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第7話 中心への道

街は、もう日常ではなかった。


走る俺の横で、信号が意味を失っている。

赤でも人は渡り、青でも車は止まらない。

誰もが焦っているが、理由を知らない。


俺だけが知っている。

この混乱は、始まりにすぎない。


案内役の声が、頭の中に直接響いた。


――地下へ行け。


駅へ向かう階段の前で、足が止まった。

そこは、何百回も使った場所だ。

だが今は、入口の奥が暗すぎる。


電灯がついていない。

いや、ついているのに、光が届いていない。


階段を下りると、空気が変わった。

音が吸い取られるように消える。

人の気配もない。


改札を抜けた瞬間、世界が歪んだ。


床が、ゆっくり回っている。

円ではない。

螺旋だ。


「……ここか」


――まだ入口だ。


ホームの端に、案内役が立っていた。

だが、今までと違う。


影が、複数に分かれている。

人の形を保っていない。


「お前……何者だ」


俺の問いに、案内役はすぐに答えなかった。


「かつては、君と同じだった」


「“見てしまった”人間か」


「そうだ。

 選択を疑い、世界の構造に触れた」


背筋が凍った。


「じゃあ、俺の行き着く先は……」


「私だ」


その言葉は、はっきりしていた。


「中心に到達した者は、

 世界を支える機能になる。

 人ではなくなる」


ホームの奥で、空間が裂けた。

線路が、下へ下へと落ちていく。


底が見えない。


「拒否すれば?」


「君一人では済まない」


案内役は淡々と言う。


「犠牲は街へ、国へ、世界へ広がる。

 それが今、始まっている」


俺は歯を食いしばった。


今までの選択は、

誰かに押し付けるものだった。


だが今回は違う。

逃げ道は、完全に塞がれている。


「妹は?」


「回復する。

 君が進めばな」


「……そうか」


俺は、裂け目の縁に立った。

風が、下から吹き上げてくる。


恐怖はあった。

だが、それ以上に――怒りがあった。


「ふざけるなよ」


案内役を睨みつける。


「世界が壊れる設計なら、

 最初から間違ってる」


案内役は、初めて黙った。


「それでも、行く」


俺は言った。


「誰かを犠牲にする役割を、

 もう他人に押し付けない」


一歩、踏み出す。


落下ではなかった。

体が、ほどけていく感覚。


視界が白に変わる直前、

案内役の声が聞こえた。


――それでもなお、

――君は選んだ。


そして、

世界が反転した。

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