第6話 世界が壊れる日
その日は、朝からおかしかった。
目覚ましが鳴らない。
三秒前に目覚めることもなかった。
俺は、完全に寝過ごした。
時計を見ると、もう昼を回っている。
今まで一度もなかった異常だ。
慌ててテレビをつけると、画面は緊急速報に切り替わっていた。
――大規模事故発生。
――原因不明。
――複数地点で同時多発。
心臓が強く鳴った。
スマートフォンには、着信が溜まっている。
会社、病院、知らない番号。
最後の一件を開いた瞬間、
画面に案内役の顔が映った。
《予定がズレた》
《君が“自分を差し出す”決断をしなかったからだ》
「何をした……」
声が震えた。
《犠牲の総量が溢れた》
《これ以上、個人に押し付けられない》
画面が切り替わり、街の映像が映る。
駅、交差点、ビルの屋上。
事故、転落、暴走。
俺は叫んだ。
「止めろ!!」
《止める方法は一つしかない》
案内役は、初めて感情を見せた。
《君が中心へ行く》
「……俺が?」
《君は“見てしまった人間”だ》
《螺旋を認識した存在は、
いずれ“重り”になる》
理解した。
今までの犠牲は、警告だった。
世界は、俺一人のために耐えていた。
「妹は……?」
《助かる》
《だが、君が選ばなければ、
次は家族では済まない》
画面が切れ、窓の外で爆音がした。
遠くで黒煙が上がる。
俺は震える手で、玄関を開けた。
外の空が、歪んでいた。
雲が螺旋を描いて回っている。
街のあちこちで、人が立ち止まり、空を見上げている。
だが誰も、螺旋に気づいていない。
聞こえたのは、案内役の最後の言葉。
――中心へ来い。
――さもなくば、世界が先に壊れる。
俺は走り出した。
選択肢は、もうなかった。
逃げるか、立ち向かうか、ではない。
俺が消えるか、世界が壊れるか。
それだけだ。
そして気づく。
これが、
最初から決まっていた結末への入口だということに。




