かせると言います。話のプロの彼らだって、一発本番で人に理解してもらうように話をすることはできないのです。


 だから、AIに叩き台になってもらえばいいと思います。

 体に不調があると、不安になります。ネットで検索すると、たとえ発疹が一つ出ただけでも、「それは重大な病気のサインです!」などと煽り立てる記事が出てきたりします。ですが、人に話をしたり、病院で先生に話を聞いてもらうと、それだけで落ち着くこともあります。


 プロに聞いてもらうのが一番ですが、先生は忙しい。だからそれをAIに代わりにやってもらうのです。AIは絶対に飽きることがないですから、何度も繰り返し繰り返し話をすることで、何が言いたいのかをブラッシュアップできます。その結果を、簡潔に先生に話せばいいのではないでしょうか。


 私はAIボットとお話をすることがないのでいまいちよく分りませんが、AIを使ったことがある人のお話を伺うに、AIは話を要約してくれるそうです。「つまりあなたは、今こう思ってるんだよね?」と。

 これがとても貴重なリソースになると私は思います。もしAIが、患者の長い話を要約して、お医者さんのところに送ってくれれば。医者はその要約をもとに患者と改めて話をすればいい。そうすれば、ヒアリングの時間はぐっと少なくなりますし、お互いにストレスがかからなくなると思います。結果的に先生は治療に専念でき、生産性も上がるでしょう。


 これができれば、患者は「先生、話聞いてくれなかったの」と思い、医者としては「すっごい患者の話を聞いたんだよね」と思ってお互いに不満を募らせるようなミスマッチはなくなります。


 そもそも、医療機関の口コミを見ると、大体三つの悪口が書いてあります。


 1. 院長先生の感じが悪い

 2. 受付の人の感じが悪い

 3. 看護師や歯科衛生の感じが悪い


 そういった不満系の口コミというのは具体的なことが書いてあることが多く、それを見ていくと、だいたいこの『感じが悪い』というのは、「話を聞いてくれない」とか、「軽くあしらわれた」とかいうところに行き着きます。

 人は他人に大切にされないと傷つく生き物です。逆を言えば、自分の話をきちんと受け止めてもらえたと感じれば、安心感も信頼感も増すということです。


 ではAIをどう活用するか。


 一般的なAIでは不十分だろうと私は思います。海外のニュースなどで、AIと話した結果に自ら命を絶ってしまったなんていう悲しい事件もありますから、商業用としてリリースしているAIではなく、医療に特化したAIが必要でしょう。なおかつ、監督者には人間がいること、そして最終的にはお医者さんに診てもらうことを前提としたシステムであること。そして、緊急性の高い患者には、アラートが鳴って人間が即座に対応できるような仕組みにしたほうがいい。


 海外では、どんな体調不良でも、一般開業医(GE)に一度診て貰わないと専門の病院に行けないシステムを採用している国があります。その先生を通さないと、紹介状を書いてもらえません。


 このGEに相当するかかりつけ医を、AIにするのです。


 例えばお腹が痛いとしましょう。ですが、胃が痛いのか、腸が痛いのか、それとも膵臓腎臓肝臓のどれかなど、素人には分かりません。ですが、AIのかかりつけ医に相談できれば、「うーん、何科に行こうかな?」と迷うこともなくなります。


 AIかかりつけ医は、自宅で話して適切な医療機関を紹介してくれて、予約もしてくれるシステムでもいいし、病院でやってもいいと思います。そもそも、病院の待ち時間ほど人生で無駄な時間はありません。混むところでは何十分どころか、何時間待ちというところも多く、「ここは夢の国のアトラクションか」と真顔で突っ込みたくもなります。

 その間、患者たちは何をしているかというと、いつ呼ばれるか分らないので席を立つこともできず、本を読むかスマホをいじるかの二択しか、選択肢はありません。周りにいるのは自分と同じく体調不良を訴える人ばかりで、暗い雰囲気の待合室の狭い椅子にずっと座っているのにも限界があります。そしてちょっとお手洗いに、などと席を立とうものなら、椅子取りゲームかのごとく帰って来た時には席がない、ということもあります。


 この時間を利用して、AIにヒアリングをさせればいいのではないでしょうか。ちょっとした勉強部屋の個室くらいのところにパソコンを置いておき、そこに患者を放り込む。

「ここでお話を聞かせてもらいますので、ご自由にお話しください。お好きなだけ時間をとっていいですよ」とにこやかにドアを閉じれば、あとは患者が好きに話すでしょう。

 一日に何度も同じ話をする気力がある人はそういないでしょうから、先生に会う頃には不安も落ち着いているかと思います。そうすれば、不安とイライラを募らせながら長時間待ち、やっと回って来た順番にいきり立ち、先生にそのすべてをぶつけようとする患者も減るでしょうし、そういった患者にうんざりして話をぶった斬る先生も減るでしょう。


 そして先生が診断を下した後は、またAI部屋に通して詳しい説明と今後の流れを説明させればいいのです。質問も適宜受けつつ、患者の悩みや相談にも乗る。そもそも人の悩みなど、大差はないものです。Google検索にキーワードを打てば、候補がずらりと出てきます。大体みんな同じようなことを聞いているんだな、自分が考えることなんて他の人も考えているんだなと、私はGoogle検索を使うたびに思います。


 このシステムは雇用も生むと思うのです。以前、「自分は学校の先生をしていたけど、もう学校の先生はきつくてできない。でも教えることが好きだから、進学塾の先生になった」という話を聞いたことがあります。世の中で『先生』と呼ばれる立場の人は、常にプレッシャーと戦っています。心が折れて職を辞し、全く関係のない仕事に就くのは、貴重な人材の流出です。

 医療特化AIの監督者の仕事ができれば、もう年齢的にお医者さんをするのは無理だが医療には携わっていたいという人も働けますし、自身が体調不良や妊娠出産でフルタイムでは働けない人も、継続して働けるのではないかと思います。


 貴重な休日を使ってわざわざこんなエッセイを書くほどには、冒頭のクリニックに心をざわつかせているわけですが、こういったシステムが将来的にできないものかと願っています。

 理想を言えば、病院間、地域間でかかりつけ医AIの情報をシェアできたらいいでしょうが、セキュリティの問題やら個人情報の問題やらと、いろいろな声が上がってくると思います。

 ただ、私はマイナポイント欲しさにマイナンバーカードを作った人間で、人というのは、明らかなメリットさえあれば多少不都合なことがあっても行動する生き物だとも思います。

 そもそもプライバシーや個人情報保護なんて、SNSで世界に向けてプライベートを発信している現代人にとっては、ダブルスタンダードでしょう。

「先生の話聞いてくれない問題」と「病院の待ち問題」が解消できるのであれば、多少の個人情報は妥協したいと私は思います。

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