表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

そうでなければ起こりそうもない出来事。

体育館の片隅でぼんやり座っている私をよそに、クラスメイトたちはプールで楽しそうに水をかけ合ってはしゃいでいる。

私? 別に楽しくなんてない。

九月の暖かい空気が肌に心地よいのは確かだけど、授業そのものは相変わらず退屈だ。気づけば意識はふわふわと漂い、想像の世界へと逃げ込んでいた。

水面に反射する光、クラスメイトたちの表情が作り出す雰囲気……完璧な一枚を切り取るための条件を、頭の中で勝手に組み立てていく。

そのとき、視界に“フレーム破壊要因”が映り込んだ。

さっき私の視界を塞いだ、あの山田くんである。思わず顔がしかめっ面になる。

「……だめだ、これじゃ使えない」

誰にも聞こえないように小さくつぶやいた、その瞬間。

「まこ〜〜〜!」

遠くから私の名前を呼ぶ声がした。

意識が現実に引き戻される。声の主は、私の“自称”親友、鈴木結衣。

「まこーーーっ!」

さっきよりも大きい。うるさい。

「……なに、鈴木」

わざと感情を殺した声で返す。が、

「おいでよ、プール入ろうってば!」

彼女のテンションは相変わらず天井知らずだ。

私は首を横に振る。百回くらい振る。

本当は泳ぐのが嫌いなわけじゃない。八歳の頃までは大好きだった。

でも今は違う。あの、女子の体ばかりジロジロ見る豚みたいな男子どものせいで、泳ぐのが心底嫌になった。

鈴木がじーっと私を睨む。こわ。

と思った瞬間、背後から影が近づいてきて——

ふわっ。

体が浮いた。

空が、やけにきれいに見えた。

次の瞬間、私はプールに投げ込まれていた。

——ばしゃん!

水面から顔を出すと、鈴木が満足げにニヤニヤしていた。

「……ば、ばか」

小声でつぶやく。

そんな私の心の中の大荒れとは裏腹に、鈴木はぷかぷか近づいてきて、

「最初から入ればよかったのに、まーちゃん」

その子供みたいな口調と表情。

“まーちゃん”。小学生の頃から呼ばれているあだ名だ。嫌いじゃないけど、公の場ではやめてほしい。

彼女は私が立ち上げた写真部の部員でもある。地味な部活だけど、意外と人はいる。六人。うち二人は幽霊部員だけど。

「ほらほら、もうすぐ授業終わるよ! 部活の準備しなきゃ!」

「じゃあなんで投げたのよ……」

言いかけてやめた。

「……もういい。着替えてくる」

「そんな怒らないでよ〜」

「別に怒ってない。ただ、余計な手間が増えただけ」

そう言いながら更衣室へ向かい、急いで着替えた。

その後、鈴木と一緒に校舎の東棟にある部室へ向かう。遠いから毎回面倒だけど、部長として、そして写真好きとして行かないわけにはいかない。

部室に着くと、なぜか妙なざわつきがあった。

いつものメンバーは揃っている。

書記の山田壮太。オタク。さっきの“視界の邪魔者”。

……まあ、あれは冗談だけど。

次に会計の小路晴樹。山田の親友で、彼よりはずっとまとも。

そして部員の綾芽のどか。控えめだけど、誰よりも貢献してくれる子だ。

そののどかが、珍しくそわそわしていた。

「わ、私……その……人を一人、誘ってみたの……」

「も、もえぇぇぇ!!」

隅の二人のバカが騒ぐ。

「うるさい!」

怒鳴ろうとしたそのとき——

コン、コン。

部室の扉がノックされた。

静まり返る部室。私がそっと扉を開けると——

そこに立っていたのは、藤野恒生。

中学時代のサッカー部のエースで、今も学校でトップクラスの人気を誇る男子。

「えっと……ここ、演劇部で合ってる?」

誰も返事ができない。

私たちはただ、のどかを見て、藤野を見て、またのどかを見て、藤野を見て——

のどか

藤野

のどか

藤野

のどか

藤野

延々と繰り返す。

あの控えめで人見知りののどかが、藤野恒生と同じ空間にいる。

それどころか、彼を部室に連れてきた。

……これは、もはや事件だ。



第一章 終了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
すごいっっ! これには、素晴らしいものになる可能性が十分にあります!次の章はいつ公開されますか?短かったかもしれませんが、待ちきれません!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ