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第4話 案内役

その男は、突然現れた。


翌日の帰り道、俺はいつもの公園を通っていた。

近道でも安全でもない。ただ、毎日通っているという理由だけだ。


ベンチに、見覚えのない男が座っていた。

黒いコート、年齢不詳。

こちらを見て、最初から俺を待っていたように立ち上がる。


「やっと会えたな」


声を聞いた瞬間、分かった。

昨日の電話の声だ。


「……案内役、か」


男は小さく頷いた。


「名前は必要ない。

 君がつけてもいいが、意味はない」


俺は距離を取った。

だが逃げようとは思わなかった。

逃げても、別の形で会うだけだ。


「何者なんだ。人間か?」


「昔はね」


その答えは、妙に現実的だった。


男は公園の奥を指さした。

誰もいない遊具。

夕暮れの中で、影が長く伸びている。


「君が見ている螺旋は、特別なものじゃない。

 誰もが通っている。ただ、気づかないだけだ」


「じゃあ、俺はなぜ気づいた」


男は少し考えてから言った。


「選択を疑ったからだ。

 普通の人間は、結果を疑う。

 君は、選択そのものを疑った」


胸の奥が冷えた。

思い当たる節がありすぎる。


「この世界はな、

 最初から結果が決まっているわけじゃない」


「じゃあ、変えられるのか?」


男は首を横に振った。


「結果の総量が決まっている。

 不幸も、犠牲も、痛みもだ。

 誰が引き受けるかが、選択で変わる」


俺は唇を噛んだ。


「それじゃあ……俺は、人を犠牲にして生きてるだけじゃないか」


「違う」


男の声は、はっきりしていた。


「君は、犠牲が移動していることを見ているだけだ。

 見えない者も、同じことをしている」


風が吹き、木の葉が揺れた。

世界はいつも通りだ。

それが、何より残酷だった。


「教えろ」


俺は言った。


「この螺旋の先に、何がある」


男は、初めて表情を曇らせた。


「中心だ。

 すべての選択が、一つになる場所」


「そこへ行けば?」


「選ばなくて済む」


その言葉に、心が揺れた。


選ばなくていい。

誰かを犠牲にする必要もない。


「だがな」


男は続けた。


「そこへ行った者は、

 二度と“戻れない”」


「死ぬのか?」


「分からない。

 少なくとも、人間ではなくなる」


沈黙が落ちた。


「君は、まだ入口だ。

 次の選択は、君自身に関わる」


男は背を向け、歩き出した。


「次に会うとき、

 君はもう、今の君じゃない」


その姿は、公園の出口で消えた。

最初から、そこにいなかったかのように。


俺は一人、立ち尽くした。


選ばなくていい場所。

だが、戻れない場所。


――それでも。


胸の奥で、螺旋が確かに回り始めていた。

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