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第3話 逃げ道のない問い

翌朝も、俺は目覚ましの三秒前に目を覚ました。

だが今日は、はっきりと違っていた。


胸が重い。

何かが起こると、分かっている。


スマートフォンを見ると、昨日の着信履歴は消えていなかった。

知らない番号。

通話時間は「0秒」のまま。


会社へ向かう途中、何度も足が止まった。

行かなければいい。

今日は休めばいい。

そう思うたびに、頭の奥で冷たい声が響く。


――逃げても、別の形で起きる。


結局、俺は会社に着いていた。

エレベーターの鏡に映る自分の顔は、妙に落ち着いて見えた。

恐怖よりも、諦めに近い。


午前中は何事もなく過ぎた。

それが逆に不気味だった。


昼過ぎ、社内がざわつき始める。

営業部の若手が倒れたという。

過労か、持病か、詳しいことは分からない。


俺は立ち上がれなかった。


――違う。これは「大きい選択」じゃない。


その瞬間、ポケットのスマートフォンが震えた。

今度は、はっきりと表示された名前。


《非通知》


通話ボタンを押すと、落ち着いた男の声がした。


「初めて話すね。でも君は、もう知っているはずだ」


「何者だ」


「案内役だよ。君が気づいてしまった世界の」


声は淡々としていた。

感情がないわけではない。

ただ、迷いがなかった。


「君は今、螺旋の途中にいる。

 引き返すことはできない」


「じゃあ、どうすればいい」


一瞬、沈黙があった。


「問い続けることだ。

 自分が“選んでいる”のか、

 “選ばされている”のかを」


通話はそれで切れた。


直後、社内放送が流れた。

倒れた社員は、意識を取り戻したという。

安堵の空気が広がる。


だが、俺は知っていた。

帳尻は必ず合わされる。


帰宅途中、踏切の前で足を止めた。

警報音が鳴り始める。


渡るか、待つか。


くだらない選択だ。

そう思った瞬間、頭の中に言葉が浮かんだ。


――どちらでも、誰かが代わりに払う。


俺は、一歩だけ前に出て、立ち止まった。


電車は通過した。

何も起きなかった。


その夜、ニュースで知る。

遠く離れた街で、事故があったことを。


俺は画面を見つめながら、静かに確信した。


この世界では、

答えを出すこと自体が、次の悲劇を呼ぶ。


それでも、問いをやめることはできない。


なぜなら――

問い続ける者だけが、

螺旋の形を見ることを許されているのだから。

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